【完結】二つに一つ。 ~豊臣家最後の姫君

おーぷにんぐ☆あうと

文字の大きさ
90 / 134
第7章 寛永御前試合 編

第89話 決戦の後で

しおりを挟む
最終日に実施された決勝戦。
荒木又右衛門と宮本伊織の一戦は、後に名勝負と語り継がれるほど白熱した試合だった。

さすがにここまで勝ち残った二人である。その実力は誰もが認めるところ。
だが、決してお互い五体満足というわけではなかった。

又右衛門は左肩。伊織は右の脇腹。
一つ前の準決勝で、それぞれ痛めていた。

この試合、伊織は初めから二刀で構える。二天一流の本領を発揮しようというのだ。
怪我のせいか、二人とも試合が長引くことを嫌い、短期決戦を望む。

一気に決めようと、双方、序盤から激しい打ち合いを演じるのだ。
ただ、この打ち合いは体格に勝る又右衛門の方に有利に働く。

激しい斬撃に、いつしか伊織は防戦一方となるのだった。
力強い一撃に対抗しようと、二刀を駆使し十字に構える。

二天一流における最高の防御姿勢を取ったのだ。
ところが、又右衛門の剣は、それすらも打ち砕く。

防御が崩されると、その勢いに押されて、伊織の右手の木刀が弾かれてしまった。
このままでは不利と悟り、間合いを取ろうと、後方に飛び去るも又右衛門がついて来る。
空中で左手から右手に木刀を持ち換える伊織が、着地と同時に迎撃に出た。

二人同時に剣撃を放ったのだが、僅かに又右衛門の方がはやい。
伊織の右手には、先ほどの攻防のしびれが残っていたため、本来の動きではなかったのだ。
有効打を先に決められて、伊織は地に倒れる。

「勝負あり」

勝ち名乗りを受けると又右衛門も、片膝をついた。木刀で何とか倒れぬように体を支える。
これは、本当にギリギリ、紙一重の攻防だったことを物語っていた。

この勝負の結末。最後は経験の差で何とか勝てたと又右衛門は感じる。
この時、又右衛門の二十九歳に対して、伊織はまだ十六歳。

踏んできた場数が違うのだ。
逆に言えば、この若さで、ここまでの強さを見せつけた宮本伊織に対して、末恐ろしさを覚える。

立ち上がった伊織は、素直に負けを認めて又右衛門を称賛した。

「これで、私の目標は師匠と、又右衛門殿の二人となりました。いつかその高みまで昇りたいと思います」
「一人の武芸者として、成長した君の姿を見てみたいと感じる。また、いつか手合わせ願いたい」

その言葉には、喜んで了承する伊織であった。
こうして『寛永御前試合』は、柳生新陰流の荒木又右衛門の勝利で幕を閉じる。

柳生宗矩の寸評の後、将軍・家光の言葉で大会を締めくくった。

「皆の者、特に出場者は、大義であった。余は、こらから長らく続く泰平の世を築こうと思う。しかし、それが元で、武士の武が廃れることを嫌う。ゆえに、これからも武士はつわものたるよう研鑽続けることを願う」

家光がこれからの治世に向けた強い意志と武士たちへの期待を述べる。
これで、短い期間ながらも、静子が拉致された事件など、大変濃い時間を過ごした三日間が終わった。

天秀尼たちは、鎌倉へ戻る準備を始める。
気になった木村一門についてだが、文五郎が責任を持って、他の師範への引継ぎを行っているとのことだった。

その件で、江戸で手伝うことがあると、右衛門が残ることになる。
もっとも足の傷が癒えねば、旅はできないため、どちらにせよ東慶寺に戻るのは先のことになるのは決まっていたのだ。

続いて、静子の処遇だが、親元の理解を得られたため、離縁の話は泡と消える。
東慶寺のお世話になる必要がなくなるのだ。

但し、手続き上の問題が残り、彼女は一度、東慶寺に戻らなければならない。
右衛門と、離れ離れとなることに、やや気持ちを沈めるが、それもほんのひと月程度のこと。

そもそも三年は会えない覚悟をしていのだ。そう考えれば、ひと月などあっという間の期間といえる。

身支度を終えて、出発しようとする天秀尼たちの前に天樹院が現れた。
どうやら、わざわざ見送りに来てくれたようだ。

何とも優しい義母である。
ところが、少し様子がおかしいことに天秀尼が気づく。

「お義母さま、いかがなされました?」
「それが、残念なお知らせを伝えねばならないのです」

そういう天樹院の表情は、やや固い。
余程のことがあったのかもしれない。

「あなたも良く知る沢庵禅師たくあんぜんじが、流刑となるかもしれないのです」

今回、右衛門と謙佑の雪解けのきっかけとなった『剣禅一如』。
その考えを打ち出したのが、その沢庵宗彭たくあんそうほうであり、天秀尼もありがたい助言を頂いたことがあった。

甲斐姫とも親しい臨済宗りんざいしゅうの高僧である。

「一体、何があったのでしょうか?」
「それが・・・」

天樹院が話した内容は、幕府と朝廷の確執が大きく関係する話だった。
話を全て聞いた天秀尼は、世の中がこれから、どうなっていくのかと、一抹の不安を残す。

鎌倉幕府の発足より、武家の台頭が著しいとはいえ、まだまだ朝廷に権威を感じる人は多いのだ。
公武の間で摩擦は少ない方がよい。

もしかしたら、そのような想いを抱く者たちの気持ちを払しょくするために、御前試合のような派手な催しを家光は開催したのだろうか?

いずれにせよ、一介の尼僧が考えることにしては、荷が勝ちすぎる話だ。
天秀尼は世の中が、どう変わろうと身近に困っている人たちがいれば、救いの手を差し伸べる。

それだけは、変えずにいようと思う。
天樹院に別れの挨拶を済ますと、天秀尼は自分の信念を再確認し、鎌倉へと旅立つのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

高遠の翁の物語

本広 昌
歴史・時代
時は戦国、信州諏方郡を支配する諏方惣領家が敵に滅ぼされた。 伊那郡高遠の主、諏方頼継は惣領家家族のうち、齢十一歳の姫君を、ひょんなことから保護できた。 頼継は豪傑でもなければ知将でもない。その辺の凡将だろう。 それでも若き姫を守りながら、滅びた惣領家の再興を叶えるため、死に物狂いで強大な敵に立ち向かっていく歴史物語。

狐侍こんこんちき

月芝
歴史・時代
母は出戻り幽霊。居候はしゃべる猫。 父は何の因果か輪廻の輪からはずされて、地獄の官吏についている。 そんな九坂家は由緒正しいおんぼろ道場を営んでいるが、 門弟なんぞはひとりもいやしない。 寄りつくのはもっぱら妙ちきりんな連中ばかり。 かような家を継いでしまった藤士郎は、狐面にていつも背を丸めている青瓢箪。 のんびりした性格にて、覇気に乏しく、およそ武士らしくない。 おかげでせっかくの剣の腕も宝の持ち腐れ。 もっぱら魚をさばいたり、薪を割るのに役立っているが、そんな暮らしも案外悪くない。 けれどもある日のこと。 自宅兼道場の前にて倒れている子どもを拾ったことから、奇妙な縁が動きだす。 脇差しの付喪神を助けたことから、世にも奇妙な仇討ち騒動に関わることになった藤士郎。 こんこんちきちき、こんちきちん。 家内安全、無病息災、心願成就にて妖縁奇縁が来来。 巻き起こる騒動の数々。 これを解決するために奔走する狐侍の奇々怪々なお江戸物語。

比翼の鳥

月夜野 すみれ
歴史・時代
13歳の孤児の少年、菊市(きくち)光夜(こうや)はある日、男装をした十代半ばの少女と出会う。 彼女の名前は桜井花月、16歳。旗本の娘だった。 花月は四人の牢人を一瞬で倒してしまった。 しかし男の格好をしているものの話し方や内容は普通の女の子だ。 男装しているのは刀を差すためだという。 住む家がなく放浪していた光夜は剣術の稽古場をしている桜井家の内弟子として居候することになった。 桜井家で道場剣術とは別に実践的な武術も教わることになる。 バレる、キツい、シャレ(洒落)、マジ(真面目の略)、ネタ(種の逆さ言葉)その他カナ表記でも江戸時代から使われている和語です。 二字熟語のほとんどは明治以前からあります。 愛情(万葉集:8世紀)、時代(9世紀)、世界(竹取物語:9世紀末)、社会(18世紀後半:江戸時代)など。 ただ現代人が現代人向けに現代文で書いた創作なので当時はなかった言葉も使用しています(予感など)。 主人公の名前だけは時代劇らしくなくても勘弁してください。 その他、突っ込まれそうな点は第五章第四話投稿後に近況ノートに書いておきます。 特に花月はブッチギレ!の白だと言われそうですが5章終盤も含め書いたのは2013年です。 カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

信忠 ~“奇妙”と呼ばれた男~

佐倉伸哉
歴史・時代
 その男は、幼名を“奇妙丸”という。人の名前につけるような単語ではないが、名付けた父親が父親だけに仕方がないと思われた。  父親の名前は、織田信長。その男の名は――織田信忠。  稀代の英邁を父に持ち、その父から『天下の儀も御与奪なさるべき旨』と認められた。しかし、彼は父と同じ日に命を落としてしまう。  明智勢が本能寺に殺到し、信忠は京から脱出する事も可能だった。それなのに、どうして彼はそれを選ばなかったのか? その決断の裏には、彼の辿って来た道が関係していた――。  ◇この作品は『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n9394ie/)』でも同時掲載しています◇

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...