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ベテルギウスという星を知っているだろうか。この名を知らなくてもオリオン座くらいなら聞いたことがあるだろう。冬の空を見上げればよく目立つ、赤く輝く星とその付近に並ぶ三つの星がある。その三つを囲むようにして赤と白の目立つ四つの星が長方形を描くように配置されている実に特徴的な配置は、冬の夜空の風物詩だと思う。
中でもオリオンの右肩に当たる赤く目立つ星は全天に二十一しかない一等星の一つだ。
またベテルギウスは、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンを合わせて冬の大三角形を形成する星でもある。
「なあベテルギウス」
赤いパーカーにマフラーをぐるぐると巻き付けながら、ベテルギウスと呼ばれた大柄でぼさぼさの髪を赤く染めた男は焼き網の上で肉汁を垂らす豚肉の塊をひっくり返しながら「んだよ」と白い息を吐き出した。
「悪いな、リゲルさん取っちゃってさ」
「おいよ、アルデバラン。もう酔ってんのか?」
ニット帽の男は確かに既に顔が赤い。手にした缶ビールは何本目なのだろう。
「いや丹下さんてさ、ちっこくてほんと可愛いのよ。あ、リゲルさんな。サークル専用ネームってほんと面倒だよな」
「天文部の掟だけど、守ってんのもう俺くらいだろう?」
「ちげえねえ」
ベテルギウスこと須藤輝夫がこの三流大学に天文部を作ったのは、元はといえば同級生の三人の女子の為だった。五人いないとサークル申請できないということで文芸部で暇を持て余していたアルデバランこと馬場を誘い、五人で始動した。それがこの七月のことだ。だがすぐに二人男子部員が増え、全部で七人となった。
最初に「星の名前で呼び合おう」と提案したのはプロキオン木山さんだ。長身でモデル体型の彼女は元々アウトドアが趣味で、この寒空の下にバーベキュー用のセットを持ち出したのも彼女だった。須藤自身も積極的にイベントを企画して、星や天体に詳しかった木山さんと共に月に一度はサークルのみんなで天体観測に出かけた。七人はいつしか一つのチームのように、普段の生活でもあれこれと声を掛け合う仲になっていった。
けれど気づけば須藤だけ、取り残された。ほかは皆カップルとなり、今も綺麗に二人組を作ってベテルギウスが焼いた肉を頬張っている。
――いつもこうだ。
残り物のピーマンを焼いて、それをトングで掴んだまま口に入れると、須藤は一月の空を見上げた。
冬の大三角を作るベテルギウス。けれど、その三角形を形成する残り二つのシリウスとプロキオンは、それに更にポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルの四つを加えることで冬のダイヤモンドと呼ばれる六角形を作っている。そのダイヤモンドの内側に、一人ぽつんと残されるようにしている赤い星がベテルギウスなのだ。そして今、サークルでもベテルギウスは孤立していた。
思えば小学生の頃からそうだった。声も図体もでかく、何かとよく目立って、クラスでも人気者と呼ばれる中の一人だった。けれどそれは学校の中だけのことで、親友どころか、学外で一緒に出かける友人すらいなかった。
それは中学、高校と進んでも続き、大学では心機一転、一発逆転の大学デビューをと思ったのだが、気づけばいつもの定位置だ。
須藤はスマートフォンを見る。一体何時まで肉を焼けばいいのだろうと思ったのだが、そこにいつの間にかメッセージが届いていた。しかも写真付きだ。
『そんなに悲観しないでください。ちゃんとあなたのことを見ている子だっているんですよ』
そのメッセージと共に、大学の学食で一人テーブルに就いてカレーライスを頬張る姿を隠し撮りしたものが添付されていた。よくある悪戯やスパムの類かと思ったが、それは次の日も、また次の日も、送られてきた。
中でもオリオンの右肩に当たる赤く目立つ星は全天に二十一しかない一等星の一つだ。
またベテルギウスは、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンを合わせて冬の大三角形を形成する星でもある。
「なあベテルギウス」
赤いパーカーにマフラーをぐるぐると巻き付けながら、ベテルギウスと呼ばれた大柄でぼさぼさの髪を赤く染めた男は焼き網の上で肉汁を垂らす豚肉の塊をひっくり返しながら「んだよ」と白い息を吐き出した。
「悪いな、リゲルさん取っちゃってさ」
「おいよ、アルデバラン。もう酔ってんのか?」
ニット帽の男は確かに既に顔が赤い。手にした缶ビールは何本目なのだろう。
「いや丹下さんてさ、ちっこくてほんと可愛いのよ。あ、リゲルさんな。サークル専用ネームってほんと面倒だよな」
「天文部の掟だけど、守ってんのもう俺くらいだろう?」
「ちげえねえ」
ベテルギウスこと須藤輝夫がこの三流大学に天文部を作ったのは、元はといえば同級生の三人の女子の為だった。五人いないとサークル申請できないということで文芸部で暇を持て余していたアルデバランこと馬場を誘い、五人で始動した。それがこの七月のことだ。だがすぐに二人男子部員が増え、全部で七人となった。
最初に「星の名前で呼び合おう」と提案したのはプロキオン木山さんだ。長身でモデル体型の彼女は元々アウトドアが趣味で、この寒空の下にバーベキュー用のセットを持ち出したのも彼女だった。須藤自身も積極的にイベントを企画して、星や天体に詳しかった木山さんと共に月に一度はサークルのみんなで天体観測に出かけた。七人はいつしか一つのチームのように、普段の生活でもあれこれと声を掛け合う仲になっていった。
けれど気づけば須藤だけ、取り残された。ほかは皆カップルとなり、今も綺麗に二人組を作ってベテルギウスが焼いた肉を頬張っている。
――いつもこうだ。
残り物のピーマンを焼いて、それをトングで掴んだまま口に入れると、須藤は一月の空を見上げた。
冬の大三角を作るベテルギウス。けれど、その三角形を形成する残り二つのシリウスとプロキオンは、それに更にポルックス、カペラ、アルデバラン、リゲルの四つを加えることで冬のダイヤモンドと呼ばれる六角形を作っている。そのダイヤモンドの内側に、一人ぽつんと残されるようにしている赤い星がベテルギウスなのだ。そして今、サークルでもベテルギウスは孤立していた。
思えば小学生の頃からそうだった。声も図体もでかく、何かとよく目立って、クラスでも人気者と呼ばれる中の一人だった。けれどそれは学校の中だけのことで、親友どころか、学外で一緒に出かける友人すらいなかった。
それは中学、高校と進んでも続き、大学では心機一転、一発逆転の大学デビューをと思ったのだが、気づけばいつもの定位置だ。
須藤はスマートフォンを見る。一体何時まで肉を焼けばいいのだろうと思ったのだが、そこにいつの間にかメッセージが届いていた。しかも写真付きだ。
『そんなに悲観しないでください。ちゃんとあなたのことを見ている子だっているんですよ』
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