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目覚めるとやはり森の中だった、という落胆に、エレナは膝を抱えたまま動きたくなくなる。
城を追い出されてからもう三日が過ぎていた。何の宛てもなく、どうやって生きていけばいいかすら分からないエレナにとっては、城ではない場所に置き去りにされるということは死神の前に差し出される行為に等しい。光もなかなか届かない森の闇は、エレナが初めて知る恐怖だった。
城の周囲がこんなに恐ろしいもので満たされていたなんて知らずにいた。どこへ行けばこの肌に張り付いた恐ろしい何かから逃れられるのだろうかと、ただそれだけを思って歩を進める。木靴はなく、素足の爪先は土で埋まってしまっていたが、そんなものをいちいち気にしていられない。
どこかで狼の鳴くのを聞いた。
薄暗い茂みの奥で光ったものが、その主だろうか。
小さい頃から幾度となく聞かされた森で生きる獣やドワーフたちのことを思い出す。人は森の中では長く生きられない。特に女子どもはすぐに殺されてしまうよ。そんな風に母から聞かされて育ったのだ。
――早く遠くに消えてくれないだろうか。
震えながらじっと闇を睨んでいたエレナの視線の先、茂みの奥でガサリ、と音がして背の低い男が数名、顔を見せた。エレナが初めて見る、とても同じ人とは思えないそれは、けれど人語を話した。
「何だお前? 迷子か?」
こうして彼女はドワーフたちに拾われたのだった。
エレナは料理など今までしたことはなかった。いつも城の料理人が作ったものが使用人や侍女たちによって運ばれ、食べ終わればそれも彼らが片付けてくれる。そんな生活が当たり前だったエレナに彼らは問答無用で家事を押し付けた。
「何だコレ。食えたもんじゃねえな」
七人はエレナが見た目を思い出しながら何とか鍋に作ったリゾットもどきを眉を寄せながらスプーンで掬い上げる。確かに美味しいとは言えなかったが、それでも面と向かって「不味い」と言われるのは気分が悪い。
そんなことをする為に生まれてきたんじゃない。思わずそう口から出そうになったが、ドワーフたちのずんぐりむっくりだが筋肉が盛り上がった体躯を見やり、エレナは自身の心の内にそっと押し込んだ。
彼らの生活の世話をするのは、働いたことのないエレナでなくとも大変なものだった。朝は早くに起きて朝食とは別に弁当を作り、彼らが木を切りに出かけるのを見送る。その後で脱ぎ散らかした洗濯物を近くの小川まで運んで洗い、庭に張ったロープに全て干し終えたら、家の掃除が待っている。
ドワーフたちはあれで綺麗好きらしく、窓枠に埃の一つでも見つけると「掃除できてないぞ」と文句を言うのだ。作ったものを食べないことはないが「うまい」とは一度も言ったことはなく、風呂を炊き忘れると三日は不機嫌が続いた。
それでも命を助けてもらったから、という恩義を少しでも返そうと、エレナは毎日必死になって家事をこなした。ただそんな生活が徐々に心の奥底に毒を溜め込んでいくのは必然だったのかも知れないと、後になって彼女は思うのだった。
城を追い出されてからもう三日が過ぎていた。何の宛てもなく、どうやって生きていけばいいかすら分からないエレナにとっては、城ではない場所に置き去りにされるということは死神の前に差し出される行為に等しい。光もなかなか届かない森の闇は、エレナが初めて知る恐怖だった。
城の周囲がこんなに恐ろしいもので満たされていたなんて知らずにいた。どこへ行けばこの肌に張り付いた恐ろしい何かから逃れられるのだろうかと、ただそれだけを思って歩を進める。木靴はなく、素足の爪先は土で埋まってしまっていたが、そんなものをいちいち気にしていられない。
どこかで狼の鳴くのを聞いた。
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小さい頃から幾度となく聞かされた森で生きる獣やドワーフたちのことを思い出す。人は森の中では長く生きられない。特に女子どもはすぐに殺されてしまうよ。そんな風に母から聞かされて育ったのだ。
――早く遠くに消えてくれないだろうか。
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「何だお前? 迷子か?」
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「何だコレ。食えたもんじゃねえな」
七人はエレナが見た目を思い出しながら何とか鍋に作ったリゾットもどきを眉を寄せながらスプーンで掬い上げる。確かに美味しいとは言えなかったが、それでも面と向かって「不味い」と言われるのは気分が悪い。
そんなことをする為に生まれてきたんじゃない。思わずそう口から出そうになったが、ドワーフたちのずんぐりむっくりだが筋肉が盛り上がった体躯を見やり、エレナは自身の心の内にそっと押し込んだ。
彼らの生活の世話をするのは、働いたことのないエレナでなくとも大変なものだった。朝は早くに起きて朝食とは別に弁当を作り、彼らが木を切りに出かけるのを見送る。その後で脱ぎ散らかした洗濯物を近くの小川まで運んで洗い、庭に張ったロープに全て干し終えたら、家の掃除が待っている。
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それでも命を助けてもらったから、という恩義を少しでも返そうと、エレナは毎日必死になって家事をこなした。ただそんな生活が徐々に心の奥底に毒を溜め込んでいくのは必然だったのかも知れないと、後になって彼女は思うのだった。
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