黒猫館の黒電話

凪司工房

文字の大きさ
25 / 31
第三章 「黒猫館の秘密」

6

しおりを挟む
 歩いたのは十分ほどだろうか。
 ずっと真っ直ぐに掘ってあったトンネルが行き止まりになった。
 天井は高く、左右に通路が広がっていたが、どちらも五メートルほどで壁になっていた。
 ただ目の前の巨大な壁にはシャッターが一枚、下ろされている。
 今まで黒猫館の中には明治末期から大正期のレトロな雰囲気を感じさせる造りで統一されていたが、ここは明らかに現代的だった。

「一応、黒井と二人でなら上げられそうだが」

 桐生もよくない予感を持っているのだろう。含みのある言い方で、良樹に同意を求めてくる。

「開けて下さい」

 だがそう言ったのは美雪だった。彼女はもう一度それぞれの顔を見ると「お願いします」と頭を下げる。

「それじゃあ、開けるぞ」

 良樹と桐生の二人でシャッターの下に手を入れ、思い切り持ち上げた。
 五メートルほど上で吸い込まれて消えたのを見ていると足立里沙が、

「何なの」

 唖然とした声をらす。
 慌てて良樹が視線を戻し、壁の向こう側にあったものを確認するが、彼もまた同じように唖然としてしまった。
 そこには家が建てられていた。それもミニチュアの黒猫館のような、二階建てだ。耳の部分のように三角屋根が出ており、玄関のドアを口に見立てると二階の大きな窓がさながら猫の目のようだった。
 その家の前には黒猫が座っている。一匹、いや二匹に増えた。
 気づくと屋根にも沢山の黒猫がいて、良樹たちにじっとその目を向けている。
 あの日見た黒猫だろうか。いや、けれどそれはもう十年も前の話だと思い直して良樹は足立里沙を見たが、彼女も同じ思いを抱いていたようだ。小さく頷き、それから前を見るよう促した。
 キィ、と音が響く。自然と入口のドアが開けられたのだ。
 誰もが声を上げずにその動向を注視していた。
 現れたのは小学生低学年くらいの女の子だ。肌は白く、髪は床に届くほど長い。苺の水玉のような模様が付いたワンピースを着ており、足は裸足だった。彼女は両手で汚れた熊のぬいぐるみを抱え、その不自然に大きな瞳をこちらに向けている。

「おにいちゃんたち、ワタシのお友だちかしら?」

 子どもの声だが、空気が漏れたような掠れた音が混ざっている。
 良樹はどう答えたものかと桐生を見たが、その前に美雪が一人歩み出て、こう返した。

「私は深川美雪ふかがわみゆき。あなたのことは知らないけれど、もし可能ならお友だちになりたいと思うわ。ところで、あなたのお父さんかお母さんはいらっしゃるかしら」

 その女の子は首を横に振る。いや、首だけでなく、体も左右に振るものだから抱いているぬいぐるみが大きく揺れ、足をぶらぶらとさせた。その足先から、何かの液体が飛ぶ。

「それじゃあ、あなたに尋ねるんだけど、さっき、ここに男の人が連れられてこなかったかしら。その男性、私たちのお友だちなの」
「うちに、いるよ」
「そうなの? それじゃあ会わせてくれるかしら」
「いいよ」

 普通にやり取りをしている会話の内容なのに、何故か良樹は言葉にし難い気持ち悪さを感じていた。

「じゃあ、私が行きます」
「待って」

 笑顔で宣言した美雪の腕を、足立里沙が掴む。

「深川さんはここにいて。私が確かめてくるから」

 里沙はあの女の子が出てきてからずっと表情が硬い。何か思いつめているとすら感じられて、良樹は「僕も行く」と思わず言ってしまう。

「二人でお邪魔してもいいかしら?」

 その里沙の問いかけに、女の子はじっと二人の顔を見つめる。

「あなたたちは、恋人?」

 流石の里沙も虚を突かれたのか、瞬きしながら良樹を見て、どう答えるべきなのか迷っている。

「友だちです。僕は黒井良樹くろいよしき、彼女は足立里沙。大学時代の友人です」

 良樹が代わりに答えたが、女の子はつまらなさそうな顔をすると「まあいいわ」と言って、中に入るよう促した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

処理中です...