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しおりを挟む「こんなことを頼んでしまって、申し訳ありません」
「いえ、気にしないでください。頼っていただけて、むしろ私は嬉しいですから」
今日、なんとカルロッタはディエゴに仕事の手伝いを頼まれた。
「奥様にも少し手伝っていただければ、仕事もあっという間に片付くでしょう。そうすれば、お二人で過ごす時間も今より作れますよ」
セルジオが二人の距離を縮める為に、カルロッタに仕事を手伝ってもらうことをディエゴに提案したのだ。
「では、始めましょうか」
彼の思惑通り、仕事はかなりスムーズに進んでいく。
「ーーそれにしても、あなたの字は相変わらず美しいですね」
「え?」
仕事に集中していたカルロッタに、ふいにディエゴが話しかける。
「結婚する前に、手紙を何度も送ってくださったでしょう?あの頃から、ずっと思っていたんです。あなたの字は、とても美しいと」
「あ、ありがとうございます」
突然の褒め言葉に、彼女は頬を赤く染めてはにかんだ。
「女性と文通をするのは初めてだったので気の利いたことも書けず、すみませんでした」
何を書けばいいのかわからなかった彼が必要最低限のことしか書けなかっただけで、あのそっけない手紙はわざとでは無かったのだ。
「あなたがお返事を返してくれるだけで、私はじゅうぶん嬉しかったですよ。それに、私もずっとディエゴ様の字を綺麗だと思っていました」
「そうなのですか?ふっ、ありがとうございます」
微笑み合う二人を、セルジオがそっと後ろから見守る。
その後も、カルロッタは婚約期間に学んだ知識を活かして仕事を進めていき、ディエゴは自分の妻の才覚を改めて尊敬した。
数週間後の朝。
「はぁ……まさか、ディエゴ様があんなに変わるなんて」
同じベッドで眠るようになった夫の態度がすっかり変わったことに、最近カルロッタは頭を悩ませている。着替えを手伝ってくれる侍女達に、つい愚痴をこぼしてしまうほどに。
「かなりストレートに伝えてきますよね。『いつもの髪型も素敵ですが、今日の髪型は特によく似合っていて素敵ですね』とか、『あなたの笑顔は太陽のようだ』とか」
「聞いている私達まで気恥ずかしくなるようなことを、平気な顔で言いますよね」
ノエミとムゲットの言う通り、この頃ディエゴはカルロッタの心をかき乱すような発言をよくしているのだ。
「私、こんなことは初めてで……どうしたらいいのかわからないのよ」
カルロッタは、今まで恋をしたことが無かった。どうせ、いずれ国の利益の為に誰かに嫁ぐのに誰かに恋をしても無駄だと、諦めてきたからだ。
恋をしたことの無い彼女は、何故こんなにも夫の言葉や行動に心を乱されるのか、自分の気持ちに戸惑っていた。
「難しく考えすぎですよ。旦那様が歩み寄って来てくださった今、あとは本当の夫婦になればいいだけじゃないですか」
「本当の夫婦……」
しかし、初夜に言われた『私があなたを愛すことはないでしょう』という彼の言葉を思い出し、カルロッタは不安になる。愛の無い政略結婚なのに、本当の夫婦になんてなれるのかしら?と。
「ーー夜会、ですか?」
「はい。一緒に参加していただきたいのです」
朝食の席で、一緒に夜会に参加して欲しいとディエゴはカルロッタに頼んだ。
「わかりました。二人で夜会に参加するのは初めてですね。公爵夫人として、頑張ります!」
「母上も参加しますから、私がそばにいられない時は母上と一緒にいてください」
「子供ではないのですから、大丈夫ですよ」
王女としても、夜会には何度も参加したことがある。特に何も心配することは無いと彼女は思ったが。
「いいえ。あなたは素敵な女性ですから、他の男性に目を付けられては困ります。どうか、出来る限り一人にはならないでください」
ディエゴに真剣な瞳で諭され、カルロッタは赤面しながら頷いた。
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