執事がヤンデレになっても私は一向に構いません

恵美須 一二三

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悪党を成敗しても一向に構いません

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 船旅はあっという間に終わり、グラーノ王国へ到着した。

「二人とも、足元に気をつけて降りて下さい」

 初めての船旅は、とても楽しかった。名残惜しく思いつつ、船を降りて町を歩く。

 はぐれないようにしましょう、なんて言ってルベルが手を繋いできたけれど、私は子供じゃないのよ。十六歳の立派なレディなんだから。

「わあ、市場があるよ!賑やかだね」

 アンジェロが興奮気味に市場を指差す。

 グラーノ王国に来るのは初めてだもの。はしゃぐ気持ちもわかるわ。

「今日の宿を見つけたら、後で行きましょうか。はぐれないように気をつけてね」

「うんっ!気をつけるよ」

 大きく頷いて、アンジェロはニコッと可愛らしく笑って見せる。

「リヴ、あちらに宿屋が見えます。早速行ってみましょう」

 私がアンジェロの可愛さにうっとりしている間に、ルベルが宿屋を見つけてくれたみたい。

「さすがルベルね。ありがとう」

 お礼を言うと、ルベルが私の耳元に顔を近づけて小声で話しかけてきた。

「部屋が取れたら、市場を見に行きましょう。さっきから、市場が気になってしょうがない、という顔をしていますよ」

 初めての場所にはしゃぐなんて子供っぽいと思われるかしら、と落ち着いているふりをしていたのに。見抜かれていたのね。恥ずかしい。

「私のこと、子供っぽいと思った?」

「ふふふっ、いいえ。可愛らしいとしか思いませんよ」

 頬に熱が集まるのを感じる。不意打ちで、ドキドキさせるようなことを言わないでちょうだい。

「ねえ、アンジェロ……えっ?アンジェロ!?」

 話題を変えようとアンジェロの方を見ると、そこにアンジェロの姿は無かった。

 どうして?さっきまで、すぐそばにいたのに。

 辺りを見渡しても、アンジェロはどこにもいない。

「落ち着いて下さい、リヴ。大丈夫です。必ず俺が見つけますから」

 焦る私をルベルがなだめてくれた。

 確かに、ルベルならアンジェロを絶対に見つけ出してくれるとは思うけれど。やっぱり、心配なものは心配なのよ。

「知らない土地で一人きりなんて……心細くて、今頃泣いているかも知れないわ。可愛い弟にそんな思いをさせて、姉として失格ね。ごめんなさい、アンジェロ」

 私がちゃんと見ていなかったから、こんなことになってしまったんだわ。

「いいえ、完全に俺の落ち度です。リヴのせいではありません。こんなこともあろうかと、居場所を感知できる魔道具を渡してあるので、確認します」

「まあ!いつの間にそんなことを?」

 用意がいいのね。

「どうやら、移動しているようです。馬車にでも乗っているんでしょうか?とにかく、追いかけましょう」

「ええ。勝手に一人で馬車に乗るとは思えないから、きっと連れ去られたんだわ。急がないと」

 アンジェロ、待っていて。今助けに行くから。



「ーー大丈夫だよ。きっと、すぐに助けが来るから」

 ガタガタと馬車に揺られながら、隣で怯えて震えている茶髪の少女を慰める。たぶん、僕と同じ歳くらいかな?

「私のせいで、巻き込んでしまってごめんなさい」

「気にしないで。僕が、勝手に君を助けようとして失敗しちゃっただけだから」

 男達に連れ去られそうになっていたこの子が目に入った時、とっさに一人で助けに行った僕が悪いんだ。姉さんとルベルに声をかけて協力してもらっていれば、後ろから近づいて来た男に殴られて気絶するなんて、情けないことにもならなかったはず。

 目が覚めると、手足が縛られていて。僕まで一緒に連れ去られてしまっていた。僕って駄目だな。

 魔封じの魔道具まで付けられているみたいで、魔法も全然使えない。

 姉さんもルベルも、何も言わずにいなくなったから怒っているかも。ごめんなさい。

「あの、良ければお名前を教えてくれませんか?」

 気を紛らわそうとしているのか、少女が話しかけてきた。

「僕?僕は、アンジェロ。君は?」

「私は、チェーリアです。アンジェロさんは、とても優しい人ですね」

「優しい?そうかな?ありがとう」

 チェーリアさんみたいな可愛い女の子にそう言われると、恥ずかしいな。

 ガタンッ

「きゃっ!」

「!!」

 突然、馬車が大きく揺れて止まった。

「何が起きたんですか?」

「わからない。でも、馬車が止まったみたいだ」

 目的地に到着したにしては、止まり方が乱暴だ。きっと、何か別の理由で馬車は止まったんだと思う。

 手足は縛られているし魔法も使えないけど、どうにかしてチェーリアさんを守りたい。

「ルベル、やっておしまいなさいっ!」

「姉さん!?」

 警戒していると、外から聞こえてきたのは姉さんの声だった。

 姉さんとルベルが助けに来てくれて、安心した。でも、それと同時に。

 ドカッ バキッ ドーンッ

 ずいぶん物騒な物音がし始めた。チェーリアさんが、さっきより怯えている。僕も怖い。

 ルベルがやってるんだと思うけど、ちょっとやりすぎじゃないかな?

「アンジェロ!無事?あら、女の子もいるのね」

 外の音に戦慄していると、馬車の扉を開けて姉さんが入ってきた。僕以外にも人がいるとは思っていなかったみたいで、驚いている。

「姉さん、助けに来てくれてありがとう。だけど……外では何が起きてるの?」
 
 気になって、窓から外の様子を見ようとしたら。

「見ては駄目!教育に悪いわ」

 目元を姉さんの手で覆い隠されてしまった。

 見せられないようなことって何?ますます気になるよ。

「姉さん、手を離してよ」

「絶対に駄目。そちらの方も、どうか見ないで下さいね」

 僕の目を手で覆いながら、姉さんはチェーリアさんに話しかけた。

「あっ、私は目が見えないので。心配しなくても大丈夫ですよ」

 チェーリアさんはふんわりと微笑んだ。

「「えっ!?」」

「リヴ、全員片付け終わりました」

 ルベルが外から話しかけてきたけど、驚き過ぎてそれどころじゃない。


 チェーリアさんの目が見えていないなんて、全然気づかなかった。




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