26 / 31
第四章 「狂気の末路」
1
しおりを挟む
玄関を潜ると、そのままリビングになっていた。右手側にキッチンが見える。奥の扉の向こうは寝室だろうか。
内装はピンクの壁紙が貼られ、蛍光灯がぶら下がっている。壁際には本棚が一つ、花瓶の置かれた棚が一つと、テーブルセットがある。そのテーブルの上にはティーカップが二つ、並んでいた。
「もう一人、誰がいるのかしらね」
それを目にした足立里沙は入ってきて後ろ手にドアを閉めた女の子に対し、そう問いかける。
「ワタシの大切な人がいるの。紹介して欲しい?」
「ええ、是非」
良樹を挟んで、二人ともが笑みを浮かべている。里沙の考えがいまいち分からないが、ここは彼女に任せようと黙っておいた。
女の子は奥のドアを開けると、
「こっちよ」
良樹たちに中に入るよう促す。
「ありがとう」
そう答え、先に里沙が歩き出したが、良樹はその前に割って入り、彼女よりも早く、奥の部屋の中を覗き見た。
――!
心臓がおかしな動きをした、と感じた。
良樹は呼吸が苦しくなり、手足がそれ以上進むのを激しく拒絶した。
「黒井君?」
「……見るな」
「え?」
「足立さん、早くここから出て!」
「ちょっと、どうしたのよ……え」
足立里沙も良樹の背中越しに、ベッドの上に置かれているものに気づいたのだろう。
人は自分の想像を超えるものを目にした時に、脳が処理をし切れずにまるでそこにないものまでも補完して本人に見せてしまうものなのかも知れない。
ベッドの上には安斉誠一郎が座っていた。いつものように足を組み、腕を組んでこちらを見て、ちょっと格好を付けたように微笑みを浮かべている。
彼は十年前と変わらない容姿で、良樹に対して右手を挙げ、
「よう、黒井」
と言った。
そんな幻覚を見せられたが、
「黒井君?」
足立里沙に名を呼ばれ、現実へと引き戻された。
ベッドの上には確かに安斉誠一郎がいた。だが座ってはいない。当然、立ってもいない。彼の体は頭部と胸部しか存在していなかった。顔には生気がなく、目は虚ろで、唇は僅かに開いている。
生きているとは思えなかった。
「安斉に、何をした?」
良樹は振り返り、女の子を見た。
彼女は微笑を浮かべたまま、こう言ったのだ。
「大切なものだから、どこにも行かないようにしただけよ」
「だから何をしたと言ってるんだ!」
その子の無邪気さに苛立ちが募り、良樹は思わず進み出て、その胸倉を掴んだ。
けれどその瞬間、良樹の腕は少女のか細い腕で強く握られ、軽い音を立てて妙な方向へと折れ曲がった。
「うがァァァ!」
「黒井君!」
熱い鉄の棒で貫かれたような痛みが右手を襲う。良樹はその場に屈み込み、荒い息で何度も叫ぶ。
「失礼な人ね。あなたはコレクションに必要ないわ」
女の子はそう言うと、口笛を吹いた。
刹那、外で大きな地響きが聞こえ、続いて美雪たちの悲鳴が上がった。
内装はピンクの壁紙が貼られ、蛍光灯がぶら下がっている。壁際には本棚が一つ、花瓶の置かれた棚が一つと、テーブルセットがある。そのテーブルの上にはティーカップが二つ、並んでいた。
「もう一人、誰がいるのかしらね」
それを目にした足立里沙は入ってきて後ろ手にドアを閉めた女の子に対し、そう問いかける。
「ワタシの大切な人がいるの。紹介して欲しい?」
「ええ、是非」
良樹を挟んで、二人ともが笑みを浮かべている。里沙の考えがいまいち分からないが、ここは彼女に任せようと黙っておいた。
女の子は奥のドアを開けると、
「こっちよ」
良樹たちに中に入るよう促す。
「ありがとう」
そう答え、先に里沙が歩き出したが、良樹はその前に割って入り、彼女よりも早く、奥の部屋の中を覗き見た。
――!
心臓がおかしな動きをした、と感じた。
良樹は呼吸が苦しくなり、手足がそれ以上進むのを激しく拒絶した。
「黒井君?」
「……見るな」
「え?」
「足立さん、早くここから出て!」
「ちょっと、どうしたのよ……え」
足立里沙も良樹の背中越しに、ベッドの上に置かれているものに気づいたのだろう。
人は自分の想像を超えるものを目にした時に、脳が処理をし切れずにまるでそこにないものまでも補完して本人に見せてしまうものなのかも知れない。
ベッドの上には安斉誠一郎が座っていた。いつものように足を組み、腕を組んでこちらを見て、ちょっと格好を付けたように微笑みを浮かべている。
彼は十年前と変わらない容姿で、良樹に対して右手を挙げ、
「よう、黒井」
と言った。
そんな幻覚を見せられたが、
「黒井君?」
足立里沙に名を呼ばれ、現実へと引き戻された。
ベッドの上には確かに安斉誠一郎がいた。だが座ってはいない。当然、立ってもいない。彼の体は頭部と胸部しか存在していなかった。顔には生気がなく、目は虚ろで、唇は僅かに開いている。
生きているとは思えなかった。
「安斉に、何をした?」
良樹は振り返り、女の子を見た。
彼女は微笑を浮かべたまま、こう言ったのだ。
「大切なものだから、どこにも行かないようにしただけよ」
「だから何をしたと言ってるんだ!」
その子の無邪気さに苛立ちが募り、良樹は思わず進み出て、その胸倉を掴んだ。
けれどその瞬間、良樹の腕は少女のか細い腕で強く握られ、軽い音を立てて妙な方向へと折れ曲がった。
「うがァァァ!」
「黒井君!」
熱い鉄の棒で貫かれたような痛みが右手を襲う。良樹はその場に屈み込み、荒い息で何度も叫ぶ。
「失礼な人ね。あなたはコレクションに必要ないわ」
女の子はそう言うと、口笛を吹いた。
刹那、外で大きな地響きが聞こえ、続いて美雪たちの悲鳴が上がった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
霊和怪異譚 野花と野薔薇[改稿前]
野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。
静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。
『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。
一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。
語られる怪談はただの物語ではない。
それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。
やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。
日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。
あなたも一席、語りを聞いてみませんか?
完結いたしました。
タイトル変更しました。
旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
本作は改稿前/改稿後の複数バージョンが存在します
掲載媒体ごとに内容が異なる場合があります。
改稿後小説作品はカイタとネオページで見られます
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる