妹に婚約者を奪われた私は今、隣国の王子に溺愛されています!?

水瀬瑠奈

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リリーシェ王国・婚約編

閑話 トール、断罪する

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 かの有名なヴィオテール公爵家、というだけあって通された客室はそれなりに豪華だった。王族を招いてもそれはそれは遜色のないくらいに。

「……ダブルベッド、か」

豪華絢爛な刺繍の施されたベッドは明らかに一人用ではない。それに、用意されているティーセットは明らかにペアの2人分。

 ここに案内してくれたのは例の妹、アイミヤ・ヴィオテールだった。……確証はないけれど、彼女の策略だろうな。

 フィティアから以前聞いた話では、アイミヤは彼女の物や友人を全て奪っていったということだったから、今回は僕も例外ではなくそうしようとしている、というところか。

 ……話には聞いていたけれど、あの礼儀正しくしっかりした彼女の妹だとは到底思えないくらいに無作法で常識知らずだな。

 ともかく、こんなことをしたということはアイミヤはこの部屋に来るつもりということだろう。

 ならば考えられるのは、僕に魅了魔法をかけて既成事実でも作ってしまい、フィティアとの婚約話を白紙にしようとしている、というところか。

 ……反吐が出る。

「そう来るんだったら、こっちも仕掛けさせてもらおうか」

ティーセットの置かれたテーブルの椅子に魔法をかける。アイミヤがその椅子に座った状態で魔法を使えば、風魔法が発動して拘束されるように。


◇◇◇


「トール様、お時間よろしいでしょうか?」

コンコン、と規則正しくドアが叩かれたかと思うと、了承もなくドアが開かれた。

 アイミヤだ。

 予想通り、彼女はあれから一時間ほどして部屋に訪れてきた。本来なら他国の王子に対してあるまじき行動だと、追い出すくらいの無作法ではあったが、今はそれには触れずに彼女を部屋へ迎え入れた。勝手に部屋に入ってきた程度では、アイミヤを訴えるには証拠として弱いからだ。相手の屋敷に滞在している立場では余計に。上手く行ったとして謹慎二週間程度だろう。

 ……もっとだ。アイミヤがもう二度とフィティアに近寄れないようにしなければならないのだから。

「ご夕食を残していらっしゃったので、心配で。お夜食をお持ちしたんですけれど……」

アイミヤは人当たりの良さそうな笑みで、後ろに控えさせていた使用人が押している、料理の載せられた台車を指差す。私の使用人にさっき作らせたものだから温かいものばかりだ、と勧めてきた。

 ……素面でここまで戯言を言えるとは。呆れを通り越して笑いが込み上げてくる。

 ……ね。

 あの夕食には薬が盛られていた。所謂媚薬と呼ばれる類のもの。

 フィティアは普通に食べていたので、僕だけに狙って盛ったのだろう。

 誰が盛ったのか。先程までは確証がなかったが、今ははっきりと誰なのか言い切れる。

 ――アイミヤだ。

 給仕のとき、僕のものだけが別で運ばれてきていた。そのうえに料理まで違う。まがりなりにも王族として教育を受けてきたので、その時点で違和感を抱いたのだ。突然の訪問だから別で追加で作った、と言われたらそこでおしまいな程度のものではあったが、妙に引っ掛かった。

 周りに見えないよう気をつけながら常備していた解毒の薬を先に口に含んで食べたら、やはり薬だった。昔、毒の慣らしをしていたときに含んだことのある、あの甘ったるい味。甘い味付けで誤魔化そうとはされていたが、あの特有の甘ったるさは完全には消せなかったらしい。

 毒でなかったぶん相手に殺意はないから安心はしたが、そう多く食べては解毒剤も効かない。効果が出ると困るので、そのときは食欲がないから、と味付けの問題で薬が入っていない料理だけを食べたのだった。

 媚薬を僕に盛ってくるような相手に、アイミヤくらいしか犯行動機に心当たりがなかったので薄々そうだとは思っていたが、本当だったとは。

 あの僕に給仕をしてきた使用人は、今アイミヤが今連れている彼女の使用人と同一人物だ。

 顔を覚えるのは職業柄、というか身分的に得意にならざるを得なかったのではっきりと覚えていたのだ。こんな風に衣服を変えた程度の小細工じゃ誤魔化されない。

「お気遣いありがとう、じゃあ頂こうかな」

彼女は使用人から皿を受け取り、テーブルに並べていく。そして、そのまま仕掛けたほうの椅子に座った。……よし、出だしは上々。

「どうぞ、夜食向きかどうかは分かりませんが、サンドウィッチです。あと、スープとがあるので、お好きに召し上がってください」

「ありがとう」

サンドウィッチを一口、毒見に食べる。……何も入っていないな。僕があの薬が盛られていることに気づいていたのは分かったからか、別の何かを仕掛けていく予定なのだろう。

 おそらくは魅了魔法とはいえ、別の何かだったら大変だ。すべてに適切に対処して、この悪女を断罪しなければならないのだから。

 彼女の動作ひとつひとつを観察しながら、僕は怪しまれない程度にサンドウィッチを食べ進めた。

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