御曹司様はご乱心!!!

萌菜加あん

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第六話 違約金はほっぺにチューで許してやる。

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「なあ、煉!! 望月さくらから
定例の生存報告LINEが届かないんだがっ!!!」

俺はスマホ越しに煉を怒鳴りつけた。

「は……はあ? そんなの直接本人に聞けよ」

もっともな意見である。
だがしかし、すでに電話はかけたが、応答せず。

メッセージにも、既読すらつかない。

只今机の上のデジタル時計は22:50を表示し、
俺のイライラは頂点に達している。

「生存確認LINEが届かないっちゅうことは、
何かあったってことなのかな?」

俺のテンションはイライラを通り越して、不安になってくる。

「さあ、彼氏でもできたんじゃね?」

煉の適当な相槌に

「不吉なことを言うなっ!!!」

俺は金切り声で叫んで、
通話を切断し、
家を飛び出した。

◇◇◇

例のバイトの後輩ちゃんの彼氏が浮気をしたらしい。

「望月先輩、もう、私、一体何を信じたらいいのか……」

そう言って後輩ちゃんはまた泣き出した。

「よしよし」

そういってあたしは後輩ちゃんの頭を撫でてやる。

「でもさぁ、彼氏君そんな浮気をする人には見えなかったけどなぁ」

後輩ちゃんの彼氏君は何度かお店にも来てくれたことがあって、
本当に後輩ちゃんのことを大切にしていた。

お互いがお互いを思いやっていて、
本当に素敵なカップルだと思ったんだけどなぁ。

バイト終わりに駐輪場で話し込んでいたら、

ものすごいスピードで自転車を飛ばして、
後輩ちゃんの彼氏が現れた。

「由美ちゃんっ!」

「佐藤君っ!!」

なんかドラマのワンシーンを見ているようだった。

少し手間だが二人を邪魔せぬよう、
自転車は明日取りに来ることにしよう。

あたしは盛り上がっている二人を邪魔せぬように、
そっとその場を後にした。

「よう!」

駐輪場を出たところで、
鳥羽さんに出くわした。

「ひっ!」

悲鳴が喉の奥で凍り付く。

「なんなんだよ、そのリアクションはっ!
 本当にお前って失礼極まりないよな」

鳥羽さんが目を吊り上げている。

「あの……本日はどういったご用件で?」

もう23時を回っている。
こんな夜中にわざわざ一体何をしにこんなところに来たのだろうか。

「LINEっ! お前は生存確認メッセージですら寄こせねぇのかよ!」

鳥羽さんがひどく苛立ったように、口調を荒げた。

「LINE……? あっ忘れてた」

あたしはカバンからスマホを取り出した。

怒りのメッセージと、
電話の着信マークが
おびただしく羅列されている。

「ったく、使えねぇな」

鳥羽さんに軽く舌打ちされてしまった。

「今回のは違約金請求するからな! 
覚悟しとけっ!」

そう言って鳥羽さんは、ふいっと横を向いた。

なんか今夜は本気で怒ってるっぽい。
限界に疲れているこの身に、鳥羽さんの不機嫌は正直こたえる。

なんでだろう。
あたしはこの人のことが嫌いなわけじゃない。

そしてこの人にこんな顔をさせたいわけじゃないんだけどな。
そう思うと少し悲しくなった。

あたしは小さくため息を吐いた。

「何?」

鳥羽さんは、あたしのため息に不機嫌に反応した。
それでも

「お前はこちら側を歩け」

と歩道側に誘導してくれる。
こういうところが、微妙に紳士なんだよねぇ。

「あたし……鳥羽さんには借金ばかり増えていきますよね」

少し声のトーンが下がってしまった。

「つうかお前の借金がなければ、
俺がお前にちょっかいをかける理由がなくなっちまうからな」

鳥羽さんはひどく赤面しながら、
何が何だかなんかよくわからないことをぶつぶつと言っている。

「何言ってるんですか、鳥羽さん。
あたしは見ての通りとっても貧乏なんですよぉ!
鳥羽さんと違って、死ぬほど勤労しなきゃ生活できない、
勤労少女なんですよぉ! 鳥羽さんにLINE送る暇もないくらい、
生活でいっぱいいっぱいのっ!」

精一杯強がって、精一杯明るい口調で言ってみたけど、
それはとても悲しい台詞だった。

「知ってる」

隣を歩く鳥羽さんが下を向いた。

「ポルシェの修理代は何とかします。
 でも、LINEの返信が出来なかったことに対する違約金は、
 どうやら払えそうにありません」

なんとか笑顔を取り繕って、
あたしは言葉を紡いだ。

不意に鳥羽さんに手を繋がれた。
とても冷たくて驚いた。

「許さないっ! 絶対許してやるもんかっ!」

絞り出すような声色だった。

「それと覚えておけ、お前の俺への借金は十一で増える」

鳥羽さんが鼻の頭に皺を寄せて、
憎たらしそうな口調でそう言った。

「もう、なんなんですか、それ。
闇金よりたちが悪いじゃないですか」

あたしはクスクスと笑った。

「ああ、そうだとも。
お前もそういう男に惚れられたのが運の尽きだと思って
諦めることだな」

さらりとかまされた爆弾発言である。

「へ?」

ぽかんと口を開けたあたしの顔が間抜けだと、
今度は鳥羽さんが笑った。

だけどさっきの言葉は訂正しなかった。

「『スーパー望月』ここがお前ん家?」

鳥羽さんはそう言って感慨深げにうちの店を見つめた。

「店の隣の三階建てが我が家です」

そう言ってあたしは小さく肩を竦めた。

「そうか、ここがお前の」

鳥羽さんは心底嬉しそうに、あたしの家を眺めた。

そして不意に思い出したように、ぽんと手を打った。

「ああ、そうだ。今夜の違約金の件なあ、
金が払えないというのなら、身体で払ってもらおう。
それがいい、うん、そうしよう!」

なんかひとりで納得している。

「えっ? っていうか、身体で???」

あたしはひどく動揺した。

「あっ、お前、今、エッチなこと考えただろう。
 あほだなぁ」

鳥羽さんが鬼の首を取ったように揶揄ってくる。

「ほっぺにキスで許してやる」

そして自身の頬を人差し指で指差した。

「え?」

あたしは身構える。

「『心配かけてごめんね、総ちゃん』というセリフ付きでな」

鳥羽さんの言葉にあたしははっとした。

「ひょっとして、鳥羽さん、あたしのこと心配してくれてたんですかっ!」

そんなあたしに、

「お前鈍すぎだろ!」

そう言って鳥羽さんの唇があたしの頬を掠めた。







 
















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