御曹司様はご乱心!!!

萌菜加あん

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第十四話 彼女のいる空間

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「うん、普通に美味いな、これ」

俺は驚きに目を瞬かせた。

サクサクしていて、どこまでもシンプルなのに、
なぜか泣きたいほどに優しい味がする。

「そっ……そうですか。
それは良かった」

目の前の望月さくらが、ひどく赤面し、挙動不審に陥っている。

「何? ところでお前、なんでそんなにキョドってんの?」

俺の言葉に、望月さくらはぶんぶんと顔を横に振った。
なんだ? 今日はやけにオーバーリアクションだな。

「べっべべ別に、キョドってなんか」

望月さくらの様子が変だ。
そしてひどく顔が赤い。

「お前、顔が赤いぞ? 熱でもあんのか?」

そういって望月さくらの額に、俺の額をつけようとしたら。

ゴッ!

鈍い音がした。

いきなり頭突きをくらった俺は
シューっという音を立てて、
仰向けに倒れた。

「痛ったーい!」

望月さくらも額を押さえて涙目になっている。

俺はむっくりと起き上がり、

「ちょっ、お前っ! なんで頭突き?
熱を測ろうとしただけじゃないかっ!」

抗議の声を上げる。

「ごっ……ごめんなさいっ!
っていうかいきなり顔を近づけないでくださいっ!!
こっちにも心の準備ってものがあるんですっ!!!」

望月さくらが真っ赤になんて何か叫んでいる。

「もうっもうっもうっ!!! 鳥羽さんのバカー---!!!」

そして望月さくらは俺をバカ呼ばわりして、
どこかに走り去ってしまった。

◇◇◇

俺は製図室に戻って、再び製図に取り組む。

まずは図面を引く前に、
思い描く家の外観を
スケッチブックに絵コンテで起こしていく。

「まずはベースとなるのは和風か、洋風か」

思案を重ねながら、俺は製図ペンをくるくると回した。

「たとえばデザインは和を基調とした、和モダンで……、
色調は……そうだな。黒を基調とした石材をうまく配してだな」

少しペンを走らせて、俺はため息を吐く。

「だめだ。どうしても男の一人暮らしって感じになってしまう」

それは多分とても洒落ていて、
今の流行を外しているわけでもないと思うのだが、

やっぱりどこか寒々としている。

「ああ、くそっ! わからんっ」

俺は頭を掻きむしった。

そして目を閉じる。
その瞼裏には、やっぱり彼女の面影が浮かぶ。

「望月……さくら……」

背中に流れる黒髪を、背中に束ねて、
エプロンをつけてクッキーが焼けるのを、
幸せそうに待っている彼女だ。

やがて甘く優しいに匂いが立ち込めて、
彼女は部屋に入ってきた俺を、最高の笑顔で迎えてくれるのだ。

「あなた~、お帰りなさい♡
ごはんにする? お風呂にする? それともあ・た・し?」

そして俺は間髪を入れずにこう答えるのさっ!

「お前だー---!!!」

ってな。
ヤバい。なんか鼻血出そう。

「ふっふっふっ……。
うん、いいな、これ」

俺は妄想にひとりほくそ笑む。

「俺が立つキッチンではなく、
彼女が立つキッチンって……一体どんな感じなのだろう」

少しイメージが掴みにくかった。

俺は速攻で望月さくらにLINEを送ったが、
またもや、未読スルーをくらったため、

毎度のごとく彼女のバイト先に乗り込む。

◇◇◇

「さくらちゃん、彼氏来てるよ」

チーフが小声であたしに囁いてくる。

「いやっ……ちょっ……違うっていうか……あのですねぇ」

最近のあたしはちょっと変なのである。

鳥羽さんと遭遇すると、なんか条件反射で赤面し、
胸の動悸が激しくなるのだ。

鳥羽さんのことが嫌いなわけではないのに、
妙にこっ恥ずかしくて居心地が悪い。

「も~ち~づ~き~さ~く~ら~」

閉店間際の店内に、
やっぱり妖怪ウザガラミと化した鳥羽さんが鎮座している。

「ほ……本日はどういったご用件で?」

鳥羽さんの注文したケーキセットを持って行く体で、
恐る恐る尋ねると

「お前っ、またLINE無視しただろ」

たいそうご立腹のご様子。

違うんです。
バイトの後輩がね、急遽お休みしちゃってね、
ただでさえ、ぎりぎりの人員でお店回していたのに、
究極にきつくてですねぇ。

あたしは本日のド修羅場を思い出して、
ちょっと涙目になった。

「お前……疲れてんのな」

不意にそう言われて、

「えっ?」

あたしはポカンと口を開けてしまった。

「隙ありっ!」

その瞬間、鳥羽さんはチョコレートケーキを
あたしの口に放り込んだ。

「ふがっ!」

あたしは慌てて、口を押えた。

「ちょっ……何するんですかっ!
 今はバイト中ですよ!」

あたしが鳥羽さんに小声で抗議すると、

「さくらちゃん、もういいよ。
先に上がって。今日は本当にありがとうね」

そう言ってチーフがねぎらってくれた。

「それとこれ、あまりものだけど、
今日のお礼にね、ケーキ持って帰って。
是非、鳥羽さんと一緒に食べてね」

そして余計な一言を添えた。

「ありがとうございます。是非」

そう言って鳥羽さんが、最上級の笑みを浮かべた。

店を出ると、

「なあなあ、望月さくら、このケーキはどうやら、
俺と一緒に食べなくてはならないらしいぞ?
あっ賞味期限は今日だ」

ケーキの小箱を観察した鳥羽さんが、
白々しい口調でのたまう。

「もう、いいですよ。
ケーキは鳥羽さんにあげます。
あたしはさっき鳥羽さんのを貰いましたし」

そういうと、

「いや、そういうわけにはいかない、
宮前チーフさんは、俺たちに
『一緒に食べてね♡』と言ったのだから」

そう言って鳥羽さんはしれっと
あたしの手をつないだ。


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