なんか、思ってたのと違ぁぁぁう!

ヒヨコ

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2,兄の気持ち

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薫は知らなかった。

自分の容姿がとても美しいことも。
男子からも好かれていたことも。
兄が、ブラコンなことも。

すべて知らなかった。



透き通る白い肌。その肌に映える赤い唇。宝石のようにキラキラした大きな瞳。肩まである金色に近い茶髪の髪には、天使の輪ができている。
背中には羽が生えているのではないかと言われるくらい、天使のような容姿を薫はしている。

でも薫は、自分の容姿は中の上だと思い込んでいた。


そんな薫は、女子だけでなく男子からもモテていた。
『薫様をお守りし隊』の他にももう一つ、ファンクラブがあった。それは『薫様を遠くで見つめ隊』というファンクラブだ。

『薫様をお守りし隊』のメンバーは、ほとんど女子なのに対して、『薫様を遠くで見つめ隊』はほとんど男子だった。

あるときは勉強する姿を。あるときは走る姿を。またあるときは更衣室で着替える姿を。

色んなところで、男子から拝まれていたのだ。

男子と関わりがなく、友達がいない。と、嘆いていた薫だったが、
友達を通り越した感情を、多くの男子から持たれていた。

そんな男子たちが何故、薫を遠くから見つめるだけで、関わろうとしなかったのかというと、原因は薫と1歳差の兄にある。

実質、薫に話しかけ友達として距離を縮めようとした者は沢山いた。
しかし、薫の兄によって、その者たちはボコボコにされた。「薫に近づくんじゃねえぞ」そんな言葉を残して。


兄はブラコンだった。
薫を誰にも見せたくない。僕だけを見てほしい。そのために監禁しそうな勢いな、ヤンデレな兄だった。
でも、「僕は薫の兄だ」と自分に暗示をかけ理性を抑え、薫の前ではお手本となるいい兄を演じていたのだ。



☆ ☆ ☆


僕、三上透(みかみとおる)は
薫の1歳上の兄だ。


その日はいつものように、一人用のソファーの上に座り、携帯で薫フォルダーに保存してある薫の可愛い姿を拝んでいた。

コンコン。
「兄さん、ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
ノックの音に続いて、薫の声が扉の先から聞こえた。
僕はすぐさま、携帯の電源を切り、
だらけた口を閉じ、いつもの様に凛々しい顔に戻す。

「どうした?相談ならいつでも乗るよ。」

部屋の扉を開けた薫の顔は、いつもより暗かった。長い睫毛は伏せられ、いつも上がっている広角が下がっていた。

「ねぇ、兄さん。小さい頃のように兄さんの膝に乗って話してもいいかな。なんか…ね、とても甘えたい気分なんだ…」
消え入りそうな声で、恥ずかしそうな顔をした薫が言った。

なんだと?!薫から甘えられるなんて何年ぶりだろうか…
どうしよう、俺の理性。保ってくれるだろうか。

内心とても、焦っていた。
しかし、薫に悟られないように、いつもの顔で
「いいよ。おいで」
と言って、自分の膝をとんとんと叩いた。

膝の上に座った薫はとてもいい香りがした。その香りで何度も理性が飛びそうになったが、なんとか持ち堪えた。
ギューっと抱きしめたい気持ちを抑えて、壊れ物を扱うように優しくサラサラな髪を撫でる。


「あのね、相談っていうのがね───」

ファンクラブのこと。
教師のこと。
友達ができないこと。

話し終わった薫は、「どうしたらいい…?」弱々しい口調で言った。


「友達がいないんだ…」そう薫が話したとき、とても心が痛かった。

友達ができないのは、僕のせいだ。薫が友達をつくる機会はたくさんあった。
しかし、それを僕は全て潰した。
そのせいで、薫は悩んでいる。そう思うと、心苦しかった。

それに対して、僕を頼ってくれて嬉しい気持ちもあった。このまま、女子という檻の中に囲まれ、僕だけを頼ってくれればいいと思った。


薫には僕がいるよ。

そう言いかけたとき、

「ねぇ、その相談。お母さんも聞いていいかしら?」
ノックもせずに、勝手にお母さんが部屋に入ってきた。
そして、薫はお母さんに、もう一度同じように相談した。


僕は、言いかけた言葉を呑み込んだ。



そして何ヶ月か経った頃。
薫が青条学院を受験すると言った。

驚いた。てっきり、僕と同じ進学校を受験すると思っていた。それに、青条学院は全寮制だ。ほとんど会えなくなる。

僕は僕と同じ進学校にするよう説得しようとした。
でも、それは薫の気持ちを押しつぶすことになる。

ふと、この前の薫の顔が思い浮かんだ。
友達がほしい。と言った薫。
そんな薫の願いを、僕が台無しにした。

僕の気持ちばかり押し付けて
、僕は薫の幸せを奪っているんだ…




「ねぇ、透ちゃん。私の話聞いてくれる?」



そんなある日、僕と母さんしかいないリビングで、母さんから言われた。

「何?」
いつもふわふわしている母さんが、真面目な表情をしていて、不思議に思った。

「透ちゃんは、薫ちゃんのこと好き?」
いきなり言われたその言葉に、僕は固まってしまった。

「私はね、薫ちゃんのこと大好き。
勿論、透ちゃんのこともおんなじくらい好き。」

僕は、何て返せばいいか分からなかった。

「薫ちゃんは自分で青条学院を受験することを選んだ。青条学院に行ってライバルをみつけるんだ!って言っていたわ。透ちゃんは薫ちゃんのこと大好きだから、離れるのは悲しいと思う。勿論私も悲しいわ。でも薫ちゃんの決めた人生だから、私は応援することしかできない。だから、透ちゃんも一緒に応援してあげましょ?」
そう言って、母さんは僕の手を握った。
その手はとても冷たかった。

「透ちゃんには、薫ちゃんだけじゃなくて、もっといろんな人を見てほしい。
透ちゃんは素敵な子だから、いろんな人から好かれるわ。」

握られている手を見ていた僕は、母さんへと目線を向ける。
母さんは、いつものように優しく微笑んでいた。
その顔を見ていると、何故か涙が止まらなくて、久しぶりにお母さんの腕の中で泣いた。



その日から、僕は薫を応援することにした。



そして、薫は見事青条学院に合格したのだった。




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