クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

文字の大きさ
79 / 172
Ⅱ.籠れぬ冬

メアネル大家族

しおりを挟む
 雪の降る朝。監獄かと思った部屋に使用人が現れた。
「王がご一緒に朝食をと申されております」
 ようやく我々に招集がかかったのだ。
 豪邸ごと凍りついたのかと思うような、冷えに冷えた廊下を俺とカイセイは移動した。今まで物静かであった廊下には幾人の使用人が走り回っており、今日はやけに慌ただしい。
「おはようございます。中へどうぞ」
 この木扉を前にすると、シャーロットに叩かれた頬が痛むような気がする。
 あの時の大部屋はガランとして寂しい限りであったが今朝は違うようだ。
 部屋の外へもすでに良い香りが漂っていた。パンの焼けたような香ばしい香りである。寒さが勝り全く忘れていた食欲が急に掻き立てられた。
 中に入るとさらに賑わいを見せる。
「バル様、カイセイ様、おはようございます」
「まあバル様! 大きくなりましたね、おはようございます」
「おはようございます。お初にお目にかかりますわ」
 多くの女性達に口々に挨拶をされて気圧された。
 ガラ空きでしか見たことのなかったテーブルは満席となっていた。
 それも子供から大人まで女性ばかり。一番奥にあたる上座に控えるふくよかな男を除いては全員女性である。
「やあやバル君、カイセイ君、久しぶり! こっちだこっち!」
 片手を上げて俺たちを呼び寄せるのは、ただ一人の男であるマルク王だ。肉付きの良い指で俺達の席を示していた。
 上座にはマルク王が座り、俺の席はその王の一番側である。俺の隣ではカイセイが椅子を引いる。
「さあ食べなさい。食べなければ元気が出ないからね」
 筋肉ではなく主に脂肪をつけた恰幅の良いマルク王が言う。
 ゲストの出迎えをしなかった事や、長らく姿を見せなかった事を詫びる言葉は告げない。ただ上品にナイフでベーコンを切って口へと運んでいるだけであった。

 ナプキンを準備するなり俺たちのもとへも料理が運ばれてきた。魚介や野菜を中心とした朝食プレートである。さきほど良い香りを漂わせていたパンも付いてきた。
 ありがたく頂くとしよう。感謝の言葉を述べてから俺たちも食事を始めていく。
 同じテーブルにつく女性たちは隣人同士で別の話題で盛り上がっているようだ。向かい側に居るシャーロットもまた、明るい笑顔を見せながら話に花を咲かせていた。
 時にちらっと見えたのであるが、カイセイの横で食事を取っているのはスイナであった。あれはシャーロットの図らいなのだろうか。
 どっちにしてもカイセイは気付いていないようだが。
「……」
 それにしても……ゲストを目の前に個人の会話をやめない女性たちを、マルク王は叱るでもなく満足そうに眺めているのが不思議である。
「カイセイ君が家族に会うのは初めてだったね」
 この騒がしさに負けじと大声でマルク王は言う。すでに皿のものを平らげており、ナプキンで口を拭っていた。
 カイセイが「はい」と返事をする。
「じゃあ紹介しておかないとな」
 マルク王から女性たちの紹介がされた。だがその前にマルク王は断りを入れている。
「うちは大家族だからね。別に一気に覚えてくれなくても良いよ」
 その言葉を真に受けて良いのかどうか、真面目なカイセイは迷っているようであった。
 しかし妻が三人、その子供らが四人。ここに座る者だけで七人の似た顔の名前を覚えるのは難関である。その上相関関係まで一度に頭に入れるのはまず無理だ。
 カイセイも例外ではない。最終的に混乱の念が顔に出ていた。
「……それから昨日の晩、第四の妻が赤ん坊を産んだんだよ。五日間もかかる難産だったのでね。またいずれ二人にも会いに来てくれ」
 マルク王は嬉しそうに告げた。
 大事な用事があって俺達を待ちぼうけにした理由がそれであったのか。目出度いことなら咎める必要もない。
「はい。また会いに来ます」
「そうだカイセイ君。スイナが君と話したいことがあるらしい。あとで二人で温室にでも散策しに行くと良いよ。ねっ、バル君」
 カイセイに対して言っているものだと思いきや、マルク王のわざとらしい満面の笑みは俺の方に向けられていた。
「バル君は僕と話をしようか」
 目頭まで細められた縁起の良さそうな笑顔を見せられる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...