上 下
46 / 80

44 アフタヌーンティーセットを注文しました

しおりを挟む
店内は、まばらに人が座っているぐらいで、すいていた。
時間もお昼を過ぎているせいだろう。

2人は、さっそくアフタヌーンティーセットを注文した。

お皿が三段のケーキスタンドが運ばれてきた。

敦子は、それだけでテンションが上がった。

まず紅茶を飲む。普段の飲んでいる紅茶よりおいしく感じる。

雰囲気もあるだろうが。

2人で、好きなものを選んで食べていった。
敦子がすごく楽しそうに食べているのを、玉山もうれしそうに眺めていたが、急に目が細くなった。

やはりというべきか玉山が先ほど言った通り、突然それは起こった。

「 昨日の夜一緒にいた人は誰? 」

敦子は、食べていたスコーンを皿に置いて、姿勢を正して玉山を見た。

見れば玉山の目が笑っていない。

顔が整っている分、余計に怖く感じる。

無言の脅迫を受けて、敦子はしぶしぶいった。

「 会社の人ですよ。昨日は、同期の子たちとあとその彼氏さんたちと一緒に食事会をしたんです。 」

無理に笑顔を作ってさりげなく言おうとしたが、玉山の顔を見て撃沈した。

「 昨日の彼も彼女がいるの? 」

玉山の追及の手は休まない。

「 いえ。彼は、今フリーのようです。ただ私がいつも彼の仕事をしているので、そのお礼でおごってもらったんです。 」

「 彼今フリーなんだ。 」

突然店内がブリザードに襲われたように、敦子は玉山から見えない冷気を感じた。

「 昨日もこの前も滝村さんの背中に手を当てていたよね。まるで自分のもののように。 」

敦子は、急に怒りがわいてきた。

「 そういう玉山さんだって、こうやって小池さんから腕をつかまれていたり、腕を絡ませていたんじゃないですか。 」

敦子が急にすごい剣幕で、しかもジェスチャー付きで言ってきたので、玉山は驚いたようだった。

その証拠に目が丸くなっている。

敦子は、この前の事や昨日の事を思い出したら、怒りがふつふつとわいてきて何度も玉山にいった。

「 こうやって腕をつかまれたりしてたんじゃないですか。私の場合背中なんて見えないんだから、仕方ないです。 」

敦子は自分の主張を繰り返した。

「 僕だって気づかなかったよ。それに滝村さんに気を取られていたんだから。 」

玉山も玉山で自分の言い分を言ってきた。

「 玉山さんて小池さんを見るときの目が優しいんですよね。もしかして本当は、気があるとか。 」

敦子は一番気になっていることを言った。

玉山は、敦子が言ったことを聞いて、急にしゅんとなった。

「 自分じゃ気が付かなかったけど、ほかの人とは違っていたのかもしれない。
まあそのことが、彼女に誤解を抱かせる原因になったと思うんだけど。
周りにも言われたんだ。
彼女とほかの人と温度差がないかって。
けど自分では気づかなかったし、気にもしてなかったんだ。 」

「 それってやっぱり彼女の事が好きなんじゃないんですか。 」

敦子は玉山にそう言った。
しかし言ったそばから無性に悲しくなってきた。

「 違うんだ。
彼女の事は本当になんとも思っていない。
ただあの顔を見ると、なんとなくほかの人とは違うというか、自分でもよく説明できないけれど。
正直言うと初め会った時には、自分でも彼女のことが好きなのかと錯覚したぐらい位は、彼女が気になった。
でも一緒に会社で仕事をするうちにすぐわかったんだ。
彼女じゃないって。
なんといって説明したらいいかわかんないんだけど、心の中で自分が言うんだ。
彼女じゃないって。
うまく説明できなくてごめん。
だから彼女の事は何とも思ってないし、昨日彼女にはきちんと言った。
こんなことで滝村さんと会えなくなるのは、嫌だし、勘違いされるのも嫌だから。 」

玉山は真剣な目をして敦子にいってきた。

敦子は敦子で、そんなことをいわれてうれしくないはずがない。
心の中では、心臓が踊りだしたいくらいだった。

しかし一方で玉山の先ほどの発言が気になった。

玉山は、『  』といった。

敦子が見ている夢を玉山も見ているのだろうか。
玉山に聞いてみたくなった。

そして聞こうかと思った時だった。

「 滝村さんはどうなの? 昨日の彼をどう思っているの? 」

「 えっ、笹川さんの事ですか? 彼はモテるし、会社でも人気者ですよ。ただの同僚です。 」

「 でも滝村さん自身の気持ちはどうなの? 」

玉山は頑としても聞き出したいらしい。

とうとう敦子は胸の内を言っってしまった。

「 笹川さんの事は、なんとも思っていません。まあ彼も同じでしょうけど。それより目の前の人のほうが気になります。 」

「 えっ。 」

玉山も急に言われてうろたえてしまったようだった。

急に顔と耳が赤くなった。
そしてぼそぼそといった。

「 僕も滝村さんの事が好きだ。。。 」

敦子も敦子でそこまでの答えが聞けるとは思わず、玉山に負けず顔を赤くしてしまった。

そして2人でもじもじ下を向いてしまった。

はたから見ればさっきまで言い合っていたのに、急にふたりでもじもじしだして、痴話げんかなのか見合いなのかよくわからないだろう。

先に自分を取り戻したのは、玉山だった。

玉山は、自分で落ち着くように紅茶を飲んだ。

「 まずこれ食べようか。 」

敦子もやっと落ち着いてきて、先ほどの皿にある食べかけのスコーンを食べ始めた。

お互い食事に集中しているうちに、ふたりとも平常心に戻ったので、残ったお皿の上の段のケーキをどれにしようかと話し始めた。

気が付けば紅茶も冷め切っていて、係りの人が取り替えてくれた。

絶妙なタイミングで来たので、もしかしたらすべて見られていたのかもしれない。

しかしお互いの胸の内を明かした二人は、そんなことを気にすることもなく楽しく食事をすることができた。

結局敦子が、多めにケーキをもらい、その場の食事を終えた。


またもや玉山が会計を済ませてしまったが、帰るときに係りの人に言われた。

「 今日は、何かのロケで来られたんですか。撮影はもうおすみになったんですか。 」

もしかしたらサインでも貰おうかと思ったらしい。

「 いえ、一般人です。 」

玉山が言うと、相手の人は、びっくりしていった。

「そうなんですか。ここよくロケやモデルさんの撮影があるのでてっきりそれかと。 」



敦子は思った。

私って何と思われたんだろう。やっぱりあれ?

____マネージャーさん!____

そうして一人心の中でやさぐれるのだった。

それは、玉山がそんな変な顔をしている敦子に手を差し出すまで続いたのだった。




しおりを挟む

処理中です...