10 / 40
第一章
直政の弟
しおりを挟む
東は美弥藤家で生活をし始めた当初は口数が少なく、会話をすることがままならかった。
しかし、青は特に積極的に話しかけることはせず、行動を共にすることを心がけていた。愛馬の雲母に乗って浜辺で散歩をしたり、村に偵察に行ったり、武術の稽古をしているときもずっと側にいた。
東を放っておけば、どこかに消えてしまいそうだったのだ。
夜半に、東が魘されている姿を青は見ている。年齢の割には小さく、痩せた身体を丸くさせて『ごめんなさい』と寝言で繰り返す東の姿は痛々しかった。
白人に生まれたというだけで、兄が自害し、父親が断罪され、家が取り潰されてしまったのだ。
決して東のせいではない。
白人に生まれただけで断罪と決めている国が悪いのだ。
だからと言って、気にしなくていい、などという軽薄な言葉を吐く気などなれず、ただ一緒にいることしかできなかった。
時が東の心を癒してくれたのか、東は次第に声をかけてくれるようになり、微笑むことも増えた。
今のように東が楽しそうに話をしてくれることが青は心の底から喜ばしかった。
緩んでしまっていた東の包帯を巻き終えた青に東が言う。
「青さんは、……どうして僕に優しくしてくれるの?」
きゅっと包帯を結んで自分より一回り小さな東の手を手のひらで包み込んだ青は口を開く。
「直政から託された弟だからな」
もう会うことのない兄の名前を聞いてしまったからなのか、東は黙っている。
青は笑みを深くして続けた。
「私のことも本当の姉だと思ってくれていい。おまえをひとりにはしないからな」
「……兄さんに感謝しないとだね」
満月の光に照らされた東の布作面がそよ風に揺れる。表情を窺い知ることはできないが、柔らかな語調からは安堵の色を青は感じた。
しかし、青は特に積極的に話しかけることはせず、行動を共にすることを心がけていた。愛馬の雲母に乗って浜辺で散歩をしたり、村に偵察に行ったり、武術の稽古をしているときもずっと側にいた。
東を放っておけば、どこかに消えてしまいそうだったのだ。
夜半に、東が魘されている姿を青は見ている。年齢の割には小さく、痩せた身体を丸くさせて『ごめんなさい』と寝言で繰り返す東の姿は痛々しかった。
白人に生まれたというだけで、兄が自害し、父親が断罪され、家が取り潰されてしまったのだ。
決して東のせいではない。
白人に生まれただけで断罪と決めている国が悪いのだ。
だからと言って、気にしなくていい、などという軽薄な言葉を吐く気などなれず、ただ一緒にいることしかできなかった。
時が東の心を癒してくれたのか、東は次第に声をかけてくれるようになり、微笑むことも増えた。
今のように東が楽しそうに話をしてくれることが青は心の底から喜ばしかった。
緩んでしまっていた東の包帯を巻き終えた青に東が言う。
「青さんは、……どうして僕に優しくしてくれるの?」
きゅっと包帯を結んで自分より一回り小さな東の手を手のひらで包み込んだ青は口を開く。
「直政から託された弟だからな」
もう会うことのない兄の名前を聞いてしまったからなのか、東は黙っている。
青は笑みを深くして続けた。
「私のことも本当の姉だと思ってくれていい。おまえをひとりにはしないからな」
「……兄さんに感謝しないとだね」
満月の光に照らされた東の布作面がそよ風に揺れる。表情を窺い知ることはできないが、柔らかな語調からは安堵の色を青は感じた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる