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1章
28.お客様と夕ご飯
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チャララーンと音を立ててコンビニのドアが開いた。
「いらっしゃいませー!」
商品の補充をしていたので、お客さんの方は見ていない。とりあえずレジに人いるし、入り口から私の姿は見えないから大丈夫でしょ。
そうして箱の中身を順番に棚に詰めていたら、突然肩を叩かれる。
何かヘルプかな?と思って振り向いたら、かっちりとスーツを羽織った男の人、条野さんが立っていた。
「え、条野さん?」
二日前に会ったときとちょっと印象が違う。スーツなのは同じだけど、あのときは着崩れてたというか、まあ仕方ないのだけど。それに頬の腫もほとんど引いていた。
「楓さんのバイト先はコンビニやろ?この時間帯に行けば会えるかな思ってな。持っとった袋のロゴでどこの系列かもわかっとったし」
まあ、普通に考えたらそうか。私のアパートから一番近いコンビニここだもんね。
「いつ空いとるん?」
「え?」
「一昨日言うたやろ?夕飯奢るて」
え、あれ本気だったんですか。連絡先とか聞かれなかったし、なあなあになるかなー、と。
「そんな気にしないでください。どうしても気になるんでしたら、チキンとか買って売り上げに貢献してくださればそれで十分ですよ」
現在七百円以上のお買い上げでくじ引きできますので、ぜひどうぞ。
「いくつ買えばええ?百個くらいか?」
いや、そんなに買って誰が食べるんですか!?というかそもそも、百個も在庫ないです!何回くじ引きするつもりですか!?
そして条野さんがちらっと出した財布、なんか分厚い。そして入ってるカードが、どっかで見た黒いカードとか、金色のとか……冗談に聞こえない。
「一個で十分ですよ!?」
「それならあるだけと、他ハコでもらおか?」
いや、一個で十分って言ってるじゃないですか!
「でしたら水曜!水曜の夜なら空いてます!」
コンビニの買い物で諭吉二人くらい飛ばす気かこの人!その額、公共料金とか通販の支払いくらいでしか見ないよ?売り上げ的には有難いんですが、私的にはよくないです!社会人すごいってレベルじゃない!
「ラーメンとかいいですよね!あー、ラーメン食べたいです!」
ラーメンなら高くてもせいぜい千円だ。この場合、大人しく奢ってもらうのが正解な気がしてきた。あ、牛丼でもよかったかな。まあ、いっか。
「ラーメンか。ええな」
よかった、納得してくれた。最近ラーメン食べてなかったし、ちょうどいいかな。
「水曜は……明後日やな」
条野さん、お金持ちっぽいというか実際お金持ちだろうから、まあ、奢ってもらおう。
「ほな、六時に迎えに行くわ」
そう言った条野さんの笑みは、なんだか含みがある感じだった。
……あれ?まさかこの状況に持ち込むためにわざとチキン百個とか言ったのかな?もしかして私、嵌められた?
弁当片手に私は固まった。でも今さらどうこう言えるわけもなく。
「楽しみやわ。担々麺の美味い店、紹介するな」
「よ、よろしくお願いします……」
まあ、担々麺好きなので嬉しいですけど、なんか素直に喜べない。
半ば諦めて弁当を移す作業を再開したら、条野さんはおにぎりを二つ手に取ってレジの方へ向かい、お会計を済ませてコンビニを出ていった。
断るチャンスを完全に失った私は、再度フリーズして大きくため息をついた。
「……肉まんヤクザの次はイケメン金持ち社会人って、山野お前最近どうしたんだ?」
お客さんがいなくなり、レジから寺田くんが声をかけてきた。裏からも同じくバイトの小野寺さんが興味津々、といった感じで出てきた。
「どういう知り合い?夕飯がどうとか言ってたけど、なに?デートのお誘いっ!?」
「そんなのじゃないって。ちょっと手助け?したら、そのお礼に夕飯をって」
いや、さすがの私もここまでされて気付かないほど鈍感じゃないよ?でも、なんというか、展開急すぎるというか、オープンすぎて怖い!前例と違いすぎるっ!
「いいじゃん、イケメンだしお金持ちっぽいし優しそうだし。付き合っちゃいなよ。なんなら私が欲しい」
「悪い人じゃないと思うよ?でもまだ会って三日目の人とって、早すぎない?」
「即結婚するんじゃないんだし、付き合ってみて決めればいいんじゃない?」
「え、まさか山野、あの肉まんヤクザの方がいいとか……?」
二人とも飛躍しすぎ!というか寺田くんに至ってはなぜここで昌治さんの話題を持ち出したっ!?
どっちがいいとかの問題じゃないし!
昌治さんは、もう関係ない。もう二週間近く音沙汰ないし、きっと私なんかに興味をなくしたに違いない。一時の気まぐれ。たぶん、そういうこと、だよね……?
思えば昌治さんと条野さんって、真逆のタイプかも。
昌治さんは、なんだかわかりにくい分、不器用だけど真っ直ぐなのが伝わってきたような……って、気のせい!違う!自意識過剰っ!もう終わったことでしょうが!
「とりあえず明後日会うから、そのときに考えるよ」
小野寺さんに、条野さんの気が変わっちゃったらどうするんですか、と言われたけど、まあそのときは縁がなかったということだ。
お金持ちの妻ってちょっといいかも、と考えなかったと言えば嘘になる。でも、お互いに気持ちが伴わなかったりしたら意味ないし、それで気が変わってしまうくらいなら長続きなんてしない。付き合わない方がマシなのかもとも思う。
「どうなったかは、また来週話すから」
とりあえずそう言ったらこの場は収まった。小野寺さんの目がキラキラしている。まあ、他人の恋愛話って、聞いてる分には楽しいよね。私もそうです。他人事だったら。
「いらっしゃいませー!」
商品の補充をしていたので、お客さんの方は見ていない。とりあえずレジに人いるし、入り口から私の姿は見えないから大丈夫でしょ。
そうして箱の中身を順番に棚に詰めていたら、突然肩を叩かれる。
何かヘルプかな?と思って振り向いたら、かっちりとスーツを羽織った男の人、条野さんが立っていた。
「え、条野さん?」
二日前に会ったときとちょっと印象が違う。スーツなのは同じだけど、あのときは着崩れてたというか、まあ仕方ないのだけど。それに頬の腫もほとんど引いていた。
「楓さんのバイト先はコンビニやろ?この時間帯に行けば会えるかな思ってな。持っとった袋のロゴでどこの系列かもわかっとったし」
まあ、普通に考えたらそうか。私のアパートから一番近いコンビニここだもんね。
「いつ空いとるん?」
「え?」
「一昨日言うたやろ?夕飯奢るて」
え、あれ本気だったんですか。連絡先とか聞かれなかったし、なあなあになるかなー、と。
「そんな気にしないでください。どうしても気になるんでしたら、チキンとか買って売り上げに貢献してくださればそれで十分ですよ」
現在七百円以上のお買い上げでくじ引きできますので、ぜひどうぞ。
「いくつ買えばええ?百個くらいか?」
いや、そんなに買って誰が食べるんですか!?というかそもそも、百個も在庫ないです!何回くじ引きするつもりですか!?
そして条野さんがちらっと出した財布、なんか分厚い。そして入ってるカードが、どっかで見た黒いカードとか、金色のとか……冗談に聞こえない。
「一個で十分ですよ!?」
「それならあるだけと、他ハコでもらおか?」
いや、一個で十分って言ってるじゃないですか!
「でしたら水曜!水曜の夜なら空いてます!」
コンビニの買い物で諭吉二人くらい飛ばす気かこの人!その額、公共料金とか通販の支払いくらいでしか見ないよ?売り上げ的には有難いんですが、私的にはよくないです!社会人すごいってレベルじゃない!
「ラーメンとかいいですよね!あー、ラーメン食べたいです!」
ラーメンなら高くてもせいぜい千円だ。この場合、大人しく奢ってもらうのが正解な気がしてきた。あ、牛丼でもよかったかな。まあ、いっか。
「ラーメンか。ええな」
よかった、納得してくれた。最近ラーメン食べてなかったし、ちょうどいいかな。
「水曜は……明後日やな」
条野さん、お金持ちっぽいというか実際お金持ちだろうから、まあ、奢ってもらおう。
「ほな、六時に迎えに行くわ」
そう言った条野さんの笑みは、なんだか含みがある感じだった。
……あれ?まさかこの状況に持ち込むためにわざとチキン百個とか言ったのかな?もしかして私、嵌められた?
弁当片手に私は固まった。でも今さらどうこう言えるわけもなく。
「楽しみやわ。担々麺の美味い店、紹介するな」
「よ、よろしくお願いします……」
まあ、担々麺好きなので嬉しいですけど、なんか素直に喜べない。
半ば諦めて弁当を移す作業を再開したら、条野さんはおにぎりを二つ手に取ってレジの方へ向かい、お会計を済ませてコンビニを出ていった。
断るチャンスを完全に失った私は、再度フリーズして大きくため息をついた。
「……肉まんヤクザの次はイケメン金持ち社会人って、山野お前最近どうしたんだ?」
お客さんがいなくなり、レジから寺田くんが声をかけてきた。裏からも同じくバイトの小野寺さんが興味津々、といった感じで出てきた。
「どういう知り合い?夕飯がどうとか言ってたけど、なに?デートのお誘いっ!?」
「そんなのじゃないって。ちょっと手助け?したら、そのお礼に夕飯をって」
いや、さすがの私もここまでされて気付かないほど鈍感じゃないよ?でも、なんというか、展開急すぎるというか、オープンすぎて怖い!前例と違いすぎるっ!
「いいじゃん、イケメンだしお金持ちっぽいし優しそうだし。付き合っちゃいなよ。なんなら私が欲しい」
「悪い人じゃないと思うよ?でもまだ会って三日目の人とって、早すぎない?」
「即結婚するんじゃないんだし、付き合ってみて決めればいいんじゃない?」
「え、まさか山野、あの肉まんヤクザの方がいいとか……?」
二人とも飛躍しすぎ!というか寺田くんに至ってはなぜここで昌治さんの話題を持ち出したっ!?
どっちがいいとかの問題じゃないし!
昌治さんは、もう関係ない。もう二週間近く音沙汰ないし、きっと私なんかに興味をなくしたに違いない。一時の気まぐれ。たぶん、そういうこと、だよね……?
思えば昌治さんと条野さんって、真逆のタイプかも。
昌治さんは、なんだかわかりにくい分、不器用だけど真っ直ぐなのが伝わってきたような……って、気のせい!違う!自意識過剰っ!もう終わったことでしょうが!
「とりあえず明後日会うから、そのときに考えるよ」
小野寺さんに、条野さんの気が変わっちゃったらどうするんですか、と言われたけど、まあそのときは縁がなかったということだ。
お金持ちの妻ってちょっといいかも、と考えなかったと言えば嘘になる。でも、お互いに気持ちが伴わなかったりしたら意味ないし、それで気が変わってしまうくらいなら長続きなんてしない。付き合わない方がマシなのかもとも思う。
「どうなったかは、また来週話すから」
とりあえずそう言ったらこの場は収まった。小野寺さんの目がキラキラしている。まあ、他人の恋愛話って、聞いてる分には楽しいよね。私もそうです。他人事だったら。
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