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悪党は成敗してしまっても一向に構いません

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「二人とも足元に気をつけて降りて下さい」

 二日間の船旅はあっという間に終わり、私達はグラーノ王国に無事到着した。

 短い間だったけれど初めての船旅はとても楽しかったので少し名残惜しく思いながら、船を降りてルベルと手を繋いで町を歩く。

 はぐれないようにしましょう、なんて言って手を繋いできたけれど、すぐにはぐれたりするほど私は子供じゃないのよ?十七歳の立派なレディなんだから、子供扱いしないで欲しいわ。

「姉さん、見て!市場があるよ。賑やかだね」

 アンジェロは興奮気味に市場の方を指差した。

 グラーノ王国に来るのは初めてだもの。はしゃぐ気持ちもわかるわ。

「今日泊まる宿が見つかったら、後で行きましょうか。アンジェロ、はぐれないように気をつけてね」

 落ち着いているように振る舞っているけれど、実は私もさっきから市場が気になっていた。

「うんっ!気をつけるよ」

 大きく頷いて、アンジェロは私にニコッと笑って見せた。なんて可愛いの。

「リヴ、あちらに宿屋が見えます。早速行ってみましょう」

 アンジェロの可愛さにうっとりしているうちにルベルが宿屋を見つけてくれたみたい。

「さすがルベルね。ありがとう」

 ルベルにお礼を言うと、私の耳元に顔を近づけて小声で話しかけてきた。

「ふふっ、部屋が取れたらすぐに市場を見に行きましょう。さっきから、市場が気になってしょうがないという顔をしていますから」

 初めての場所にはしゃぐなんて子供っぽいと思われるかも知れないと思って落ち着いているふりをしていたのに、ルベルには見抜かれていたみたい。恥ずかしいわ。

「ルベルはなんでもお見通しね」

「いつもあなたのことばかり考えているので」

 頬に熱が集まる。

 大丈夫?私の顔、赤くなっていないかしら?

「ねえ、アンジェロ……えっ?アンジェロ!?」

 恥ずかしがっているのを誤魔化す為に話題を変えようと思ってアンジェロの方を見ると、そこにはアンジェロの姿は無かった。

 どうして?さっきまですぐそばにいたのに。

 辺りを見渡してもアンジェロはどこにもいない。

「落ち着いて下さい、リヴ。大丈夫です。必ず俺が見つけますから」

 焦る私をルベルがなだめてくれた。

 確かに、ルベルならアンジェロを絶対に見つけ出してくれると思う。

 でも、やっぱり心配なものは心配なのよ。

「知らない土地で一人きりなんて……心細くて今頃あの子は泣いているかも知れないわ。可愛い弟にそんな思いをさせて、私は姉として失格ね。ごめんなさい、アンジェロ」

 私がちゃんとアンジェロのことを見ていなかったから、こんなことになってしまったんだわ。

「これは完全に俺の落ち度ですから、リヴのせいではありません。実はこんなこともあろうかと、居場所を感知できる魔道具を渡してあるので確認します」

「いつの間にそんなことを……」

 もしかして、気づいていないだけで私の影の中にも入れているのかしら?ルベルなら、とっくの昔にそれくらいはしていそう。

「どうやら移動しているようですね。馬車にでも乗っているんでしょうか?とにかく、俺達も追いかけましょう」

「ええ。アンジェロが勝手に一人で馬車に乗るとは思えないから、きっと連れ去られたんだわ。急がないと」

 アンジェロ、待っていて。今助けに行くから。

 私とルベルはアンジェロのもとへ急いだ。



「ーー大丈夫だよ。きっと、すぐに助けが来るから」

 ガタガタと馬車に揺られながら、僕は隣で怯えて震えている茶髪の可愛らしい少女を慰める。たぶん僕と同じ歳くらいかな?

「私のせいで、あなたまで巻き込んでしまってごめんなさい」

「僕が勝手に君を助けようとして失敗しちゃっただけだから、気にしないで」

 そう。男達に連れ去られそうになっていた彼女が目に入った時、とっさに一人で助けに行った僕が悪いんだ。

 ちゃんと姉さんとルベルにも声をかけて協力してもらっていれば、後ろから近づいて来た男に殴られて気絶するなんて情けないことにもならなかったはず。

 目が覚めると手足は縛られていて、結局助けようとした僕まで彼女と連れ去られてしまった。僕って駄目だな。

 ご丁寧に魔封じの魔道具まで付けられているみたいで、魔法も全然使えないので何も出来ない。

 姉さんもルベルも、何も言わずにいなくなったから怒っているかも。ごめんなさい。でも、どうか僕達を見つけて助けて欲しい。

「あの、良ければお名前を教えてくれませんか?」

 気を紛らわそうとしているのか、少女が話しかけてきた。

「僕?僕はアンジェロ。君は?」

「私はチェーリアです。アンジェロさんはとても優しい人ですね」

「優しい?そうなのかな?ありがとう」

 チェーリアさんみたいな可愛い女の子にそんなことを言われると、なんだか恥ずかしいな。

 ガタンッ

「きゃっ!」

「!!」

 馬車が突然大きく揺れて止まった。

「何が起きたんですか?」

「わからない。でも、馬車が止まったみたいだ」

 僕とチェーリアさんに緊張感が走る。

 目的地に到着したにしては止まり方が乱暴だったので、きっと何か別の理由で馬車は止まったんだろう。

 手足は縛られているし魔法も使えないけど、どうにかしてチェーリアさんを守りたい。

「ルベル、やっておしまいなさいっ!」

「姉さん!?」

 辺りを警戒していると、外から聞こえてきたのは姉さんの声だった。

 姉さんとルベルが助けに来てくれたんだと思って安心したけれど、それと同時に、

 ドカッ バキッ ドーンッ

 なにやら物騒な物音がし始めたのでチェーリアさんが怯え始めている。正直、僕も怖い。

 たぶんルベルがやってるんだと思うけど、ちょっとやりすぎじゃないかな?姉さんはこうなるとわかっていてルベルをたきつけたの?

「アンジェロ!無事?あら、女の子もいるのね」

 僕が密かに戦慄していると、馬車の扉を開けて姉さんが入ってきた。僕以外にも人がいるとは思っていなかったみたいで驚いている。

「姉さん、助けに来てくれてありがとう。だけど、その……外では何が起きてるの?」
 
 あまりにも気になるので窓から外の様子を見ようとしたら、

「見ては駄目よ!教育に悪いから」

 目元を姉さんの手で覆い隠されてしまった。

 見せられないようなことになっているの?ますます外の様子が気になってしまう。

「姉さん、手を離してよ」

「絶対に駄目。そっちのお嬢さんも、どうか見ないでちょうだい」

 僕の目を手で覆いながら、姉さんはチェーリアさんに話しかけた。

「あっ、私は目が見えないので心配しなくても大丈夫ですよ」

 チェーリアさんはふわりと微笑んだ。

「「えっ!?」」

「リヴ、全員片付け終わりました」

 ルベルが外から話しかけてきたけど、僕も姉さんも驚き過ぎてそれどころじゃない。


 チェーリアさんの目が見えていないなんて、今まで全然気づかなかったよ。




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