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7 ときびと様ですか?
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朝もアリーには申し訳なかったが、朝食も部屋でとることにした。アリーは不満そうな顔一つせずに用意してくれたが、やはり小心者の私としては、お昼からは食堂でとろうと思った。
朝食を終えて、部屋に置いてある本を読むことにした。昨日は気が付かなかったが、部屋には本が何冊か置かれていた。
興味を覚えて手に取って開くと、日本語でもないのにすらすらと読むことが出来た。挿絵もきれいで、子供向けの絵本に近かった。世界は変わっても子供の好きなものは同じらしい。三冊ある一冊はお姫様と王子様のお話し。後の二冊は冒険ものだった。ただそのどの本にも当たり前のように魔法が書かれていた。どうやらこの世界では空気を吸う様に魔法が使えるらしい。
昨日アリーからもらったネックレスの存在をあらためて首に感じた。自分に魔法が使えないことを知ってから、家に帰りたい気持ちが強くなった。アリーには、どうやったら家に帰ることが出来るのか聞こうと思った。考えてみれば、この世界では魔法が使えるのだ。家に帰る魔法もきっとあるに違いない。私は、自分にそう言い聞かせた。
もう一度絵本を読み返している間に、アリーが部屋に入ってきた。
「今からお庭でも散歩なさいますか?」
「あっ、はい。アリーさん、その前にちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんでしょう」
「私って元の世界に帰ることできるんですよね。この世界って魔法がありますもんね」
「そうでしたね。いろいろご説明しないといけませんね。ちょっとお待ちいただけますか。今魔法に詳しいものを連れてまいりますので」
「すみません。よろしくお願いいたします」
アリーは、いえお気になさらずといって部屋を出て行った。私は絵本をまた見始めたが、やはり気になって今度はさっぱり内容が頭に入ってこなかった。しばらくしてアリーが戻ってきた。
「今から部屋を移動しますがよろしいですか? そちらのほうが資料もあるとのことですので」
「わかりました」
私は、初めて部屋を出た。連れてこられた時には、意識がなかったからだ。廊下に出ると、やはりお城のような建物だけあって、テレビでよく見る西洋のお城の中のように重厚感があった。床にはカーペットが引かれていて廊下についている明かりもシャンデリアのミニチュア版が天井からいくつもたれさがっている。
どれくらい歩いただろうか。アリーがドアを開けてくれたので、中に入ると壁全体にぎっしりと本が並んでおり、まるで図書館のようだった。らせん階段で上に上がれるようになっており、たぶん三階ぐらいまであるだろうか。
部屋の真ん中には大きな机といすがいくつかおかれている。二階、三階にも小さな机といすが置かれているのが見えた。アリーは大きな机の前にある椅子を引いて私を座らせた。
部屋の奥から一人の男性が現れた。まだ20代の若さに見える。眼鏡をかけたきりっとした顔だちの男性だった。
「初めまして。わたくしは、このラドウィル公爵家に仕えておりますカスタムと申します」
「大城冬子です。よろしくお願いします」
「おおしろ? 様ですか...」
私も椅子から腰を上げてあいさつした。目の前にいるカスタムさんは、私の名前に反応して小さくつぶやいた。
そして何やら考えている。
「あのう~」
私は、気になってカスタムさんをじっと見た。
「あっ、すみません。大城様とおっしゃるのですね。大城様の世界では、よくあるお名前なのですか?」
「ええ、特に珍しくもない名字です。もしかしてこの名前を聞いたことがあるんですか? この世界に私のように別の世界から来た人がいるんですか?」
目がすごんでいたのかもしれない。私が一番聞きたかったことだったから。カスタムさんは私の顔をよ~く見てから話してくれた。
「はい。大城というお名前は聞いたことがあります。以前にそのお名前の方が、この公爵家にいらしたことがあるんです。この世界にはたまに別の世界から来る人がおります。この世界では、その方を『ときびと様』といって大切に保護しなければならないという決まりがあるのです。何でも大昔にこの世界を救ったという伝説があるからです。ただ今この国にいる『ときびと様』は大城様お1人かと。ほかの国にはいると聞いたことがございますが」
「そうなんですね。こちらの世界に来た人って帰れるんですよね。この公爵家にいた人って元の世界に帰ったんですよね。この世界には魔法があるんですから」
「それが、この世界の魔法は『ときびと様』には使えないのです。『ときびと様』はご自身に魔力がなく魔法が使えないかわりにどんな魔法も効かないのです」
「じゃあ前にこの屋敷にいた人は、どうやって帰ったのですか?」
カスタムと名乗った男の人は、私の問いに複雑そうな顔をした。私は彼のその顔を見て嫌な予感がした。
朝食を終えて、部屋に置いてある本を読むことにした。昨日は気が付かなかったが、部屋には本が何冊か置かれていた。
興味を覚えて手に取って開くと、日本語でもないのにすらすらと読むことが出来た。挿絵もきれいで、子供向けの絵本に近かった。世界は変わっても子供の好きなものは同じらしい。三冊ある一冊はお姫様と王子様のお話し。後の二冊は冒険ものだった。ただそのどの本にも当たり前のように魔法が書かれていた。どうやらこの世界では空気を吸う様に魔法が使えるらしい。
昨日アリーからもらったネックレスの存在をあらためて首に感じた。自分に魔法が使えないことを知ってから、家に帰りたい気持ちが強くなった。アリーには、どうやったら家に帰ることが出来るのか聞こうと思った。考えてみれば、この世界では魔法が使えるのだ。家に帰る魔法もきっとあるに違いない。私は、自分にそう言い聞かせた。
もう一度絵本を読み返している間に、アリーが部屋に入ってきた。
「今からお庭でも散歩なさいますか?」
「あっ、はい。アリーさん、その前にちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんでしょう」
「私って元の世界に帰ることできるんですよね。この世界って魔法がありますもんね」
「そうでしたね。いろいろご説明しないといけませんね。ちょっとお待ちいただけますか。今魔法に詳しいものを連れてまいりますので」
「すみません。よろしくお願いいたします」
アリーは、いえお気になさらずといって部屋を出て行った。私は絵本をまた見始めたが、やはり気になって今度はさっぱり内容が頭に入ってこなかった。しばらくしてアリーが戻ってきた。
「今から部屋を移動しますがよろしいですか? そちらのほうが資料もあるとのことですので」
「わかりました」
私は、初めて部屋を出た。連れてこられた時には、意識がなかったからだ。廊下に出ると、やはりお城のような建物だけあって、テレビでよく見る西洋のお城の中のように重厚感があった。床にはカーペットが引かれていて廊下についている明かりもシャンデリアのミニチュア版が天井からいくつもたれさがっている。
どれくらい歩いただろうか。アリーがドアを開けてくれたので、中に入ると壁全体にぎっしりと本が並んでおり、まるで図書館のようだった。らせん階段で上に上がれるようになっており、たぶん三階ぐらいまであるだろうか。
部屋の真ん中には大きな机といすがいくつかおかれている。二階、三階にも小さな机といすが置かれているのが見えた。アリーは大きな机の前にある椅子を引いて私を座らせた。
部屋の奥から一人の男性が現れた。まだ20代の若さに見える。眼鏡をかけたきりっとした顔だちの男性だった。
「初めまして。わたくしは、このラドウィル公爵家に仕えておりますカスタムと申します」
「大城冬子です。よろしくお願いします」
「おおしろ? 様ですか...」
私も椅子から腰を上げてあいさつした。目の前にいるカスタムさんは、私の名前に反応して小さくつぶやいた。
そして何やら考えている。
「あのう~」
私は、気になってカスタムさんをじっと見た。
「あっ、すみません。大城様とおっしゃるのですね。大城様の世界では、よくあるお名前なのですか?」
「ええ、特に珍しくもない名字です。もしかしてこの名前を聞いたことがあるんですか? この世界に私のように別の世界から来た人がいるんですか?」
目がすごんでいたのかもしれない。私が一番聞きたかったことだったから。カスタムさんは私の顔をよ~く見てから話してくれた。
「はい。大城というお名前は聞いたことがあります。以前にそのお名前の方が、この公爵家にいらしたことがあるんです。この世界にはたまに別の世界から来る人がおります。この世界では、その方を『ときびと様』といって大切に保護しなければならないという決まりがあるのです。何でも大昔にこの世界を救ったという伝説があるからです。ただ今この国にいる『ときびと様』は大城様お1人かと。ほかの国にはいると聞いたことがございますが」
「そうなんですね。こちらの世界に来た人って帰れるんですよね。この公爵家にいた人って元の世界に帰ったんですよね。この世界には魔法があるんですから」
「それが、この世界の魔法は『ときびと様』には使えないのです。『ときびと様』はご自身に魔力がなく魔法が使えないかわりにどんな魔法も効かないのです」
「じゃあ前にこの屋敷にいた人は、どうやって帰ったのですか?」
カスタムと名乗った男の人は、私の問いに複雑そうな顔をした。私は彼のその顔を見て嫌な予感がした。
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