あなたが恋する人のひ孫である私

にいるず

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2 私は大城冬子

 私は、大城冬子。今は埃くさいお蔵の中に母と祖母といる。私の家の敷地にはずいぶん昔に建てられた蔵がある。あまりの老朽化で屋根瓦が今にも崩れ落ちそうになっていて、とうとうその蔵を取り壊すことになった。

 私は春休みということもあって、朝からお蔵の整理に駆り出されている。

 お蔵には、いろいろなものが詰め込まれていた。そのほとんどが捨てられるものばかりなのだが、中には価値のあるものもあるかもしれないということで、私が駆り出されることとなった。
 今私の目の前にあるのは、古い鏡台だ。お蔵の隅にひっそりと置かれているのが目に入った私は、その鏡台をつぶさに観察することにした。それは埃だらけにもかかわらず、ずいぶん凝った作りになっているしゃれた鏡台だった。その辺にあるぞうきんでちょっと拭いてみれば、きれいな模様が彫られているのが見えた。

「お母さん、これどうするの?」

 磨けば私の部屋で使えるかもしれない。私は母を呼んだ。

「何?」

 他の場所で何か作業をしていた母だが、私の声でこちらにやってきた。

「ねえ、この鏡台磨けばまだ使えそう。私もらっていい?」

「いいけど、誰のだったかしら」

「これは、私の母のだったわよ。こんなところにあったのねえ」

 私と母の話に入ってきたのは、私の祖母だった。

「そうだったの? でも私見たことあったかしら?」

 母がそういって首を傾げた。我が家は女系家族で、母と祖母は実の親子だ。代々婿をもらい家を継いでいる。

「じゃあ、ひいおばあちゃんのだったの?」

「そうよ。懐かしいわねえ。捨ててしまったとばかり思っていたのに」

 そういって祖母は目を細めてその鏡台を眺めていた。結局一日かけて蔵の整理を終わり、私は気に入った鏡台を自分の部屋に持っていくことにした。
 母と祖母は夕食の支度に家に戻ったが、私はその鏡台を磨くことにした。明日にでも父に手伝ってもらって自分の部屋に運んでもらおうと思ったのだ。最初の予想通り、鏡台は磨けば磨くほどきれいになっていき、鏡台全体に施された彫刻が鮮やかに浮かび上がる。
 夢中できれいにしていると、お蔵の入り口から母の声がした。

「冬子、ご飯よ」

 私は、きれいになった鏡台に満足して家に戻った。

 
 私は、父と祖父がいる夕食の時に今日見つけた鏡台の話をした。

「ねえ、お父さん。今日お蔵で鏡台を見つけたの。きれいに拭いたから私の部屋に持って行っていい? 運ぶの手伝ってよ~」

「鏡台?」

 父は母の方を向いた。

「おばあちゃんの鏡台が、お蔵の中に残っていたのよ。おじいちゃんが処分したとばかり思っていたのに」

「お父さんもやっぱりお母さんのものは捨てれなかったのねえ」

 おばあちゃんが、しみじみ言った。

「でももったいないよね。どうしてひいおじいちゃん捨てようとしたの? あんなにいいものなのに?」

 私がそういって不思議がると、おばあちゃんが言った。

「ふゆちゃん、後で私の部屋においで。いいもの見せてあげるから」

 結局その鏡台は、明日土曜日で仕事が休みになった父と祖父で運ぶこととなった。


 夕食後かたずけを終えたころを見計らって、私は祖母の元へ行った。祖母の部屋に入ると、テーブルの上に一冊の日記が置かれていた。

「おばあちゃんきたよ」

 祖父は別の部屋である書斎にいるらしく、部屋には祖母しかいなかった。

「これなあに?」

 私はテーブルに置かれた古い日記を見た。手に取ると、達筆な字で書かれていた。

「これはね私のお母さん、あなたのひいおばあちゃんの日記よ。前にひいおばあちゃんが書いた絵本あげたでしょ。あの絵本にまつわることが書かれているの。本当はこの日記は、お父さんさんあなたのひいおじいちゃんが燃やすつもりだったのを私が奪い取ったのよ。絵本もね」

「へえ~。あの絵本も燃やされちゃうところだったの? でもどうして?」

「そうねえ、その時には私もわからなかったけど、この日記を読んでわかったの。あなたも読んでみる?」

「うん、読みたい!」

 その時の私は、人の日記を読めるというただの好奇心だけだった。絵本は、私が小さい頃母から譲り受けたものだ。ひいおばあちゃんは絵本作家だった。絵本作家といっても数冊しか書いていない。ずいぶん歳を取ってから書き始めたこともあるが、どうしてもと思い入れのある作品が絵本になったことで満足したらしい。そのあとはぱったりと書かなくなったようだ。

「でもどうして私に見せてくれようと思ったの?」

「どうしてかしらね~。あの鏡台を冬ちゃんが見つけた時に、なぜか見せたいと思ったのよ。不思議ね~」

 しばらく私は、おばあちゃんに見たことのないひいおばあちゃんの話を聞いた。ひいおばあちゃんは、旦那さんであるひいおじいちゃんと仲が良かったこと。でもふとした時に遠い目をしたり、子ども心に今にも消えてしまいそうなほどはかなく感じたこともあったこと。
 でも父親が燃やそうとしていた日記で、すべてがわかったこと。

「冬ちゃんはどう感じるかしらね~」

 私が日記を持って部屋を出るときに、祖母はそう意味深なことを言ったのだった。
 

 

 
 

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