御曹司様はご乱心!!!

萌菜加あん

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第十九話 ルイーズ・エクレシア

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「おい、総一郎! ゼミの井沢教授がお呼びだぞ!
 すぐに研究室に来い」

遠目に俺の姿を見つけた相良煉が、
声を張り上げた。

その声に俺ははっと顔を上げた。

「分かった、すぐに行く」

コンペに出す製図の件で、教えを請いたいと
教授にメールを送ったのは俺だ。

非礼を働くわけにはいかない。

「すまない、望月さくら。後でLINEする」

俺は望月さくらをその場に残して、
煉のもとに走った。

◇◇◇

「望月さん、あなた今朝、
鳥羽さまと一緒に登校なさったわね」

令嬢たちのきつい視線を一身に浴びて、
あたしはぐっと腹に力を入れた。

『胸を張れ、望月さくら』

さっき鳥羽さんに言われた言葉を噛み締めて、
前を見据えた。

「ええ、そうよ。だから何?」

あたしの言葉に令嬢たちの顔色が変わった。

「あなた、鳥羽さまはルイーズさまの婚約者なのよ。
それがわかっていて、よくもまあ、ぬけぬけと」

声を荒げる令嬢に、

「いえ、あの、わたくしのことは本当に気になさらないで」

ルイーズさまが激しく瞬きを繰り返している。

あたしをとりまく不穏な空気に本気で、
動揺しておられるようだった。

「あなた、ルーズさまにこんなことを言わせて、平気なのっ?」

あたしは唇をきつく噛み締めて、天を仰いだ。

「なんとか、おっしゃいよ、この泥棒猫っ!」
 
「きゃっ!」

令嬢の一人に肩口のあたりを強く押されて、
あたしはその場所に尻餅をついた。

「おやめなさい。そこまでよ。
あなたこれはれっきとした暴力ではなくて?」

ルイーズさまは、尻餅をついたあたしと令嬢の間に
割って入って、あたしを突いた令嬢をきつく制した。

「ですがルイーズさま」

令嬢は不服そうに眉根を寄せる。

「ですが……なんですか? 暴力の現場に居合わせて、
わたくしはそれを目の当たりにしてしまいました。
これ以上のことは、大学側にお知らせしなければなりなせん。
おわかりですね?」

静かだが、有無を言わせぬ威厳を持ったルイーズ様の言葉に
令嬢はようやく口を噤んだ。

「行きましょう」

令嬢たちは顔を見合わせて、その場を立ち去った。

「あなた大丈夫? ケガしてない?」

ルイーズ様があたしのもとに走り寄って、
心配そうに顔を覗き込んだ。

「立てるかしら?」

あたしは差し出されたルイーズ様の手を取って立ち上がった。
なんとか怪我はしなかったようだ。

「……ありがとう、ございます」

お礼を言って頭を下げたあたしに、
ルイーズ様は天真爛漫な笑顔を向けてくださった。

「ねえ、あなた。わたくしとお友達になってくださらない?」

ルイーズ様の突然の申し出に、あたしは目を見開いた。

「ですが、あたしはあなたの婚約者の……」

あたしの言葉にルイーズ様は小さく首を横に振った。

「わたくしは親の意思に従うつもりは毛頭ありません。
だってわたくしが愛しているのは……」

ルイーズ様は言葉を切って視線を上げた。

「お嬢様~!」

その先には、一ノ瀬君の姿が。

「タオルもってきました。これはひどい。
大丈夫? 望月さん。これを使って?」

一ノ瀬君がそういって、タオルを手渡してくれた。

服が結構ひどいことになっている。

明け方にまとまって降った雨のせいで、道がぬかるんでいたうえに
まともに尻餅をついてしまい、かなり悲惨な有様である。

「これではタオルで拭いて応急処置ってわけにはいかなさそうね。
まあいいわ、いらっしゃい」

そういってルイーズ様があたしの手を取った。

「ですが、あの、あたしこれから講義があって」

あたしの言葉に、一ノ瀬君がにやっと笑った。

「栄養学概論だろ? あれ、教授の都合によって休講だってさ」

一ノ瀬君の言葉にあたしはほっと胸を撫でおろした。

「あっでもルイーズ様は?」

あたしがそう問うと、

「わたくしはこの時間はもともと空き時間ですの
涼平のお見送りをしてから、図書館で自習をしようと思っていたのですわ」

ルイーズ様は親しみを込めてあたしに微笑んでくれた。

◇◇◇

あたしはルイーズ様の案内で、大学の迎賓館に連れてこられた。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

エントランスに勢ぞろいした使用人たちが、
一斉にルイーズ様に頭を下げた。

「ただいま戻りました。彼女はわたくしの大切なお客様です。
すこしトラブルがあって、服を汚してしまいました。
バスの用意をお願いします」

ルイーズ様の指示に、上級メイドが会釈を返すと、

「では、こちらに」

あたしはバスルームに案内された。

◇◇◇

「えっと……あの……」

お風呂から上がると、メイク室に連行されて、
ルイーズ様専用のスタイリストさんが、
なんかいろいろやってくれている。

「とても素敵よ、さくらさん」

鏡越しにルイーズ様があたしに微笑んでくださるが、
こういうモードに全く慣れていないあたしは、
微妙に会釈が引き攣ってしまう。

ふんわりとした白のトップスに、
ラベンダーカラーの花柄の可愛いスカートを合わせた

とてもフェミニンなコーデだ。

「よく似合っているわ」

ルイーズ様が満足げに、鏡の中のあたしに見入っている。

しかし当のあたしは、妙に気後れしてしまう。
勿論女の子なのだから、こういう洋服に憧れがないわけじゃない。

だけど移動手段が基本的に自転車なので、
スカートはあまり穿かない、というか穿けないし、

髪も大体後ろで一つに結んでいる。

自分を飾っている暇なんて、本当になかったし、
そんな自分を鏡に映して見るのも、なんだか悲しかった。

だけど今日は髪もプロのスタイリストさんがセットしてくれて、
まるでおとぎの国のお姫様のようだ。

心がときめかないと言えば嘘になるけど、
一体どうしてルイーズ様はあたしのことをこんなに
飾り立てるのだろう。

そんな疑問が脳裏を過る。

「まだ少し時間があるわね、客間でお茶をいたしましょうよ、
さくらさん」










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