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Ⅰ.ネザリア王国
宿‐君はとんでもない馬鹿野郎だな‐
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ひとりでいる部屋にノックが鳴った。俺の返事も待たずに訪問者は勝手にドアを開けて入って来た。そして早々に呆れて物を言われた。
「ずいぶん落ち込んでいるな」
それはたぶん、部屋の片隅で丸くうずくまっている俺のことを見て言ったのだと思われる。
その男、リュンヒンはランプに火を灯した。いつの間にやら隙間風か何かで消えてしまってそのままだった。明るくなるとログハウスの古臭い壁やタンスなどが照らされる。
ランプの炎を見つめていると、何故だか話そうと思っていた以上のことが口からスラスラ出てきてしまうものだ。また勘の良いリュンヒンの質問もあって、経緯から言動、要所要所での俺の気持ちまで洗いざらい全部話すことになった。
話し終えるとリュンヒンは俺を憐れんだ目で見ていた。
「つまり君は、最愛の妻を失った寂しさで、趣味でもない女性と関係を持ってしまったってことだね」
「誤解だらけだ。やめてくれ」
俺はより一層膝を強く抱き寄せ顔までうずめた。もうどんな穴にでも入ってしまいたいような俺のことを、リュンヒンは呑気に笑っており謝る気配も無かった。
「元気を出しなよ。彼女にはもう二度と会えないんだから大丈夫さ」
「信用できん。会わせたのはお前だろうが……」
膝の隙間から俺はもごもごと言った。これにはリュンヒンも笑い混じりに謝罪のようなものを軽く口にしている。
「で、何か伝えることがあるのか?」
俺は少しだけ顔を上げて言った。
「おやおや君はおかしなことを言うな。僕をここへ呼び出したのは君じゃないか」
「いいや、元はと言えば俺がお前に呼ばれたようなものだ」
リュンヒンの素っ頓狂な顔を向けられている。しらを切るようだ。
「俺とお前の架け橋になるものをわざわざ見せつけておいて、いかにも使ってくれと言っているのが俺にはバレているぞ」
すると、ふっとリュンヒンが笑みを溢した。
「……まあ。これぐらい意思疎通してもらわないと逆に古友としてどうかと思うよ」
「一体どんな悪いことを思いついたんだ」
「そりゃあとんでもなく悪いことに決まっているだろう?」
リュンヒンはいつもの優しげな顔を仕舞い、この時は不気味な笑みを浮かべて言った。
「でもまずは僕のことよりもエセルさんのことだ。早く助けてあげないと心配だね」
さも当然のごとくリュンヒンが言い放った”心配”という言葉が謎に心に突き刺さった。俺はちょっとした疑問が浮かんでおり、思ったままを口にする。
「エセルは自国に戻れて良かったのではないか。誓約も消えたことで俺との関係も無くなり全て元通りだ。これでまたエセルは気負いなく自身の好きなように生きられるのでは無いかと……痛い」
話の途中でリュンヒンに鼻を強めにつままれた。息が苦しい以上に、指先の力が込められていて痛いが勝っている。
「君はとんでもない馬鹿野郎だな」
ようやく開放されたと思ったら非難を浴びた。
「男は女を守るために生きているんじゃないか」
どこかで聞いたことのある台詞をリュンヒンは真面目な顔で言った。それは彼が常に持ち歩いているポリシーに似た持論であった。
だが俺は唸り声を上げながらその名言にも首を傾げている。
「俺はそうは思わん。世の中には男の守り無しで生きれている女性は多くいる」
鼻の次は耳をやられるのかと構えていたが、リュンヒンは手を出して来ずに俺のことを座った目で見つめてくるだけだ。
「なんだよ……」
急に怖くなり俺は聞いている。
「……いや。僕から君にキスでもすれば、君は目覚めてくれるのかなと考えていた」
リュンヒンは冷静におぞましいことを口にした。ちゃんと「冗談だよ」と後には朗らかな笑顔に戻るが、案外冗談ではなさそうに見えたので怖かった。
「エセルさんは檻に入れられているんだろう? そんな状態で好きなように生きられているとは僕は思えないね。彼女はこれからも身寄りもない場所で、利用されていることも知らずに暮らすんだと考えてみろ。君はそれが彼女の望んだものだって思うのか? だとしたら君はとんでもない男のクズだ」
リュンヒンは指を立てながら続けた。
「いいかい? ここでの話は一般論じゃなく、エセルさんの話をしているんだ。彼女はきっとあの国では誰からも守られない。彼女ひとりで辛い道を歩ませるなんて君に出来るのかい? 契約書が無くても君とエセルさんはもう無関係では無いじゃないか。ならば君しか助けられないんじゃないのか」
反論する余地もない。全くリュンヒンの言う通り正しかった。
「そうだな。それに元はと言えば俺が差し向けたことだ」
「でも本心でそうしたかったわけじゃないんだろう?」
俺は膝を抱えたままでコクリと頷いた。
「そりゃそうさ。だって君と彼女ってとても静かだったけど、お互い心では愛し合っているようだったからね」
よくもそんな恥ずかしいことが言えるなと、いつもならベエと舌を出しているところである。しかし今夜は素直に聞いておこうと思う。俺はコクリと頷いていた。
「そうそう。それで良いんだよ」
何故かリュンヒンの手のひらで転がされている感がある。
「ずいぶん落ち込んでいるな」
それはたぶん、部屋の片隅で丸くうずくまっている俺のことを見て言ったのだと思われる。
その男、リュンヒンはランプに火を灯した。いつの間にやら隙間風か何かで消えてしまってそのままだった。明るくなるとログハウスの古臭い壁やタンスなどが照らされる。
ランプの炎を見つめていると、何故だか話そうと思っていた以上のことが口からスラスラ出てきてしまうものだ。また勘の良いリュンヒンの質問もあって、経緯から言動、要所要所での俺の気持ちまで洗いざらい全部話すことになった。
話し終えるとリュンヒンは俺を憐れんだ目で見ていた。
「つまり君は、最愛の妻を失った寂しさで、趣味でもない女性と関係を持ってしまったってことだね」
「誤解だらけだ。やめてくれ」
俺はより一層膝を強く抱き寄せ顔までうずめた。もうどんな穴にでも入ってしまいたいような俺のことを、リュンヒンは呑気に笑っており謝る気配も無かった。
「元気を出しなよ。彼女にはもう二度と会えないんだから大丈夫さ」
「信用できん。会わせたのはお前だろうが……」
膝の隙間から俺はもごもごと言った。これにはリュンヒンも笑い混じりに謝罪のようなものを軽く口にしている。
「で、何か伝えることがあるのか?」
俺は少しだけ顔を上げて言った。
「おやおや君はおかしなことを言うな。僕をここへ呼び出したのは君じゃないか」
「いいや、元はと言えば俺がお前に呼ばれたようなものだ」
リュンヒンの素っ頓狂な顔を向けられている。しらを切るようだ。
「俺とお前の架け橋になるものをわざわざ見せつけておいて、いかにも使ってくれと言っているのが俺にはバレているぞ」
すると、ふっとリュンヒンが笑みを溢した。
「……まあ。これぐらい意思疎通してもらわないと逆に古友としてどうかと思うよ」
「一体どんな悪いことを思いついたんだ」
「そりゃあとんでもなく悪いことに決まっているだろう?」
リュンヒンはいつもの優しげな顔を仕舞い、この時は不気味な笑みを浮かべて言った。
「でもまずは僕のことよりもエセルさんのことだ。早く助けてあげないと心配だね」
さも当然のごとくリュンヒンが言い放った”心配”という言葉が謎に心に突き刺さった。俺はちょっとした疑問が浮かんでおり、思ったままを口にする。
「エセルは自国に戻れて良かったのではないか。誓約も消えたことで俺との関係も無くなり全て元通りだ。これでまたエセルは気負いなく自身の好きなように生きられるのでは無いかと……痛い」
話の途中でリュンヒンに鼻を強めにつままれた。息が苦しい以上に、指先の力が込められていて痛いが勝っている。
「君はとんでもない馬鹿野郎だな」
ようやく開放されたと思ったら非難を浴びた。
「男は女を守るために生きているんじゃないか」
どこかで聞いたことのある台詞をリュンヒンは真面目な顔で言った。それは彼が常に持ち歩いているポリシーに似た持論であった。
だが俺は唸り声を上げながらその名言にも首を傾げている。
「俺はそうは思わん。世の中には男の守り無しで生きれている女性は多くいる」
鼻の次は耳をやられるのかと構えていたが、リュンヒンは手を出して来ずに俺のことを座った目で見つめてくるだけだ。
「なんだよ……」
急に怖くなり俺は聞いている。
「……いや。僕から君にキスでもすれば、君は目覚めてくれるのかなと考えていた」
リュンヒンは冷静におぞましいことを口にした。ちゃんと「冗談だよ」と後には朗らかな笑顔に戻るが、案外冗談ではなさそうに見えたので怖かった。
「エセルさんは檻に入れられているんだろう? そんな状態で好きなように生きられているとは僕は思えないね。彼女はこれからも身寄りもない場所で、利用されていることも知らずに暮らすんだと考えてみろ。君はそれが彼女の望んだものだって思うのか? だとしたら君はとんでもない男のクズだ」
リュンヒンは指を立てながら続けた。
「いいかい? ここでの話は一般論じゃなく、エセルさんの話をしているんだ。彼女はきっとあの国では誰からも守られない。彼女ひとりで辛い道を歩ませるなんて君に出来るのかい? 契約書が無くても君とエセルさんはもう無関係では無いじゃないか。ならば君しか助けられないんじゃないのか」
反論する余地もない。全くリュンヒンの言う通り正しかった。
「そうだな。それに元はと言えば俺が差し向けたことだ」
「でも本心でそうしたかったわけじゃないんだろう?」
俺は膝を抱えたままでコクリと頷いた。
「そりゃそうさ。だって君と彼女ってとても静かだったけど、お互い心では愛し合っているようだったからね」
よくもそんな恥ずかしいことが言えるなと、いつもならベエと舌を出しているところである。しかし今夜は素直に聞いておこうと思う。俺はコクリと頷いていた。
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