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リチャーズ視点2
ある日の事だった。私がいつものように領地経営の勉強を終えて、ファロメナがいると思われる温室へと向かった。フェロメナは温室がお気に入りで、温室の中はフェロメナの好きな薔薇が一年中咲いている。今日も温室のドアを開けると、甘いバラの香りが漂ってきた。
フェロメナは、その香りに包まれてお茶を飲んでいた。彼女についている侍女のアンネがすぐに私のお茶も準備してくれた。
カップを手に持つと、ふわりと紅茶のいい香りが鼻に入ってきた。
「今日のお茶はいつものとは違うね。香りがずいぶんいい」
いつも飲んでいるもの違うなと思い、フェロメナに尋ねた。私の言葉を聞いたフェロメナの顔が少しだけゆがんだように見えた。
「この茶葉は、母方にゆかりのある方からいただいたの。本当に茶葉はとってもいいものよね」
いつもならこの温室で大好きなバラの香りに囲まれて、お茶を飲むフェロメナの表情は柔らかい。しかし今日はこんなにおいしいお茶を前にしてもなんだか機嫌が悪い。あれっと思ったが、聞けずにいるうちに誰かがこの温室に入ってきた。
「やあ、フェロメナ。今日も一段と地味だね!」
まるで挨拶にもならない挨拶をしながら入ってきたのは、目にもまぶしいほどの男性だった。私はその男性を見てびっくりしたが、その男性もまさか私がいると思っていなかったのだろう。その男性もびっくりしたように目を丸くしていた。
一人フェロメナだけが、表情一つ変えずお茶を飲んでいる。私と男性はそろってフェロメナを見た。
「ああ、ワーレは初めてだったわね。私の婚約者のリチャーズよ。こちらはワーレ殿下。隣国トランザの王太子様よ」
フェロメナはめんどくさそうに座ったまま、教えてくれた。王太子? 私は慌てて立ち上がった。
「初めまして。私はリチャーズ・クロッセルと申します。フェロメナの婚約者になります」
ワーレ王太子はすぐによそいきの顔になったが、私が婚約者だといったときにはなぜか機嫌を悪くしたようだった。ただそれは一瞬の事でまたすぐによそいきの顔に戻った。
「私はトランザ国のワーレだ。ここにいるフェロメナとは遠い親戚にあたる。よろしく」
ワーレ王太子の言葉にそういえばと思い出した。領地経営の勉強の中で、確か今の現当主であるフェロメナの母方の祖先にトランザ国の末王女がいたと聞いていた。
それにしてもトランザ国は大国だ。そんな大国の王太子がこんな一伯爵位に過ぎない家に来るものであろうか? たぶん私の顔は不審げな表情をしていたのだろう。
なんの説明もしようとしないフェロメナに代わって、ワーレ王太子が愛想よく私に教えてくれた。
「しばらくこの国に留学をしようと考えていてね」
それは初耳だったのだろう。フェロメナがワーレ王太子の言葉に目を見開いた。その顔をワーレ王太子は満足げにみている。やけに親しい関係のように見えた。お互いに気を許しあっているように見える。
ふと現当主とシムズのことが頭に浮かんだ。二人はまさかの番なのだろうか。そう考えただけで、心臓の鼓動が早くなった。
「やあ、フェロメナ。今日も相変わらず地味だね」
それからもワーレ王太子は、私とフェロメナがお茶をしていると必ずやってきた。フェロメナがうっとおしそうな顔をしても飄々としている。フェロメナに対する口の利き方も悪い。しかし間近で接しているうちに、ワーレ王太子のまなざしは、いつもフェロメナに向けられていることに気が付いた。フェロメナは私に聞いてきたことがあった。
「ねえリチャーズ。あなたワーレ王太子がうっとおしくないの?」
「いや別に」
私はとっさにそんな言葉を返してしまった。私の答えにフェロメナはずいぶん不服そうだったが、私はそんなフェロメナの表情にかなり満足した。本当はいつもやってくるワーレ王太子のことが気になって仕方がなかった。最近彼は、本格的にこの国に留学をしてきて、この屋敷にも毎日のように訪れてくる。しかも口では悪く言っていてもフェロメナを見つめる視線はやわらかい。ただフェロメナが、ワーレ王太子をまだ意識していないことに安心した。私は常に『冷静に』さえしていれば、フェロメナのそばにいれるのだから。
そんなある日屋敷に用事があるとフェロメナが席を外した時だ。
「リチャーズ、君はフェロメナが好きなのか?」
私は急に聞かれてびっくりした。まさかこんなにも直球で聞かれるとは思わなかった。
「私とフェロメナは婚約しています。私は、将来パーソンズ伯爵家に婿入りする予定です。愛だの恋だのとうつつを抜かしてはいられません。領民の生活を守るという義務があるのですから」
私はちょうどいいと、ワーレ王太子をけん制するような言い方をした。ただワーレ王太子は、私を見てやれやれといった顔をした。たぶん私の言った意図とワーレ王太子がとらえた意味が違っていたのだろう。しかしワーレ王太子は、私にある提案をしてきた。王都を見て回ろうと。
私がいぶかしげに見ると、ワーレ王太子は領地経営に必要だとしつこく言ってきた。私もちょうど見たいところがあったので、仕方なく了承した。
王都を見てまわる日、現れたワーレ王太子を見てびっくりした。変装がものすごい。かなり地味になっているではないか。反対に私は、いつもよりちょっとだけきらびやかにさせられた。何でも王太子だから目立ってはいけないのだという。確かに王太子は目立つ。オーラが半端ないのだ。そのオーラを消すためにも私の身なりを整えるのだというので、私はなすがままになった。
こうして私とワーレ王太子は王都に出発した。
フェロメナは、その香りに包まれてお茶を飲んでいた。彼女についている侍女のアンネがすぐに私のお茶も準備してくれた。
カップを手に持つと、ふわりと紅茶のいい香りが鼻に入ってきた。
「今日のお茶はいつものとは違うね。香りがずいぶんいい」
いつも飲んでいるもの違うなと思い、フェロメナに尋ねた。私の言葉を聞いたフェロメナの顔が少しだけゆがんだように見えた。
「この茶葉は、母方にゆかりのある方からいただいたの。本当に茶葉はとってもいいものよね」
いつもならこの温室で大好きなバラの香りに囲まれて、お茶を飲むフェロメナの表情は柔らかい。しかし今日はこんなにおいしいお茶を前にしてもなんだか機嫌が悪い。あれっと思ったが、聞けずにいるうちに誰かがこの温室に入ってきた。
「やあ、フェロメナ。今日も一段と地味だね!」
まるで挨拶にもならない挨拶をしながら入ってきたのは、目にもまぶしいほどの男性だった。私はその男性を見てびっくりしたが、その男性もまさか私がいると思っていなかったのだろう。その男性もびっくりしたように目を丸くしていた。
一人フェロメナだけが、表情一つ変えずお茶を飲んでいる。私と男性はそろってフェロメナを見た。
「ああ、ワーレは初めてだったわね。私の婚約者のリチャーズよ。こちらはワーレ殿下。隣国トランザの王太子様よ」
フェロメナはめんどくさそうに座ったまま、教えてくれた。王太子? 私は慌てて立ち上がった。
「初めまして。私はリチャーズ・クロッセルと申します。フェロメナの婚約者になります」
ワーレ王太子はすぐによそいきの顔になったが、私が婚約者だといったときにはなぜか機嫌を悪くしたようだった。ただそれは一瞬の事でまたすぐによそいきの顔に戻った。
「私はトランザ国のワーレだ。ここにいるフェロメナとは遠い親戚にあたる。よろしく」
ワーレ王太子の言葉にそういえばと思い出した。領地経営の勉強の中で、確か今の現当主であるフェロメナの母方の祖先にトランザ国の末王女がいたと聞いていた。
それにしてもトランザ国は大国だ。そんな大国の王太子がこんな一伯爵位に過ぎない家に来るものであろうか? たぶん私の顔は不審げな表情をしていたのだろう。
なんの説明もしようとしないフェロメナに代わって、ワーレ王太子が愛想よく私に教えてくれた。
「しばらくこの国に留学をしようと考えていてね」
それは初耳だったのだろう。フェロメナがワーレ王太子の言葉に目を見開いた。その顔をワーレ王太子は満足げにみている。やけに親しい関係のように見えた。お互いに気を許しあっているように見える。
ふと現当主とシムズのことが頭に浮かんだ。二人はまさかの番なのだろうか。そう考えただけで、心臓の鼓動が早くなった。
「やあ、フェロメナ。今日も相変わらず地味だね」
それからもワーレ王太子は、私とフェロメナがお茶をしていると必ずやってきた。フェロメナがうっとおしそうな顔をしても飄々としている。フェロメナに対する口の利き方も悪い。しかし間近で接しているうちに、ワーレ王太子のまなざしは、いつもフェロメナに向けられていることに気が付いた。フェロメナは私に聞いてきたことがあった。
「ねえリチャーズ。あなたワーレ王太子がうっとおしくないの?」
「いや別に」
私はとっさにそんな言葉を返してしまった。私の答えにフェロメナはずいぶん不服そうだったが、私はそんなフェロメナの表情にかなり満足した。本当はいつもやってくるワーレ王太子のことが気になって仕方がなかった。最近彼は、本格的にこの国に留学をしてきて、この屋敷にも毎日のように訪れてくる。しかも口では悪く言っていてもフェロメナを見つめる視線はやわらかい。ただフェロメナが、ワーレ王太子をまだ意識していないことに安心した。私は常に『冷静に』さえしていれば、フェロメナのそばにいれるのだから。
そんなある日屋敷に用事があるとフェロメナが席を外した時だ。
「リチャーズ、君はフェロメナが好きなのか?」
私は急に聞かれてびっくりした。まさかこんなにも直球で聞かれるとは思わなかった。
「私とフェロメナは婚約しています。私は、将来パーソンズ伯爵家に婿入りする予定です。愛だの恋だのとうつつを抜かしてはいられません。領民の生活を守るという義務があるのですから」
私はちょうどいいと、ワーレ王太子をけん制するような言い方をした。ただワーレ王太子は、私を見てやれやれといった顔をした。たぶん私の言った意図とワーレ王太子がとらえた意味が違っていたのだろう。しかしワーレ王太子は、私にある提案をしてきた。王都を見て回ろうと。
私がいぶかしげに見ると、ワーレ王太子は領地経営に必要だとしつこく言ってきた。私もちょうど見たいところがあったので、仕方なく了承した。
王都を見てまわる日、現れたワーレ王太子を見てびっくりした。変装がものすごい。かなり地味になっているではないか。反対に私は、いつもよりちょっとだけきらびやかにさせられた。何でも王太子だから目立ってはいけないのだという。確かに王太子は目立つ。オーラが半端ないのだ。そのオーラを消すためにも私の身なりを整えるのだというので、私はなすがままになった。
こうして私とワーレ王太子は王都に出発した。
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