上 下
12 / 19

感動の再会をしても一向に構いません

しおりを挟む



「やだ。私ったら、そうとは知らずに無神経なことを言ってごめんなさい」

 まさか目の前の少女が盲目だなんて思わなかったわ。アンジェロも驚いているから、きっと知らなかったのね。

「お気になさらないで下さい。正確には、ぼんやりと色くらいはわかるので全く見えないわけではないんです。紛らわしい言い方をしてしまいましたね」

 私達に気をつかわせないようにしているのか少女は笑った。

 でも、やっぱりほとんど見えていないってことだから大変じゃない。

「リヴ?大丈夫ですか?」

 私達が中から出ないのでルベルが怪訝そうに問いかけてきた。

「大丈夫よ、今出るわ。アンジェロ、彼女が出るのを手伝ってあげてね」

 話している間に手足の縄は解いたので、二人とももう自由に動ける。

「わかったよ。チェーリアさん、手に触れてもいいかな?」

「はい。ありがとうございます、アンジェロさん」

 あら。もう名前で呼びあうほど仲良くなっていたのね。

 彼女、チェーリア嬢の茶色の髪の毛は艶があってちゃんと手入れされているのがわかる。おそらく、そこそこ裕福な家の子なんじゃないかしら?

「お手をどうぞ」

「ありがとう」

 馬車から降りようとすると、ルベルが手を貸してくれた。

「彼女はオリーヴァ商会という商会の会長のご息女で、身代金を要求する為に誘拐したとあいつらが言っていました」

 倒れている数人の男達を見ながら、ルベルは私の耳元に顔を寄せて小声でそう言った。

「なるほど。卑劣な悪党が考えそうなことね」

 お金欲しさに少女を誘拐するなんて、本当に呆れるわ。

 後ろでは、アンジェロがチェーリア嬢をゆっくりと優しく馬車から降ろしてあげていた。

 アントーニア家に来た最初の頃は毎日帰りたいと泣いてばかりだったのに大きくなったわね。あんな風に紳士的に振る舞えるようになって。なんだか感慨深いものがある。

「あいつらはどうしますか?」

「そうね、とりあえずアンジェロとチェーリア嬢を縛っていた縄を使って拘束しておこうかしら?」

 起きて暴れられても面倒だもの。

「わかりました。では、そのように」

 私の言葉を聞いたルベルは驚きの早さで男達を縛り上げていく。

 後でチェーリア嬢の家の方々にこの国の然るべきところに通報してもらえば、彼らはきちんと裁きを受けるでしょうからこれで解決ね。

 けれど、もう一つ解決しなければいけないことがまだあった。

「アンジェロ、どうして私かルベルに声をかけてくれなかったの?そうすれば、誘拐なんてされることは無かったのに」

 優しいこの子のことだから、チェーリア嬢が誘拐されそうになっているのを見つけて放っておけなくて、助けようとしてきっと自分も誘拐されたんだとは思う。

 でも、私かルベルに声をかけられるタイミングがあったはずだわ。

「あー、それは……」

 よほど言いづらいことなのか、アンジェロは理由を言いよどんでいる。

「今回は無事だったから良かったけれど、一歩間違えば取り返しのつかない事になっていたかも知れないのよ?あなたは私にとって、何ものにも代え難い大切な家族なの。失いたくないわ」

「姉さん、ごめんなさい!僕、本当は不安だったんだ」

 アンジェロは大きな声で謝ると、勢いよく私に抱きついて来た。

「不安?一体どういうこと?」

 まだ私よりも背の低いアンジェロは、下の方から上目遣いで私を見つめている。その瞳は少し涙で潤んでいた。

「姉さんが僕をどれだけ大切に思ってくれているか、全然わかってなかった。実はルベルと姉さんがすごく仲良しだから、もしかして僕は邪魔なんじゃないかなって思ってたんだ。それに、姉さんは僕を同情で連れて来てくれただけで本当はルベルと二人きりの方が良かったのかも、とか色々考えちゃって」

「まさか、それで私とルベルに声をかけなかったの?」

「……うん。ごめんなさい」

 アンジェロが誘拐されたのはもとを辿れば私のせいだったのね。まだまだこの子は幼いのに、こんなにも気を遣わせてしまっていたなんて。

「アンジェロ、謝らないで。あなたを不安な気持ちにさせた私の方が悪いんだもの。だけどね、これだけは覚えていて。あなたを連れて来たのは同情なんかじゃなくて、私の大切な家族だからよ。そして、私があなたを邪魔に思うことは何があっても絶対に無いわ」

 私が可愛い弟をどれだけ愛しているのか。どうか、忘れないで。
 
「ありがとう。姉さん、大好きだよ!」

 アンジェロがぎゅっと抱き締める力を強めたので、私も負けじと強く抱き締めた。

「ふふっ。これからは、私に変な遠慮はしないで。わかった?」

「うん!」

 誤解が解けて、姉弟の絆もさらに深まった気がする。私の愛もアンジェロにちゃんと伝わったようだし。

「リヴ、こちらのお嬢さんをそろそろ家に送り届けてあげましょう」

 大変、すっかりチェーリア嬢のことを忘れていたわ。

「そうね、きっとご家族も心配していらっしゃるわ。じゃあ、行きましょうか」

 盲目のチェーリア嬢に道案内をしてもらうのは難しいので、来た道を引き返して人通りのあるところまで戻り、町の人達にオリーヴァ商会の会長の家を聞いて教えてもらった。



「ーーあの家かしら?」

 しばらく歩き続けると、大きな屋敷が見えてきた。屋敷の前には人影が見える。

「おそらく、そうかと。屋敷の前には女性が立っているようです」

 離れているので私にはただ人影があることしかわからないけれど、ルベルはこの距離で性別まで判断出来るらしい。ずいぶん目がいいのね。

「女性?もしかしたら、チェーリア嬢の帰りを心配して待っているのかも知れないわね。早く安心させてあげないと」

 歩く速度を上げて屋敷に近づいて行くと、女性もこちらに気がついて駆け寄って来た。

「チェーリア!ああ、無事だったのね!本当に良かった。急にいなくなったと聞いて、私もあの人もとても心配していたのよ」

 女性はチェーリア嬢を見つけるなり抱きついて、彼女の無事を確認している。

「心配させてごめんなさい。知らない人達に誘拐されて困っていたところをこの人達が助けてくれたんです」

 チェーリア嬢の話しを聞いて、女性はようやく私達の方をちゃんと見た。

「まあ!なんとお礼を言ったらいいのか。ありがとうございます。本当にありがとうございます……」

「いえ、私達は当然のことをしただけですから」

「……」

 チェーリア嬢を離して何度も私達にお辞儀をして感謝を伝えていた女性は、ふいにアンジェロをまじまじと見つめたかと思うとなぜか黙り込んでしまった。

 どうしたのかしら?アンジェロもわけがわからず戸惑っている。

「あの、この子が何か?」

「あなた……もしかして、アンジェロなの?」

 女性は目に涙を浮かべて声を震わせながら、そう言った。

「……お母さん?お母さん、なの?」

「「「!!!」」」

 えっ?彼女がジュリア様!?

 驚いている私達をよそに、女性はアンジェロに近づいて勢いよく抱き締めた。

「アンジェロ!ずっと会いたかったわっ!」


 これから探そうと思っていたジュリア様と、まさかこんな形で出会うなんて思いもしなかった。
 
 

 
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

坊ちゃんは執事兼教育係の私が責任を持って育てます。

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:20

執事で魔王様

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

せめてお前達の執事にしてくれ?嫌ですよ…

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

処理中です...