冬の珊瑚礁/青い珊瑚礁【短編•完結】

草壁なつ帆

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冬の珊瑚礁

温かい海

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 二人の旅人は港に降り立ち、最も南にある海岸を目指して向かった。
 冬でも泳げる海とは間反対の陸地ではなく、火山活動によって温水が沸く場所があると昔聞いたのを思い出してのことだった。勢い任せに少女を連れ出してみたものの、パンフレットにその観光情報など載っていなかったから実態は分からない。
「珊瑚礁を見た後はどうするの?」
 あるかも分からないのに、少女の念願が叶ったらどうなるのかが気になった。
「また突然消えて、感謝の手紙と金を渡されたらたまらない……」
 潮の匂いを感じながら歩く。ブツブツと愚痴を風に乗せたつもりだった。しかし少女にはしっかりと聞こえていたんだろう。
「居なくなったら寂しくなる?」
「どうだろう」
「寂しくなって欲しい」
「えー……」
 無茶な要求に苦笑を漏らした。初めて笑ったと少女に喜びを与えてしまった。スキップで駆け出す少女を追いかけて走る。そうして目的地に到着した。


 火山活動が行われている海は立ち入り禁止だ。厳重な柵と国兵の警備員が立っていた。わざわざ少女のためとはいえ、国兵に掛け合うこともしたくない。
 残念だっただろうか。いや、少女はむしろ気にしていない様子でもある。
「お腹すいた。それに疲れちゃった。眠たい」
 言ってすぐに大きなあくびを出す。宿に行けば食べるも休むも寝るも全てが叶うだろう。だから今日はそうしようと決まった。
「もう歩けない。抱っこ」
「無理」
 歩く速度がだんだんずれていき、少女を置いていく形で一本道を進んでいる。とはいえ彼女は子供だが幼児ではない。いくら時間が掛かろうが、夕日が沈むまでにはそのうち嫌でも歩いてくるだろうと思った。
「付き人さーん!!」
 一本道に吹く突風のように少女の声が吹き抜けた。その大声に道行く人はだいたい全員が少女を振り返っただろう。呼ばれた付き人さん本人もそうだ。
「……はぁ」
 言っても少女は病み上がり。病人だから。そう自分に言い聞かせて来た道を引き返す。そこで地面にへたった少女を拾い上げ、背中に乗せたら少女の機嫌は地獄から天国へ上ったみたいに良くなる。
 その反対に、冬でも汗をかかされる方は辛い。
「あの、付き人さんって呼ぶのやめて欲しいんだけど」
「えー、じゃあお馬さん?」
「却下」
 酷い名付けに少女のことを下ろしてしまおうとした。だが少女は首を絞めてでも離れないとしがみついて落ちなかった。こんなに強い力を有しているのに、病院へ通わなくちゃならないなんて信じられない。
「ねえ、お馬さんは私のこと……やっぱりなんでもない」
「お馬さんも嫌なんだって」
「じゃあ何て呼んだら良いのよ」
 そのあとで少女はブツブツ聞かせてきた。
「どうせ名前を聞いても教えてくれないでしょう? だったらヘンテコなあだ名を付けて呼んであげるわ」
「いらない」
「じゃあ教えてよ」
「……」
 ほら黙った。と言われそう。
「アレン……」
「アレン?」
 人に名前を呼ばれるのは久しぶりでしっくり来ない。
「ところで、さっきの『やっぱりなんでもない』って何?」
「なっ!? そ、それは何でもないの! 今更気にしないでよ!」
 ジタバタするから背負いにくくて地面に下ろした。少女は素直に地面に足を下ろして自分で立ってくれた。
「アレン。で、フルネームは?」
「教えない」
「はいはい、分かったわ」
 夕日を背に歩きながら何を食べたいかの話をした。
 それから、明日向かう海に珊瑚礁がありそうかというのも、少し話をした。



(((次話は明日17時に投稿します

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