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リリーシェ王国・婚約編
閑話 トール、断罪する 2
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不意に、アイミヤが僕の手を引いた。
表面上は穏やかな茶会に似つかわしくないその行動に思わずスプーンを取り落として、顔を上げる。
「何を、」
言葉に詰まった。
表情は綺麗そのものな、完璧に貴族らしい笑みなのだ。なのに、なのにだ。──こんなにも、狂気を、底知れないドロドロとした憎しみを孕ませた目を僕は見たことがない。
怖い。
辛うじて表情を変えずにいられたものの、背筋に震えが走るほどに、怖い。
「トール様、わたくし、お願いがあるのです」
よく聞く、アイミヤらしい媚びて甘えたような鼻にかかった声ではなかった。冷たくて感情の籠もっていない、いや、感情を押し殺したような声。
……何をする気だ。
「……何でしょう」
身構えながら、返答を貼り付けた笑顔とともに返す。
「お姉様との婚約を取りやめてください」
光を灯していない昏く呑み込まれそうな瞳で、表情一つ変えることなく、そう僕に告げた。
「応じるとでも?」
「ええ、きっとトール様はそうします」
ふと、首筋を風が掠めた。
魔力による風だ。と、いうことは誰かから送られてきたもの。
この魔力、知っている。
彼女の──フィティアのものだ。
……それにしてもおかしい。彼女が送るならもっと強い魔法が使えるはず。こんな弱々しい風魔法なんかよりも、もっと強く確実なものが。
……彼女の身に何かが起こっている? 魔法をまともに使えなくなるような、何かが。
「フィティアに何をした」
「……お姉様はやはり強いですわね。あの状態でも助けを求めるだけの魔力があるなんて。……でも、丁度良かったです。これで分かったでしょう? 今お姉様は私によって魔力を封じ込められた状態で閉じ込められています」
「なんてことをっ、」
思わず立ち上がると、言葉を遮られ制される。
「座ってください。今お姉様の魔力を封じている魔道具は私の管理下にあるのですから。いつでも私はお姉様を殺せるんです。お姉様の魔力を全て奪うことで、ね」
歯噛みしながらも、言われた通りに再び座る。……どうすれば。どうすればアイミヤを出し抜ける? どうすれば無傷でフィティアを助け出せる? 焦りで考えが纏まらない。このままじゃ、フィティアが……!
「貴方が婚約を取り止めて……そうですね、私の騎士にでもなってくださるのなら、お姉様は解放しますしもう手は出さないと誓います」
「一国の王族に、騎士になれと?」
「ええ、第一王子ならともかく、貴方は妾腹の三男だとアルバート様から聞きましたし、本人の希望ならできるでしょう? まぁ、お姉様の命よりご自身の立場の方が大事だと言うなら別ですけれど」
弄ぶように嫌な笑みを浮かべたアイミヤに吐き気を催しそうになりながらも平然とした笑顔を保ったままに返答する。……あぁ、どうしてこうも姉妹なのに似ていないのか。腸が煮えくり返って仕方がない。
「そうですね。分かりました、あなたの言う通りにしましょう。……まぁ、一生貴方に恋愛感情や愛情を向けることはないでしょうけどね」
煽るように、嘲笑を向ける。
……さぁ、逆上してくれ。これで怒って、魔法さえ使ってくれたら。この少女を捕らえられるし、フィティアも助け出せるのだ。
話していてよく分かった。アイミヤには愛という言葉に、凄く強い執着があるのだ。それはもう、異常としか言えないほどに。
「…………っ、何があっても、お姉様のことだけを愛するとでもいうわけですね。なら、こちらにも考えがありますから。魅了魔法で、お姉様なんて忘れさせてあげるわよ……!」
……ほらきた。
アイミヤは驚くことに、無詠唱で魅了魔法を使えるらしい。……道理で今まで露呈しなかったわけだな。
指輪が澄んだ光を失っていくのを見て、僕は密かにほくそ笑んだ。
表面上は穏やかな茶会に似つかわしくないその行動に思わずスプーンを取り落として、顔を上げる。
「何を、」
言葉に詰まった。
表情は綺麗そのものな、完璧に貴族らしい笑みなのだ。なのに、なのにだ。──こんなにも、狂気を、底知れないドロドロとした憎しみを孕ませた目を僕は見たことがない。
怖い。
辛うじて表情を変えずにいられたものの、背筋に震えが走るほどに、怖い。
「トール様、わたくし、お願いがあるのです」
よく聞く、アイミヤらしい媚びて甘えたような鼻にかかった声ではなかった。冷たくて感情の籠もっていない、いや、感情を押し殺したような声。
……何をする気だ。
「……何でしょう」
身構えながら、返答を貼り付けた笑顔とともに返す。
「お姉様との婚約を取りやめてください」
光を灯していない昏く呑み込まれそうな瞳で、表情一つ変えることなく、そう僕に告げた。
「応じるとでも?」
「ええ、きっとトール様はそうします」
ふと、首筋を風が掠めた。
魔力による風だ。と、いうことは誰かから送られてきたもの。
この魔力、知っている。
彼女の──フィティアのものだ。
……それにしてもおかしい。彼女が送るならもっと強い魔法が使えるはず。こんな弱々しい風魔法なんかよりも、もっと強く確実なものが。
……彼女の身に何かが起こっている? 魔法をまともに使えなくなるような、何かが。
「フィティアに何をした」
「……お姉様はやはり強いですわね。あの状態でも助けを求めるだけの魔力があるなんて。……でも、丁度良かったです。これで分かったでしょう? 今お姉様は私によって魔力を封じ込められた状態で閉じ込められています」
「なんてことをっ、」
思わず立ち上がると、言葉を遮られ制される。
「座ってください。今お姉様の魔力を封じている魔道具は私の管理下にあるのですから。いつでも私はお姉様を殺せるんです。お姉様の魔力を全て奪うことで、ね」
歯噛みしながらも、言われた通りに再び座る。……どうすれば。どうすればアイミヤを出し抜ける? どうすれば無傷でフィティアを助け出せる? 焦りで考えが纏まらない。このままじゃ、フィティアが……!
「貴方が婚約を取り止めて……そうですね、私の騎士にでもなってくださるのなら、お姉様は解放しますしもう手は出さないと誓います」
「一国の王族に、騎士になれと?」
「ええ、第一王子ならともかく、貴方は妾腹の三男だとアルバート様から聞きましたし、本人の希望ならできるでしょう? まぁ、お姉様の命よりご自身の立場の方が大事だと言うなら別ですけれど」
弄ぶように嫌な笑みを浮かべたアイミヤに吐き気を催しそうになりながらも平然とした笑顔を保ったままに返答する。……あぁ、どうしてこうも姉妹なのに似ていないのか。腸が煮えくり返って仕方がない。
「そうですね。分かりました、あなたの言う通りにしましょう。……まぁ、一生貴方に恋愛感情や愛情を向けることはないでしょうけどね」
煽るように、嘲笑を向ける。
……さぁ、逆上してくれ。これで怒って、魔法さえ使ってくれたら。この少女を捕らえられるし、フィティアも助け出せるのだ。
話していてよく分かった。アイミヤには愛という言葉に、凄く強い執着があるのだ。それはもう、異常としか言えないほどに。
「…………っ、何があっても、お姉様のことだけを愛するとでもいうわけですね。なら、こちらにも考えがありますから。魅了魔法で、お姉様なんて忘れさせてあげるわよ……!」
……ほらきた。
アイミヤは驚くことに、無詠唱で魅了魔法を使えるらしい。……道理で今まで露呈しなかったわけだな。
指輪が澄んだ光を失っていくのを見て、僕は密かにほくそ笑んだ。
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