クランクビスト‐終戦した隠居諸国王子が、軍事国家王の隠し子を娶る。愛と政治に奔走する物語です‐ 【長編・完結済み】

草壁なつ帆

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lll.エシュ神都、パニエラ王国

手紙‐知人の近況‐

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「あのー。師匠からの手紙はー?」
 アルバートが机の下から頭を出して言っている。
 そうであった。すっかり頭から離れていた。こちらの手紙も簡素に宛名が書かれただけの味気の無い手紙だ。
 そっちの国で何か動きがあったのかと緊張しながら中の内容を読んだ。
「え!?」
 後半の文字で知らずに声が出てしまう。
「何ですか! 僕のこと書いてありました?」
 たまらずアルバートが飛び出して俺の横へと駆けてくる。覗き込むより図々しく、俺の隣に立って手紙の内容を一緒に見た。
 期待したからか、アルバートはカイセイの綴った文字を走り抜けるかのごとく読み終えた。
「すごいことじゃないですか!!」
 突然大きな声をあげる。俺の耳がキーンと響いたのにも気を使わず、その場でドタバタ足を鳴らして踊りだして喜んでいた。
「お前には何も関係無いことだろう」
「ありますよ! だってエーデンさんは僕の!! 僕の……僕の?」
 あれだけ騒いでおきながら自分では答えが見つけられんようである。
 俺はその手紙を見ながら雑念に囚われていた。ふと顔を上げてみると内容が気になるのか、ならないのか、ルイスはこちらを見つめていたようだ。
 その目と真っ直ぐに視線が合い、何を考えるでも無しに「読むか?」と手紙を俺から差し向けた。
 別に俺が期待したような国内状況の通知ではなかったので、その後どうされようが構わん。
 両手が空いた俺は、そろそろアルバートの方で答えは出たのかと声くらいはかけてやっている。
「エーデン殿とは、あのエーデン・ロヴェルト氏で?」
「ああ。なんだか知らんがすごいことを成し遂げたようだな。そいつが俺のよく知るエーデンという男で正しいかは書いていないが」
 汚部屋に住み着く紙の幽霊。万年仕事をサボっているせいでチェスだけは腕が立つ。まさかチェスの功績を讃えてこのような授賞式に呼ばれるのでは無いだろうな。
「式典はメルチで行われるようですがバル様もご出席を?」
「するわけないだろう」
「出席しないんですか!?」
 アルバートが振り向いた。何をそんなに驚いた顔をされるのか分からんのだが。
 しかし返された手紙を見ても、何故か「ご出席して下さいね」カイセイから強めに押してくる一文がある。

 腑に落ちないまま、とある扉をノックした。
 中から声がしたならこちらから押し開け、こじんまりとまとまった書斎にエセルを捉える。
「忙しかったか?」
「いえ。ちょうど今ひと段落着くところでした」
 エセルは書斎机に座っておらず、近場の棚に書類を戻している途中であった。
 だが俺が見えたとなると、まだ手に残っていたものは棚ではなく、机の上に置いて急いでこっちにやって来た。
「どうかされましたか?」
「カイセイから手紙が来たのだ。読ませてやろうと思ってな」
「カイセイ様から?」
 エセルは手紙を受け取ったが、宛名が俺であるから少々躊躇った様子である。「良いから気にせず読んでみろ」
 俺は告げてから新しくエセルが働くことになった書斎に踏み込んだ。
 そしてエセルが置いた机の上の資料を手に取る。ついでにひと段落着いたと言っていた仕事ぶりも眺めている。
 民間業務の一覧表を手掛けてくれていた。所々にまだ空いた箇所があり、これはひと段落は着けられていないだろうと思った。
 扉の付近ではエセルが内容を知って声を上げている。
「すごいですね……」
 皆口を揃えてすごいと言う。いや、ルイスは言っていなかったか。
 エセルが手紙を返そうと振り返る。こっそり資料を棚に戻す手伝いをしている俺を目撃するとすっ飛んで来きた。
 強引に全部を取り上げられるが、俺も手伝いたいので半分また奪っている。
「お前もエーデンの授与式に参加するか?」
「良いんですか? もちろん参加したいです!」
 対角線上の戸棚の元でエセルがくるりとターンして喜んだ。
「じゃあ決まりだな。俺の代わりに挨拶しておいてくれると助かる」
「えっ……」
 スカートの裾だけが感鈍くまだ揺れていた。
「バル様はご出席されないんですか?」
「しない。こっちは色々忙しいからな」
「でもカイセイ様があんなに手厚く……」
「ああでも言わないと俺が動かんことを熟知しているからだ。言う通りにしなくても怒鳴り込んで来ることは無いだろう」
 俺は言ってから、早くもやってやった感があって良い気分であった。
 それとは関係なく、エセルが「うーん」とひとりで唸っている。
「着る服ならすぐに用意してくれると思うぞ」
「服じゃありません。バル様のことですよ」
 気を遣ったつもりが怒られてしまう。
 ひとしきり唸ったエセルは一つ頷いて何か決断をしたかのようだった。
「やっぱりバル様はご出席されるべきだと思います!」
 俺が不満の声で返せば「嫌な顔をしない!」と別のところを指摘された。
「俺が行ったところで何でもないだろう」
「そうかもしれませんが、エーデンさんが喜ぶんじゃありませんか? お二人はお友達ですし」
「はああ!?」
 それだけは有り得ないという事を立て続けに二本も告げられたことになる。
 あまりのショックにうっかりエーデンが俺と会って喜ぶところを想像してしまった。久しぶりだな、など言う俺も浮かんで来て、いやいやいやと掻き消した。
「無理だろ。何を話せと言うのだ……」
「近況報告? ですかね?」
「……友達ならではの会話ならもっと他にあると思うのだが」
「良いんです、なんでも! とにかく絶対に行きましょう!」
 強く断言してから、エセルは後少しだけ残っていた資料を俺に押し付けてきた。
 意外な行動にこっちがビックリしている間、エセルが扉へと走ってこの書斎を出て行こうとしている。
「お、おい」
 片手で扉を開けたままエセルが振り返った。
「礼服を用意してもらいます。バル様の分もお伝えしておきますね」
 パタンと扉は閉められた。廊下の足音もやがて聞こえなくなり、この書斎もしんと静まりかえっている。
 手伝うと半分奪った量と変わらん資料が手元に残された。
「……やっておけと言うことなのか?」
 少しの間ぼーっと突っ立っていたが、やがて残りの分を棚に戻すことにした。一枚ごとに収納される場所が違うので割と集中する作業であった。
 エセルが何をそんなに突然やる気になっていたのか全くの謎である。
 俺とエーデンは友達という関係で果たして合っているのか? など考えようものなら、俺は資料の仕舞う場所を何枚か間違えたりしていた。
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