あなたを愛すことは無いと言われたのに愛し合う日が来るなんて

恵美須 一二三

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 夜会当日。

「叔父上、本日はお招きありがとうございます」

「やあ、ディエゴ。今日は夫婦で参加してくれてありがとう。ぜひ、楽しんでいってくれ。それにエメルリンダも、元気そうで嬉しいよ」

 実は、今回の夜会はエメルリンダの実家が主催するものだった。招待状を出した彼女の兄は、ふさぎ込んでいた妹がすっかり元気になっていることに驚いている。

「お兄様、お久しぶりです」

 エメルリンダは、久しぶりに兄との会話に花を咲かせて楽しんだ。

 一方、輝く金髪を結い上げ青いドレスに身を包んだカルロッタは、ディエゴにエスコートされながら社交に精を出していた。

 主催者への挨拶を終えた二人のもとには今、入れ替わり立ち替わり次々と貴族が話しかけに来ている。会場にいる貴族達は皆、初めて社交の場に現れたアントーニア公爵夫妻に興味津々なのだ。純粋に好奇心だけで近づいてくる者もいれば、あらを探しておとしいれてやろうとたくらむ者もいる。油断は許されない。

 それでも、カルロッタとディエゴは上手く会話をしていたのだが。
 


「これはこれは、カルロッタ様!お久しぶりですね!」

 ある伯爵が話しかけてきたことで、余裕の表情だった彼女の様子が変わった。

「……ご機嫌よう、スキフォーゾ伯爵」

「いやあ、相も変わらずカルロッタ様はお美しい!私の妻になっていただけなかったのが、本当に残念だ!」

 そう。このスキフォーゾ伯爵は、過去にしつこくカルロッタに求婚していたのだ。二十歳近く歳の差があるのだが、彼女に惚れ込んだ伯爵は何度断られても諦めなかった。アントーニア公爵家に嫁いだ今もなお彼女に下心を持ち続けており、粘着質な視線を向けている。

 カルロッタは、このスキフォーゾ伯爵が大の苦手だった。

私の妻、、、をお褒めいただきありがとうございます。伯爵にも、素敵なご縁があるようにお祈りします」

 ディエゴはさりげなくカルロッタをかばうように前に出て、スキフォーゾ伯爵を睨みつける。

「おやおや、アントーニア公爵。以前とはずいぶん様子が違いますな。もしや、カルロッタ様にしつけ直されたのですか?」

 スキフォーゾ伯爵はカルロッタの見た目だけでは無く、気の強い性格にも惚れ込んでいた。こんな若造にはその良さはわからないだろうと、わざと挑発して下品に笑っているのだ。

 しかし、腹を立てて言い返そうとする妻を、ディエゴはそっと手で止める。

「ふっ、よくわかりましたね。その通りです。あなたもご存知のようですが、彼女は素晴らしい女性ですから。夫である私をより良い方へと導いてくれるのです。これからも私に至らぬ点があれば、ぜひ躾直していただきたいと思っているのですよ」

「そ、そうですか」

 あわよくば離縁させようと企んで近づいたが。涼しい顔で言い返されて返す言葉が出ず、スキフォーゾ伯爵は退散した。

「ーーカルロッタ様、少し踊りましょうか」

 まだ何か言いたげな他の貴族に話しかけられないように、二人は踊り始める。

「先ほどはありがとうございました」

「妻を守るのは夫として当然ですから、お気になさらず。ちなみに、あなたに躾直されてもいいというのは本心ですよ」

「えっ?」

 驚くカルロッタを、ディエゴは愛おしそうに見つめて微笑む。

「カルロッタ様、あの日の言葉を取り消させてください。私は今、正義感が強くて優しいあなたを心から愛しています」

 政略結婚で始まった関係でも、二人の間には確かに愛が芽生えていたのだ。

「私も……あなたをおしたいいしています!」

 ダンスの終わりに、カルロッタは嬉しくて夫に抱きついた。

「っ!」

「あの『薄っぺらな服』の本来の用途を、今夜教えて差し上げますね」

 耳元で妻にイタズラっぽくささやかれ、ディエゴは首をかしげたが……。



 その日の夜。二人は熱く互いの愛を確かめ合い、彼は『薄っぺらな服』の用途を理解することになった。
 



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