【完結】二つに一つ。 ~豊臣家最後の姫君

おーぷにんぐ☆あうと

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第6章 悲運の姫 編

第60話 衝撃の告白

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天秀と甲斐姫が姫路城に着くと、なんと城主・本多忠政ほんだただまさ、自ら出迎えてくれるのだった。

西国の外様大名、キリシタンへの睨みとして播磨国姫路藩がある。
その重要拠点を任されるだけあって、柔和な笑顔の中にも剛毅木訥ごうきぼくとつとした雰囲気が忠政にはあった。

「お初にお目にかかる。私が従四位下侍従じゅしいげじじゅう・本多忠政でござる」
「こちらこそ、東慶寺の天秀でございます」
「固くならずとも結構。遠路、千のために、かたじけない」

緊張する天秀に忠政は、優しく声をかける。まさに人柄が出る場面と言えた。
甲斐姫との挨拶は、互いに目礼を交わすのみで済ます。

同世代のこの二人、実は秀吉の小田原征伐の際、あわや対峙する可能性があったのだ。
当時、父親、本多忠勝ほんだただかつに付き従っていた忠政は、岩槻城いわつきじょ攻めで武名を挙げる。

その忠政が攻めた岩槻城と、当時、敵対していた甲斐姫が守っていた忍城おしじょうの距離は、およそ十三里。
下手をすれば一日で行軍できる位置にあり、実際、岩槻でともに戦った浅野長政あさのながまさは、忍城の攻め手大将・石田三成いしだみつなりの応援に駆け付けていた。

この僅かな掛け違いが、歴史の妙というものかもしれない。

「あの時、私が忍城に行っておれば、この場に生きていなかったかもしれませんなぁ」
「何を言う。あの時の秀吉公の攻め手は皆、化物ぞろい。そこに本多親子が加われば、忍城は落城決定じゃ」

お互いに謙遜しながら笑い合っているのだが、笑顔の裏の威圧感が凄い。言葉に逆の意味を含んでいるようで、間に挟まれた天秀はいたたまれなくなってしまった。

「お爺さま」
そこに利発そうな女の子が現れる。それは確認するまでもなく勝姫かつひめであった。

「お義姉さまがお困りのようです」
「おお、これはすまん」

さすがの忠政も孫には形無しの様子。すぐに話題を切上げた。
すると勝姫は、ゆっくりと天秀の前まで歩いてくる。

その姿は、女児にしては可憐、まるで百合の花のようであった。まさに美男美女から生まれたことを証明するような、優美さを十歳にして、備え持っている。

尚、この時すでに因幡国鳥取いなばのくにとっとり藩主・池田光政いけだみつまさとの婚約が決まっていたそうだ。

「初めまして、勝でございます」
「勝姫さま、こちらこそ。天秀でございます」
「お義姉さま。敬称など不要、勝とお呼びください」

さすがに初対面で、実質三十万石の大大名の姫を呼び捨てにすることは難しく。そこは、追々と天秀は逃げる。
勝姫は不満そうであったが、あまり困らせる訳にもいかないと、すぐに引き下がった。

そして、心労で倒れたという千姫の元へ案内してくれるのである。
千姫は、姫路城の西の丸で暮らしていた。
天秀と甲斐姫が、千姫の居室に着くと普通に起き上がって生活しているのに驚く。

「お義母さま、寝ていなくて大丈夫なのですか?」
「皆さん、大袈裟なのよ。・・・それにしても、随分と大きくなりましたね」

十二年ぶりの対面は、お互いの成長を確認し合う場になった。
千姫は、母親となり、天秀は十九歳となる。この年齢は、初めて二人が出会った時の千姫の年齢と同じであった。
そう考えると、何か感慨深いものが込み上げてくる。

「東慶寺の暮らしはどうですか?」
「お義母さまに助けていただいた命を大切に、日々、精進しております」
「そんな肩ひじ張らなくてもいいのよ。あなたはあなたらしく、生きてちょうだい」

師匠の甲斐姫や瓊山尼とは、また違った包容力が千姫にはある。
天秀は、正直、あの当時の千姫にも自分は追いついていないと自覚するのだった。

「千姫よ、体の方は、本当に大丈夫なのかえ?」
「甲斐姫さま、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。この通り、もう大丈夫でございます」

千姫と甲斐姫も旧交を温める。甲斐姫の無茶なお願いも千姫は聞いており、佐与や瓢太の給金は千姫から出ているのだ。
日頃から、支援してもらっていることに対して、甲斐姫は感謝する。

「いえ、宇都宮の時のような無理なお願いをこちらもしておりますので・・・」
と、千姫は気にも留めない。

ただ、少々、心苦しい顔をすると、一点、またお願いがあるのだと告げるのだった。
実は天秀と甲斐姫に姫路まで来てもらったのは、そのためであり、勝姫に文をお願いしたとのことである。

「何じゃ?そんな回りくどいことをする必要があったのかえ?」
「・・・・はい。実は、これから突拍子もないお話をいたします。周囲の者も信用してくれるか分からないため、お見舞いという形でお二人にお会いしたかったのです」
「お義母さまの頼みでしたら、必ず果たしてみせます。何なりと仰って下さい」

天秀の言葉に千姫は感謝を示すと、改めて二人に視線を送った。
あまり、聞かせたくない話なのか、勝姫をこの部屋から下がらせると、自分を落ち着けるように深呼吸をする。
そして、その口を、ゆっくりと開いていった。

「実は、夫、忠刻さまは、殺された可能性があるのです」
「えっ。・・・それは・・」

そのような告白、誰もが予想できる訳がなかった。
さすがの甲斐姫までも、二の句が継げないでいる。
余りにも衝撃的な発言に、天秀と甲斐姫は、その場で固まってしまうのであった。
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