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冬の珊瑚礁
色んな海を見に行きたい
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テーブルに付き、少女と父親、母親は遅れて席に座った。飲み物はひとつだけ客に出されて、軽い話し合いでも行うのかと想像したが……。
「私たち、駆け落ちします」
「……」
少女が言い放つ。私たち……というのは少女本人と、席の形からして少女の隣に座る人物の二人だろう。飲み物を出して貰えた、ただひとりの客人のことだ。
急に駆け落ちをすると言われた少女の両親は、二人とも口を開けて固まっていた。
「ではもう行きますから」
少女が席を立つ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
ようやく母親が言葉を言う。しかしそれを父親が手を添えて引き止めていた。奇妙な光景だ。
「旅人さん、行きましょう?」
「えっ。あ、はい……?」
奇妙だ。飲み物を頂かずに席を立つなど礼儀知らずだというのに、そんなものは良いから早く外に行きたいと少女が急いている。それに、両親の前で「旅人さん」と呼んでいるのも駆け落ち相手には相応しくないのに。
誰も追いかけて来ずに二人だけでコテージを出てしまった。途端に冬の風が冷たく当たり、目も開けられないというのに少女は笑っていた。
「旅人さんって貴族の人?」
「……」
答えない。風が強まり、波が荒れ始めているのを良いものと思って見ていたい。
「あはは。別に何でも良いの。ねえ、海が好きなんでしょう? このまま色んな海を見に行きたい!」
少女は駆け落ち相手の腕を引っ張り、早く行こうとどこかへと連れ出した。
奇妙なことが幾つもある。まずは少女が「色んな海を見に行きたい!」と言ったにも関わらず、海岸を背にどんどん陸地の方へ進んでいくことだ。
それから二人は夜になるごとに宿を取って過ごすが、代金はいつも少女の一言で済まされた。後で尋ねてみれば支払いは父親から出されていると言う。これもどういう訳かおかし過ぎる。
「ねえ、そろそろ名前を教えてよ。旅人さん」
「教えない」
「えー」
暖炉の灯った小さな部屋で、少女はベッドに寝転び駄々をこねている。そうする少女も自分の名前は教えようとしない。わざわざこちらから聞かないからでもあるが。
「じゃあさ、ゲームしようよ。私と旅人さんで順番こに質問していくの。楽しそうでしょう?」
「やらない」
「やって」
「嫌だ」
少女は気に入らないことがあるとブーブーと言う。そしていつも自分で笑い出す。
「子豚のブーブー!」
「……」
「ブーブー! あはは!」
何度か繰り返し、仕舞いには腹を抱えてひとりでいつまでも楽しそうだ。これがそこまで笑える事なのか自分には分かりかねる。
「旅人さんもやって!」
「……はぁ」
仕方がないから……暖炉の薪を割って火を小さくした。さすがに少女も、そろそろ寝ると分かるんだろう。ブーブー言うのをやめて、大きなあくびを堂々と鳴らしていた。
部屋の明かりが弱まり、しかしカーテンは閉めない。少女が暗闇は怖いと言うからだ。薪はまだ赤く燃えているが、それが消えてから目覚めるのが怖いのだと言っていた。
「旅人さん一緒に寝ようよ」
「いらない。おやすみ」
ベッドは少女に渡し、男の方はソファーか椅子に座って目を閉じた。
眠る前、一体何が駆け落ちだったのかを考えるのはもう飽きた。おそらく少女の好奇心に付き合わされただけだろうと、早いうちに腑に落ちた。
「旅人さん、ありがとう」
「……」
少女はなぜか毎晩感謝を伝えてくる。そしてすぐに寝息を立てる。
それがいつまで経っても慣れなかったし、夜が来なければ良いのにと思うほど嫌いだった。
(((次話は明日17時に投稿します
Threads → kusakabe_natsuho
Instagram → kusakabe_natsuho
「私たち、駆け落ちします」
「……」
少女が言い放つ。私たち……というのは少女本人と、席の形からして少女の隣に座る人物の二人だろう。飲み物を出して貰えた、ただひとりの客人のことだ。
急に駆け落ちをすると言われた少女の両親は、二人とも口を開けて固まっていた。
「ではもう行きますから」
少女が席を立つ。
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
ようやく母親が言葉を言う。しかしそれを父親が手を添えて引き止めていた。奇妙な光景だ。
「旅人さん、行きましょう?」
「えっ。あ、はい……?」
奇妙だ。飲み物を頂かずに席を立つなど礼儀知らずだというのに、そんなものは良いから早く外に行きたいと少女が急いている。それに、両親の前で「旅人さん」と呼んでいるのも駆け落ち相手には相応しくないのに。
誰も追いかけて来ずに二人だけでコテージを出てしまった。途端に冬の風が冷たく当たり、目も開けられないというのに少女は笑っていた。
「旅人さんって貴族の人?」
「……」
答えない。風が強まり、波が荒れ始めているのを良いものと思って見ていたい。
「あはは。別に何でも良いの。ねえ、海が好きなんでしょう? このまま色んな海を見に行きたい!」
少女は駆け落ち相手の腕を引っ張り、早く行こうとどこかへと連れ出した。
奇妙なことが幾つもある。まずは少女が「色んな海を見に行きたい!」と言ったにも関わらず、海岸を背にどんどん陸地の方へ進んでいくことだ。
それから二人は夜になるごとに宿を取って過ごすが、代金はいつも少女の一言で済まされた。後で尋ねてみれば支払いは父親から出されていると言う。これもどういう訳かおかし過ぎる。
「ねえ、そろそろ名前を教えてよ。旅人さん」
「教えない」
「えー」
暖炉の灯った小さな部屋で、少女はベッドに寝転び駄々をこねている。そうする少女も自分の名前は教えようとしない。わざわざこちらから聞かないからでもあるが。
「じゃあさ、ゲームしようよ。私と旅人さんで順番こに質問していくの。楽しそうでしょう?」
「やらない」
「やって」
「嫌だ」
少女は気に入らないことがあるとブーブーと言う。そしていつも自分で笑い出す。
「子豚のブーブー!」
「……」
「ブーブー! あはは!」
何度か繰り返し、仕舞いには腹を抱えてひとりでいつまでも楽しそうだ。これがそこまで笑える事なのか自分には分かりかねる。
「旅人さんもやって!」
「……はぁ」
仕方がないから……暖炉の薪を割って火を小さくした。さすがに少女も、そろそろ寝ると分かるんだろう。ブーブー言うのをやめて、大きなあくびを堂々と鳴らしていた。
部屋の明かりが弱まり、しかしカーテンは閉めない。少女が暗闇は怖いと言うからだ。薪はまだ赤く燃えているが、それが消えてから目覚めるのが怖いのだと言っていた。
「旅人さん一緒に寝ようよ」
「いらない。おやすみ」
ベッドは少女に渡し、男の方はソファーか椅子に座って目を閉じた。
眠る前、一体何が駆け落ちだったのかを考えるのはもう飽きた。おそらく少女の好奇心に付き合わされただけだろうと、早いうちに腑に落ちた。
「旅人さん、ありがとう」
「……」
少女はなぜか毎晩感謝を伝えてくる。そしてすぐに寝息を立てる。
それがいつまで経っても慣れなかったし、夜が来なければ良いのにと思うほど嫌いだった。
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