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精霊さんと何故かバレる前世

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「……おぉ、さすがは勇者様だわ……」

キッチンを見た途端に零れ出たのはそんな言葉だった。

 だって、冷蔵庫もどきを完備している。冷却魔法を常にかけ続けられる、緻密な魔法陣を書く能力とそれを動かし続けられる膨大な魔力が必要な、王宮の厨房なんかにしかない代物。それをたった一人のために置いていたとは。

「なんて考えてる場合じゃないじゃん。作らなきゃ」

追い出されて野垂れ死には断固拒否したい。とにかく何か作ればいいのだ。

「はいはい。肉と野菜と謎な調味料ねー うんどうしよう」

うん、当たり前だけど日本と全然違う。見たことないものばかりだ。今生は一応、お姫様だったせいで料理なんて絶対にさせてもらえなかった。基本的な調理方法を本で読んだことがあるくらい。

「やってみるか」

私は袖を捲りあげて、気合を入れるために両頬を平手でパンと叩いた。



「ツバサさん、一応作りました」

りんごのコンポート、肉なしの肉じゃがもどき、パン。作ったことがない割には奮闘したと思う。

「お、美味そう。お姫様なのに料理できるとは驚きだね」

「できちゃ悪いですか。ちなみに、りんごのコンポートとじゃがなし肉じゃがとパンです。パンにはりんごのコンポートを挟むとかして食べてください」

皿を並べていきながら話す。彼はそんな私を見て笑いながら席についた。……はて、笑われるようなことをしただろうか。

 謎だな、なんて思いながらじっと見つめる。

「なーに見つめてるの。さては見惚れてた?」

「まさか。笑われてるからちょっと気になっただけです」

私は彼から目線を外して肉じゃがもどきをぽいと口に放り込む。……無駄に顔いいの本当にやめてほしい。微妙に頬が熱いのは気の所為だと信じたい。

 しばらく無言で食べ進めていると、彼が突然に口を開いた。

「そーいえばさーステラって転生者なんだってね」

「はい!?」

いきなりの爆弾発言にごほっと噎せる。……どこまでこの人はマイペースなのだろうか、振り回される。

「大丈夫ー? ほら、水」

「ありがとうございます……ってかなんで知ってるんですか」

彼は答える代わりに指をパチンと弾く。それと同時に現れたのは、五歳くらいの見た目をした男の子だった。小さな見た目とは裏腹に、莫大な魔力を持っているからたぶん精霊か妖精の類だね。

「こいつね、人の過去を覗き見れるの。で、教えてもらったー」

チートですか、そうなんですか、と叫びそうになったのを必死で押し留める。

 ……なに、私は過去を覗かれたんですか。前世でブラック企業に務めた挙句、過労でお亡くなりになったのがバレたかもしれない。いや、バレたのね。……恥ずかし! 今すぐ倒れてごろごろ転げ回りたい。

「こいつとは失礼な。僕はマイファ。まあ、過去とか未来とか見れるね。見れるだけで干渉は出来ないからご心配なく。訳あってこの自堕落な主に訳あって仕えてあげてるの」

「マイファさん、ですか。仲良くしてくださったら嬉しいです、よろしくお願いします」

「ステラは主とは違ってかわいいし礼儀正しいね! 気に入ったや。……ところでこれ、食べてもいいよね?」

マイファはりんごのコンポートを指さして私の方を向いている。あら、かわいい。と口に出しそうになったがやめた。……「かわいい」が地雷の男の子多いからね。

「いいですよ。いくらでも作れるので言ってくださったら追加もできますし」

マイファはそれを聞いた途端にコンポートを手でつかみ、食べ始めた。

「ツバサさん。ツバサさんが私をここに置いてくれたのは、私が転生者だって分かってたからですか?」

「それもあるけど、ちょっと違うかな…… うーんナイショ」

彼は口元に人差し指を当ててウインクする。

「俺らも食べるか」

「ですね」

シエルはツバサさんに貰ったらしいミルクをぺろぺろ舐めていて、ツバサさんは肉じゃがもどきを食べている。マイファは相変わらずコンポートにむしゃぶりついている。

 これからはこの四人(?)で暮らすんだ。愛してくれない母と父、私がそうなっているのを知っていて何もしないアリシア。その頃とは全く違う優しさの溢れた場所だって知ったからか、自然に口角が上に上がる。今までにないほど心が躍っているのを感じた。




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