あなたが恋する人のひ孫である私

にいるず

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8 帰れないって...

「もしかして帰れないんですか?」

 私の顔が泣きそうになっていたのだろう。カスタムさんは私を見て痛ましそうな顔をした。

「前にこの屋敷にいた方は今はいないですよね。帰ったんじゃあないんですか?」

「それが...。その質問にお答えする前にお伺いしたいことがあるんですがよろしいですか?」

 私は、私の質問にちゃんと答えてくれないカスタムさんをにらんでしまった。

「もしかしたら私が知りたいことの答えがわかれば、大城様の答えも見つかるかもしれません。どうか教えていただきたいのです」

 私はカスタムさんの真剣なまなざしに無言でうなずいていた。

「大城様がこちらにお見えになったときにつけていたネックレスは、どうされたのですか?」

 今は部屋に置きっぱなしになっているあのネックレスのことだろう。知らず知らずのうちに今はない傷跡に手がいった。

「あのネックレスは、曾祖母のものです」

 私は、元の世界でネックレスを見つけた経緯をカスタムさんに話していた。カスタムさんは、私の言った曾祖母という言葉に一瞬驚いた反応を見せたが、何も口をはさむこともなく黙って聞いてくれていた。

「なるほど。そうだったのですね」

 私がすべて話してしまうと、カスタムさんは少し考え込んでいた。私はといえばそんなカスタムさんを見つめながら不安で不安で仕方なかった。
 
 そんな時だった。食器がかすかにこすれる音がしてそちらを見れば、アリーが飲み物を運んできてくれるところだった。カートの上には、飲み物であろうポットとカップそしてきれいな色あいのかわいい形をしたお菓子がのっていた。アリーは手早くテーブルにそれらを並べていく。目の前でポットから注がれた飲み物は、フルーツティーのようないい香りがした。目の前にかわいらしいお菓子も置かれる。

「どうぞお召し上がりくださいませ。お疲れになったでしょう」 

 私はありがたくお茶をいただいた。口に含むと、ほんのり甘いフルーツの香りと紅茶のような味が口いっぱいに広がった。

「おいしい」

「それはようございました。こちらもどうぞ」

 アリーがお菓子がのっているお皿も進めてくれる。私は、その花のような形をしたかわいらしいお菓子を一つつまんで口の中にいれた。見た目ほど甘くないほんのりと甘いそのお菓子は、口に入れたとたんふわっととろけるように消えていった。後にはほどよい甘さが口の中に残った。ただもう一度お茶を飲むと、お茶と相まって再びほんのりした甘さが蘇ってお茶がよりおいしく感じた。
 知らず知らず顔が緩んでいたのだろう。アリーはそんな私を見てほっとしたようだった。いつの間にかカスタムさんまでが、私を見ていたことに今更ながら気が付いた。
 私が焦ってカップを置いて聞く態度を示したからだろう。カスタムさんが話し始めた。

「前にこの屋敷にいた方がいると言いましたが、その方のお名前は大城春子様とおっしゃいました。春子様も気が付けばこの世界にいたそうです。
 湖の前に立っているところを、この屋敷の当主であるブレック様が発見なさいました。そしてブレック様が春子様に差し上げたのが、冬子様がお付けになっていたネックレスです。あのネックレスには魔力が込められていて、春子様をお守りするのと同時に、春子様がどこにいらっしゃるのかわかるようになっていたのです。
 ですが、春子様はある日忽然と姿を消しました。ブレック様はそれは一生懸命お探しになりましたが、結局見つかりませんでした。ですから冬子様が現れた時、すぐにその場所に向かわれたのです。あの時には本当に申し訳ないことをしました。ブレック様は、あのネックレスの魔力を感じて、春子様がお戻りになったと思われたのです」

 私はカスタムさんの話を聞きながら、疑問に思ったことがあった。

「ひいおばあちゃんがこの世界にいたんですね。それにしてもこの世界の人って寿命はどれくらいですか? 長寿なんですね」

 この世界にいたのはひいおばあちゃんに違いない。カスタムさんの話を聞いて思った。私の持っていたネックレスやひいおばあちゃんが書いた絵本。あの絵本は、空想の世界を書いた物だと思っていたけれど、この世界の事で間違いない。でもどう見ても腑に落ちないことがあった。私が見たあの男はどう見ても20代に見えた。

「春子様がこの世界から消えたのは、今から二年ほど前の事です」

「えっ?」

「そうです。ブレック様はこの二年の間ずっと春子様をお探しになっていました。はじめは領地は勿論の事、この国全体しまいには隣国にも足を延ばすこともありました。春子様が忽然と消えたのは、もしかしたらどこかに連れ去られたのではないかと思っての事です。『ときびと様』は、いわば国の守り神のようなものなのです。ブレック様は爵位も利用して国に働きかけていました」

 カスタムさんは私に淡々と話してくれた。でも私に見せたあの敵意のこもったまなざし、あれはなんなんだろう。
 

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