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02.オオカミちゃんと赤ずきん 前編
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「迷ったのだ……」
意気込んで村を出たランですが、地図も持たず、幼いころに数回行ったきりの人間の里に行くのはあまりに無謀でした。案の定、道を迷いに迷って着いたのは、辺り一面に色とりどりの花が咲くお花畑です。ランは思わず歓声を上げましたが、慌てて頭をぶんぶん振って考え直しました。そう、ランの目的地はこのお花畑ではないのです。
「一回、村の近くまで戻って……いやでも……」
「どうした」
どうしようかと考えているラン。その耳に男の人の声が聞こえました。声のした方に振り替えると、そこには赤い帽子をかぶって猟銃を持ったお兄さんが立っていました。
「お前、迷子か」
「そ、そうなのだ……じゃない、です! ワタシは町に行こうとしてて」
「町に? なら反対方向だぞ。丁度いい、俺が案内してやるからついて来い、ラン」
「あ、ありがとう、です!」
「……別に敬語じゃなくていい。お前が喋りやすいように喋れ」
お兄さんがどんどんと歩いていくので慌ててランはその後を追いました。日が昇ったものの、森は木々が茂っておりどことなく薄暗いです。そんな中を、お兄さんは迷いなく歩いていきました。
「あ、あの」
二人が森の中を歩いていく中、途中でランがお兄さんに話しかけました。どうやらお兄さんは無口な性格のようでしたが、ランはおしゃべりが好きだったのでとうとう我慢できず口を開いてしまったのです。
「何だ」
「お兄さんはなんて名前なのだ? 吾はランっていうのだ」
「吾? ずいぶん古い言葉遣いだな」
「長いことお爺ちゃんと一緒に暮らしてたから、それが移ってしまったのだ。母上や父上からワタシって言いなさいって言われてるけど、中々直らなくて」
「そうか。俺は――――なあ、ラン」
「うん?」
「この赤い帽子に見覚えは無いか」
そう言ってお兄さんは立ち止まって赤い帽子を指さしました。はてさて、ランはその赤い帽子をジーっと見て、それから首を捻ってしばらく考え込んでいました。それからしばらくした後、急にある人が思い浮かんで思わず叫んでしまいました。
「も、もしかして、『ルーくん』なのだ?」
「……やっと気づいたか」
『ルーくん』、その言葉にお兄さんは溜息をつきました。実はランには幼い頃、村の狼たちや家族に内緒で会っていた人間の友達がいました。名前をルージュと言い、髪はまばゆく煌めく黄金色、瞳は空よりも澄んだ青色の可愛らしい顔立ちをしていて、そしていつも赤い帽子をかぶっていた女の子でした。
ですが、ランの目の前にいる『ルーくん』はどう見ても男の人です。
「ま、まさか! ルーくん男になったのだ!?」
「ちげーよ! 俺は元々男だ!」
「あ、あんなに可愛かったのに?」
「悪かったな。今は可愛くなくてよ」
驚きのあまり混乱するランでしたが、確かによくよく見てみれば彼が『ルーくん』であることが分かります。幼いころより短くはなっているものの、金の髪に青の瞳は変わらずそのままです。それから拗ねた時に帽子のつばに手を添えてそっぽを向く癖も。
「ほ、本当にルーくんなのだ……!」
「だからそう言ってるだろ。……なあ、聞きたいことあるんだけど」
そう言うとルージュは真剣な表情でランを見つめました。その雰囲気にあてられ、ランも真面目な顔をします。
「どうしてあの日、待ち合わせ場所に来なかったんだ」
その言葉にランは思い出します。忘れもしない、まだランが五歳ほどの時のこと。皆に内緒で村の近くの森で会っていた二人はとある約束をしました。それは、ルージュのお婆さんの家に遊びに行くという約束です。時間も日にちもちゃんと決めて、ワクワクしながら帰った二人でしたが、約束の日にランが待ち合わせ場所に現れることはありませんでした。
「ごめんなさい」
ランは謝罪の言葉と共に深く頭を下げました。
「実は、約束をした日の夜に父上と母上にルーくんと会っていたことがバレてとても怒られたのだ。罰として一週間家の中に閉じ込められてて、その後は勝手に村から出ないように監視が付けられていたのだ。せめてルーくんに手紙を送りたかったけどそれも駄目って言われたから……。ルーくんとの約束勝手に破ってごめんなさいなのだ」
頭を下げているため、ランにはルージュが今どんな顔をしているのか分かりません。怒っているのか悲しんでいるのか、それとも呆れているのか。けど、ランはルージュがどんなことを酷いことを言おうともそれを受け止めるつもりでした。
「俺が嫌いになったわけじゃないのか」
「そんなわけないのだ! 吾は今でもルーくんのこと、友達だと思ってるのだ」
ランがそう言うと、静寂が二人の間に訪れました。風が木々を揺らす音だけが響いています。
「……顔、上げろよ」
やがてルージュがそう呟きました。恐る恐るランが顔を上げると、そこには怒っている様子でも悲しんでいる様子でも、そして呆れた様子でもなく、ただちょっと不機嫌な様子のルージュがそこに居ました。
「お前が来なかったのは不可抗力だってのは分かった。……正直、複雑だけど納得したぜ」
「お、怒ってる?」
「怒ってはねえよ。ただちょっと気持ちの整理がついてないだけだ」
そう言うと、ルージュはランに向かって手を差し出します。ランが不思議そうに首を傾げていると、ルージュはただ一言「手」とだけ言いました。
「目的地に着くまで手握ってたら許してやる」
照れ臭そうに言われたその言葉に、ランはパッと笑顔を浮かべました。そして意気揚々と彼の手を掴みます。
「何があっても離さないのだ!」
そう言いながら大事そうに手をつなぐランにルージュは静かに優しく笑みを浮かべるのでした。
意気込んで村を出たランですが、地図も持たず、幼いころに数回行ったきりの人間の里に行くのはあまりに無謀でした。案の定、道を迷いに迷って着いたのは、辺り一面に色とりどりの花が咲くお花畑です。ランは思わず歓声を上げましたが、慌てて頭をぶんぶん振って考え直しました。そう、ランの目的地はこのお花畑ではないのです。
「一回、村の近くまで戻って……いやでも……」
「どうした」
どうしようかと考えているラン。その耳に男の人の声が聞こえました。声のした方に振り替えると、そこには赤い帽子をかぶって猟銃を持ったお兄さんが立っていました。
「お前、迷子か」
「そ、そうなのだ……じゃない、です! ワタシは町に行こうとしてて」
「町に? なら反対方向だぞ。丁度いい、俺が案内してやるからついて来い、ラン」
「あ、ありがとう、です!」
「……別に敬語じゃなくていい。お前が喋りやすいように喋れ」
お兄さんがどんどんと歩いていくので慌ててランはその後を追いました。日が昇ったものの、森は木々が茂っておりどことなく薄暗いです。そんな中を、お兄さんは迷いなく歩いていきました。
「あ、あの」
二人が森の中を歩いていく中、途中でランがお兄さんに話しかけました。どうやらお兄さんは無口な性格のようでしたが、ランはおしゃべりが好きだったのでとうとう我慢できず口を開いてしまったのです。
「何だ」
「お兄さんはなんて名前なのだ? 吾はランっていうのだ」
「吾? ずいぶん古い言葉遣いだな」
「長いことお爺ちゃんと一緒に暮らしてたから、それが移ってしまったのだ。母上や父上からワタシって言いなさいって言われてるけど、中々直らなくて」
「そうか。俺は――――なあ、ラン」
「うん?」
「この赤い帽子に見覚えは無いか」
そう言ってお兄さんは立ち止まって赤い帽子を指さしました。はてさて、ランはその赤い帽子をジーっと見て、それから首を捻ってしばらく考え込んでいました。それからしばらくした後、急にある人が思い浮かんで思わず叫んでしまいました。
「も、もしかして、『ルーくん』なのだ?」
「……やっと気づいたか」
『ルーくん』、その言葉にお兄さんは溜息をつきました。実はランには幼い頃、村の狼たちや家族に内緒で会っていた人間の友達がいました。名前をルージュと言い、髪はまばゆく煌めく黄金色、瞳は空よりも澄んだ青色の可愛らしい顔立ちをしていて、そしていつも赤い帽子をかぶっていた女の子でした。
ですが、ランの目の前にいる『ルーくん』はどう見ても男の人です。
「ま、まさか! ルーくん男になったのだ!?」
「ちげーよ! 俺は元々男だ!」
「あ、あんなに可愛かったのに?」
「悪かったな。今は可愛くなくてよ」
驚きのあまり混乱するランでしたが、確かによくよく見てみれば彼が『ルーくん』であることが分かります。幼いころより短くはなっているものの、金の髪に青の瞳は変わらずそのままです。それから拗ねた時に帽子のつばに手を添えてそっぽを向く癖も。
「ほ、本当にルーくんなのだ……!」
「だからそう言ってるだろ。……なあ、聞きたいことあるんだけど」
そう言うとルージュは真剣な表情でランを見つめました。その雰囲気にあてられ、ランも真面目な顔をします。
「どうしてあの日、待ち合わせ場所に来なかったんだ」
その言葉にランは思い出します。忘れもしない、まだランが五歳ほどの時のこと。皆に内緒で村の近くの森で会っていた二人はとある約束をしました。それは、ルージュのお婆さんの家に遊びに行くという約束です。時間も日にちもちゃんと決めて、ワクワクしながら帰った二人でしたが、約束の日にランが待ち合わせ場所に現れることはありませんでした。
「ごめんなさい」
ランは謝罪の言葉と共に深く頭を下げました。
「実は、約束をした日の夜に父上と母上にルーくんと会っていたことがバレてとても怒られたのだ。罰として一週間家の中に閉じ込められてて、その後は勝手に村から出ないように監視が付けられていたのだ。せめてルーくんに手紙を送りたかったけどそれも駄目って言われたから……。ルーくんとの約束勝手に破ってごめんなさいなのだ」
頭を下げているため、ランにはルージュが今どんな顔をしているのか分かりません。怒っているのか悲しんでいるのか、それとも呆れているのか。けど、ランはルージュがどんなことを酷いことを言おうともそれを受け止めるつもりでした。
「俺が嫌いになったわけじゃないのか」
「そんなわけないのだ! 吾は今でもルーくんのこと、友達だと思ってるのだ」
ランがそう言うと、静寂が二人の間に訪れました。風が木々を揺らす音だけが響いています。
「……顔、上げろよ」
やがてルージュがそう呟きました。恐る恐るランが顔を上げると、そこには怒っている様子でも悲しんでいる様子でも、そして呆れた様子でもなく、ただちょっと不機嫌な様子のルージュがそこに居ました。
「お前が来なかったのは不可抗力だってのは分かった。……正直、複雑だけど納得したぜ」
「お、怒ってる?」
「怒ってはねえよ。ただちょっと気持ちの整理がついてないだけだ」
そう言うと、ルージュはランに向かって手を差し出します。ランが不思議そうに首を傾げていると、ルージュはただ一言「手」とだけ言いました。
「目的地に着くまで手握ってたら許してやる」
照れ臭そうに言われたその言葉に、ランはパッと笑顔を浮かべました。そして意気揚々と彼の手を掴みます。
「何があっても離さないのだ!」
そう言いながら大事そうに手をつなぐランにルージュは静かに優しく笑みを浮かべるのでした。
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