千文字小説百物騙

凪司工房

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第弐乃段

サンタの贈り物

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 鈴木、と思わず呼びかけてから三田十斗さんだじゅうとは「鈴木さん」と言い直した。玄関先に突っ立って、黄色いランドセルを背に茜色あかねいろの空を見上げていた彼女は「降りそうにないね」と苦笑を見せ、それからアパートの中に入った。
 鈴木教子すずききょうこは十斗にとってちょっとした恩人だった。

「この前のお弁当のお礼は分かるけど、どうして今日なの?」

 ランドセルを下ろしてぺたりと足を開いて炬燵こたつの前に座りながら、鈴木は少しだけ唇を尖らせる。十二月二十四日が多くの人にとって特別だということは、まだ十歳の十斗でも知っていた。

「これ。折角だから一緒に食べようと思ってさ」

 十斗が炬燵の上に置いたのは大皿に載ったチキンだ。一羽丸々が焼かれている。他にもポテトサラダやスパゲティなど、まるでバイキングにでも来たかのように次々と皿を持ってきて、十斗は言った。

「親父が置いてった」

 鈴木はその発言に一瞬眉を寄せたが、一つうなずくと置かれた割り箸を取り、二つにした。

 食べ始めてから三十分ほどしてからだったろうか。隣の部屋で物音が聞こえたと思ったら突然ドアが開き、目出し帽姿の男がナイフを手に現れた。

「声を上げるな」

 明らかに強盗だ。けれど十斗は慌てずに切り分けたチキンを取皿に載せ、その男性に差し出す。

「これ食うか?」
「お前、恐くないのか?」
「左手の指輪……結婚してんだろ。ひょっとしたら子供も?」
「三歳の息子が一人……なんでそんなこと話さなきゃならねえんだ。さっさと金を」
「そっか。ケーキの一つくらい息子さんに買ってやりたかったのか。うちは金こそないがケーキくらいあるぜ。良かったら話聞かせてくれないか」
「ガキのくせに、こいつ……」

 男はその場に腰を下ろすと、ナイフを置いてチキンを口に運ぶ。
 夏に派遣の仕事を切られてからずっと職が見つからず、子供は保育園にも入れられず、妻は職場のストレスからノイローゼ気味で遂に昨日寝込んでしまった。これからどうすればいいのか悩んでいた時に楽しげな声が聞こえ、つい悪心が芽生えてしまったと、那珂野なかのと名乗った男は告白した。

「これ、息子さんと奥さんに持ってってやんな」

 十斗はケーキの箱と、大皿の食べ物を詰めたタッパを男に渡す。

「オレの父親、サンタなんだよ」

 そう言って十斗は鈴木に苦笑を見せた。

 明け方、酔っ払った父親が帰ってきてドアを叩いた。十斗はうるさいと思いつつも鍵を開けてやると、そこには赤ら顔のサンタクロースがアルコール臭と共に立っていた。
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