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第40羽 絶望の帳が降りて※過去話鬱展開あり
しおりを挟むフレイは北の大陸、ノッセントルグ大陸のとある町に生まれた。パルクナットの街ほどは大きくなかったが、それでも人の往来はしっかりあり、栄えていると言っても間違いない町だった。
両親は二人とも元冒険者だった。五人ほどのグループで活動していたが両親の結婚を機に解散。貯金ができるほどの実力はあったらしく、その折りに宿屋を営むことにした。
元冒険者だった事もあり、冒険者が求めるものの多くを兼ね備えていたので、冒険者御用達の宿屋として有名になっていた。
物心付いたときには、小さな看板娘として店の中を楽しく走り回っていた。元気いっぱいで、笑顔を振りまくフレイは皆のアイドルだった。
両親は元冒険者で、宿にやってくる客も冒険者。自然、耳に入る話は冒険の話ばかり。
将来の夢が宿屋のを営むことではなく、冒険者になってしまうのも仕方がなかったのかもしれない。
仕事の合間に訓練をせがめば、『冒険者なんてやるもんじゃない、宿を継ぐべきだ』と口を酸っぱくして言われた物だが、母は簡単な魔法を、父は簡単な護身術を教えてくれた。今思えば、両親は自分の娘に甘かったのだろう。
そんな幸せが突然終わる事なんて想像もしていなかった。
ある日、いつも通りに宿屋の娘として準備の手伝いをしていると外が騒がしくなっているのに気づいた。
何だろうと思っていると慌てて飛び込んできた冒険者が両親と小声で話し始めた。準備を進めつつもちらちらと両親の方を窺っていると突如として爆音が聞こえた。驚きに身をすくめていると、険しい顔をした両親が目を合わせてこう言ってきた。
「今日は店を閉める。準備は良いから呼ぶまで地下室から出ないで休んでいなさい」と。
その間両親はどこかに出かけるという。訳がわからなかった。今までは出かけるときは必ず三人一緒だった。
フレイは泣いて頼んだ。一緒に連れて行ってと。なにか悪いことをしたのなら謝るからと。冒険者になんてならない、宿屋をするからと。
それでも両親は首を縦に振らなかった。
両親は去年の四歳の誕生日にせがんだナイフと短杖を渡し、無理矢理地下室に押し込め離れていった。外から鍵を掛け、「愛している、必ず戻ってくる」と言う言葉を残して。
結局、その約束は果たされることはなかった。
フレイは扉にすがりついて泣いた。それでも両親は戻ってきてくれなかった。酒樽が大量に並ぶ部屋の中、泣き疲れ眠ってしまったフレイはふと目を覚ました。
扉に触れてみると――――鍵が開いていた。
扉を開けると、階段は途中で途切れ、何故か憎らしいほどの蒼空が目に入った。ここは宿の地下の筈だ。空が見えるなんてあり得ない。
夢かと思いながら階段を上っていくと――――そこには何もなかった。
目を擦って、頬をつねっても目の前の光景は変わらなかった。
しばらく呆然としていたが、ハッとして両親を探すことにした。この時涙は出なかった。あまりにも現実感がなかったからだ。
この時のフレイは知らなかったが、地下室は母の魔法で強化されていた。そうでなければいくら地下だとはいえ、フレイは無事では済まなかっただろう。
何かの残骸がポツポツと落ちている中、フレイは歩き続けた。誰も居ない。
やはりこれは夢なのではないかと思い始めた時声が聞こえた。父の声だ。くぐもっていて良く聞こえなかったがそれでもフレイには誰の声かわかった。
こんな訳のわからない状況でも父が居れば大丈夫だと。きっと側に母も居るはずだと。
二人を見つけたら文句を言ってやるのだ。よくも地下室なんかに閉じ込めたなと。宿屋を継ぐのは嘘で絶対に冒険者になってやると。それが現実になるのだと信じてフレイは声の方に駆けた。
足が止まる。
母がいた。見知った冒険者達もいた。だがまともに動いているものはいなかった。
父は見たこともない姿をした女に首を掴まれて持ち上げられていた。
不意に父と目が合う。目を見張った父が口を動かした。聞こえはしなかったがなんと言ったかはわかった。「逃げろ」と。
ゴキリと鈍い音がして父の体から力が抜け完全に動かなくなった。何が起こったのかはよくわからなかった。それでも漫然と、父にはもう二度と会えないのだと悟った。
気づけば遠くから絶叫する声が聞こえた。誰だろう。地に足付かない思考の中、不意にこれが自分の声であることに気づいた。
そしてもちろんそんな大声をあげれば、あのバケモノが気づかないはずもない。
こちらに視線を向けたバケモノがゆっくりと近づいてくる。逃げなければ。そう思うものの足は震えるだけで動いてはくれない。
なにもできないままバケモノが目の前に立った。
「生き残っているなんて、貴女運が良いわね」
そんな声はフレイには聞こえていなかった。視線はバケモノの右手から外れない。
あろう事かこのバケモノはあり得ない方向にねじれた父の首を掴んだままだった。
「ああ、なるほど。貴女これの子供ね?そうね……」
何かを考えるそぶりを取ったと思ったら、邪悪な笑みを浮かべ――――父の首をねじ切った。
今度こそ自分の意志で絶叫をあげた。
「あっははははは!その反応良いわね!!人間はやっぱり面白いわ!」
気づけば震える手でナイフを握りしめていた。
「あら、それで攻撃でもしてみる?」
息が自然と荒くなる。
こいつは父と母と仲の良かった冒険者に酷いことをした。許せない。そう思うのに――――父に習ったナイフも母に習った魔法も震えるばかりで使えなかった。
カランと乾いた音を立てて、ナイフが手からこぼれ落ちる。許せない気持ちより、恐怖が勝った。
「あら、残念」
バケモノはそう言って、倒れ伏した母と冒険者の元へ父を投げ捨てると腕を伸ばし――――強力な魔法で消し去った。
もう声は出なかった。
「貴女は生かしてあげるわ。面白そうだから復讐でもしに来なさいな。良い暇つぶしになるのよ」
そんな吐き気を催す声と共にフレイは意識を失った。
気がつくと布団の中にいた。ああ、あれは夢だったんだ。そう思いたかったが部屋の中は知らない景色だった。そして全く知らない人が扉を開けて入ってきた瞬間、フレイの胸の中を重たいものが支配した。
それからの記憶はあまりない。覚えているのは、大人達に質問攻めにされたことと、あのバケモノがコアイマというものだと言うことだけだった。
そしてフレイは孤児院に預けられることになった。しばらくは引きこもっていたが、やがて冒険者になるために訓練をするようになった。その間だけはあの悪夢を忘れられたから。
孤児院の子供とは最低限の会話をするだけ。
そんな中影から訓練を眺めていたログとターフに気づいた。二人は冒険者にあこがれていると言う。最初は邪険にしていたが、やがて断り続けるのが面倒になり適当な訓練を言いつけた。
既に訓練をしていたフレイをしてキツいものだったので諦めると思ったのだ。それでも二人は止めなかった。
結局二人とはパーティーを組むことになった。腐れ縁という奴だ。彼らがいなかったらフレイはもっと暗い性格になっていただろう。感謝している。
冒険者登録をする頃にはフレイは男勝りな性格になっていた。それは無意識によるものだったのだろう。
小さくて弱かった自分をなくすために。誰にも舐められないために。
次に会ったら必ずコアイマを倒すために。
そしてメルに出会った。
彼女は小さくて、弱いはずの種族なのに。自分よりも大きくて強いものに立ち向かっていった。
恐怖に固まっていた自分とは大違いだ。
フレイにとってそれは特別だった。憧れだった。
最初は命を助けられて、魔物っぽくないから。かわいいから。そんな理由だった。
でもいつの間にか変わっていた。
そして――――今。
「全く……手こずらせてくれたわね」
その憧れはバケモノの剣に貫かれていた。
バケモノが剣を振れば、貫かれたメルが地面に崩れ落ちる。朱が地面に広がっていく。致命傷だ。
メルは何度傷ついても諦めなかった。
剣に切り裂かれても、蹴り飛ばされても、魔法で吹き飛ばされても。ゲラークや一部の冒険者は手助けしようとしたが、それでも勝てなかった。既に倒れ伏している。このバケモノが強すぎるのだ。
「ふふふ、この中で一番強いこいつが負けた以上、貴方たちのお先は真っ暗よ?この空と同じようにね」
絶望が場を支配する。闇が落ち、フレイはもちろん恐怖で誰も動けない。バケモノの高笑いだけが響いていた。
そんな中――――不意にメルが動き出し、バケモノの首に嘴を突き込んだ。
「この……!死に損ないが……!!なッ!?」
振り払い、首筋を押さえて後ろに飛び退ったバケモノに、今まででは考えられない速度と威力の蹴りを叩き込んだ。
今までは有効打すら入っていなかったのに、バケモノの顔を歪ませ吹き飛ばす。
地面にばらまかれた血液がまるで生き物の様にメルの元に集まっていく。
傷だらけで辛いはずなのに小さな姿で再び立ち上がった。
未だ諦めずに立ち向かうその姿は今のフレイには到底出来真似できないものだった。
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