あなたが恋する人のひ孫である私

にいるず

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6 魔法は使えないようです 

 アリーがカートに乗せてはこんでくれた食事はおいしかった。先ほど食べたリゾットのようなものもおいしかったので、不安はなかったが予想以上だった。デザートのほかにフルーツも出た。見たこともないフルーツだったが、本当にほっぺたが落ちそうなほど甘くてジューシーな味だった。
 パクパク食べる私をそっと見ていたアリーは、安心したようだった。食べ終わってのんびり窓から外を見ると、もう日も落ちて真っ暗になっていた。
 庭は、明かりらしいものがあるのかところどころ明るくなっている。たぶん夜の散策もできるようになっているのだろう。その幻想的な様子にまた庭を歩いてみたいなと思った。

「じゃあ、寝る支度をしましょうか」

「はい」

 アリーは、別の部屋を案内していった。ドアがやけに多いなと思ったら、もう一つ部屋がありトイレやお風呂、洗面所まで備え付けられていた。さながら高級ホテルのスイートルーム並みだ。
 
「使い方をご説明しますね」

「はい。お願いします」

 ただ私の世界のホテルと大きく違ったのは、この世界には魔法がありすべて魔法を使っていろいろできるというものだった。アリーは、私に使い方を教えてくれた。手を蛇口にあてるだけで水やお湯が出ること。私もアリーに倣ってさっそく真似をしてみた。
 しかし水もお湯も出なかった。

「出ないよ~。アリーさん」

 私の顔が半泣きになっているのを見たアリーが、自分の洋服のポケットからいくつか石を出してきた。

「蛇口の横にこの石をいくつか置いておきますね」

 あとはといって取り出したのは、かわいらしいネックレスだった。チェーンの先に小さい石が付いている。

「普段は、これを付けていてくださいますか。この石が役目を果たしてくれますから。ただお風呂の時には先ほどの石をお使いくださいね」

「はい。この石は?」

「この石は魔石といって魔力が込められているんですよ」

「へえ~」

 私は、さっそくそのネックレスをありがたく頂戴して首にかけた。そして蛇口を触ると水が出た。今度はお湯を出したいなと思ったとたん水からお湯に変わった。

「すごいですね~」

 さっきまで半泣きだった私が、急に笑顔になったのを見たアリーはほっとしたようだった。私はそんなアリーに気づかずに、蛇口から出るお湯や水を楽しんでいたが、はっと我に返った。

「アリーさん、もしかしてこの国の人ってみんな魔法が使えるんですか?」

「ええ。力の大小はありますが皆使えます」

「そんな~。じゃあ私って魔法が使えないんですね」

 この世界に魔法があると聞いて、すごくうれしかったのだが、衝撃の事実を知って世界はそう甘くないことを悟った。魔法の事を聞くまでもなく、私は魔法が使えない。ファンタジーの世界が遠くなっていった。

 途端にこの世界に異物の様にいる自分が悲しくなった。おかしいもので先ほどまでは気持ちが少し高揚していたのに、今はまたもやホームシックになってしまった。うちに帰りたい。そんな思いが顔に出ていたのだろう。

「今からお風呂はいかがですか。着替えもここに用意しておりますし。気持ちもよくなりますよ」

 アリーにどうぞといわれて私は、考えることをやめてお風呂に入ることにした。ネックレスはいったん外して、アリーが置いていってくれた石を使うことにした。
 
 お風呂は気持ちよかった。入浴剤やシャンプーなど私の世界と変わらなかった。いや私が、うちで使っている物より断然お高いものかもしれない。香りもよく使った後、髪やお肌がすべすべした気がする。髪も魔法ですぐに乾いた。げんきんなもので、気持ちよく入浴できたおかげか少しホームシックは収まっていた。

 部屋に戻ると、ベッドシーツがきちんと取り替えられていた。テーブルには、飲み物までおいてある。用意してくれていたパジャマもズボンタイプではなくて、お姫様が着るようなドレスタイプだった。
 
 今度はきちんとガウンを着てまたバルコニーに出てみた。空には小さな月のようなものが二つ浮かんでいて、ここが自分のいた世界ではないことを教えてくれた。お城のように見える窓からはそこかしこに明かりが漏れていて、ファンタジーの世界を思い起こさせた。
 
 ふと視線を感じて下の庭を見ると、誰かがこちらを見ていた。ただついさっきまで柔和だった顔が、私がその人を見たとたん遠目からでもその人の顔が険しくなっていくのがわかった。はっとしたように見えたので、きっと向こうも私が誰か気が付いたのだろう。

 「あいつだ!」

 私は小さく声を出していた。そして転がるように部屋に戻った。思い切り窓を閉めてカーテンをする。まだ心臓の音がバグバグいっている。
 たぶん私の首に傷をつけたやつに違いない。ちらりと見ただけだけどそう確信した。向こうも私をずいぶん嫌っているようだ。私と気が付いたとたんに険しくなったのだから。でもその前のあの柔和な顔は何だったのだろう。
 しばらく頭から離れなかったが、考えるのも嫌になってお布団をひっかぶって寝ることにした。

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。カーテンの隙間から日差しが入り込んでいる。私は、慌ててカーテンを開けた。外はいいお天気で、湖の水面が太陽に照らされてきらきら輝いて見える。
 あまりのきれいな景色に見とれていると、ドアをノックする音がした。私がドアに走って行って開けると、立っていたのはアリーだった。

 「よくお休みになれましたか」

 「はい」

 私が元気に挨拶すると、アリーは手に持っていた洋服というか何着かのドレスをもう一つの部屋にあるクローゼットに掛けにいった。

 「さあさあ、お支度なさってくださいませ」

 アリーは、私を洗面所に向かわせた。私がさっぱりして部屋に戻ると、アリーは私をクローゼットまで連れて行った。

 「今日はどれになさいますか」

 クローゼットの中には、色とりどりのドレスが入っている。ドレスといっても自分で着られるもので、女の子のあこがれが詰まったものばかりだった。

 「これっ、どれでも着ていいんですか?」

 私が、食い入るようにドレスを見ていたからだろう。アリーがにこっと微笑んで一着のドレスをとった。

 「今日はこれになさいますか」

 私の好きな水色のドレスだった。袖の先やドレスの裾に繊細なレースがあしらわれている。

 「ありがとう。水色好きなの」

 私が嬉しそうにドレスを受け取ったからだろう。

 「着ていらしたお洋服もちょうどこのお色でしたね」

 アリーが言った。そういえばと見ると、クローゼットの中に私が着ていた洋服がきちんと折りたたまれて置かれていたのだった。


 
 


 
 
 

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