御曹司様はご乱心!!!

萌菜加あん

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第二十話 お茶会

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屋敷の中央に位置する螺旋状の階段を二階にあがって
突き当りの角部屋が、この屋敷の主人であるルイーズさまの居室なのだという。

そしてあたしが通されたのは、
ルイーズさまのプライベートリビングだった。

二間続きの手前に位置するのが、このプライベートリビングで、
その奥が寝室なのだそうな。

ルイーズさまが国から運ばせたという調度類は、
アンティークでどれも素敵なものばかりだった。

「うわ~すごい」

お部屋を拝見して、あたしは思わず感嘆の声を上げてしまった。

花を模した可愛いシャンデリアに、
猫足仕様の鏡台。

女の子だったらきっと誰しもが憧れるに決まっている。

そんなお部屋をうっとりと眺めているあたしに、
ルイーズさまが親しみをこめて微笑んでくださった。

その微笑みがあまりにも美しかったものだから、
あたしはついうっかりと、その様子に見入ってしまった。

本当にお美しくていらっしゃる。

ベリーピンクのやわらかい髪が波打つように背に流れ、
透き通るような白磁の肌は、
ほんのりと色づいて、まるで咲き初めの薔薇のようだ。

濃い睫毛に縁どられた、アクアブルーの瞳が、
あどけなくあたしを映している。

「どうかなさって? さくらさん」

ついうっとりと見とれてしまったあたしに、
ルイーズさまが不思議そうな顔をする。

(あなたの美しさに見とれてました)

とはいえず、

「あっ、いえ」

あたしは曖昧にごまかした。

「うふふ、ねぇ、さくらさんはマカロンはお好き?」

ルイーズさまが、華やいだような声色で言った。

「わたくしはね、大好きなの。
涼平がね、わたくしのお茶のために特別に焼いてくれたのよ。
一緒に食べましょう」

ルイーズさまが、至極幸せそうな顔して、微笑む。

(ああ、本当にルイーズさまは、一ノ瀬君のことが好きなんだな)

一ノ瀬君に向けられたルイーズさまの一途な想いが
伝わってきて、見ているこっちまでなんだか温かい気持ちにさせる。

お茶をいただきながら、ルイーズさまの学園での生活や、
恋バナをお伺いして、すっかり打ち解けたころ、

あたしのスマホが鳴った。

バイト先からだった。

「さくらちゃん、ごめんねぇ、お店の空調機が壊れてしまって、
急遽業者に修理を依頼したんだけどねぇ、
ちょっとしばらくかかりそうなのよ」

電話越しに、チーフの申し訳なさそうな声色が聞こえる。

「あっ、こっちは全然大丈夫なので、心配しないでください。
それよりもお店大変ですね」

そう気遣うと、チーフが電話越しに涙ぐんでいる。

(よっぽど大変だったんだ)

あたしは目を瞬かせた。

「詳しいことが分かり次第、
また連絡を入れるから」

チーフはそう言って電話を切った。

「すいません、バイト先からでした」

ルイーズさまに会話の途中で電話に出たことをお詫びすると、

「なにかあったの?」

逆に心配してくださった。
本当にいい人だ。

「空調機が壊れてしまって、
しばらくお店を閉めなくてはならないのですって」

そう言ってあたしが肩を竦ませると、

「まあ、でしたら是非うちでお夕食をご一緒いたしましょうよ」

ルイーズさまの顔がぱぁっと輝いた。

いや、でもさすがにそれは申し訳ない。

あたしが思案をしていると、再びスマホが鳴った。

てっきりバイト先からの連絡事項だと思って
電話に出ると

まさかの鳥羽さんだった。

「お前、一体どこにいるんだ!!!」

いきなり怒鳴られてしまった。

「トラブルがあったと聞いた。それでお前、無事なのか?」

電話越しにも、鳥羽さんが酷く取り乱しているのがわかった。

大丈夫です、と応えようとした矢先に、
ルイーズさまがひょいとあたしのスマホを取り上げた。

「あっ、ちょっとルイーズさま?」

焦るあたしに、
ルイーズさまがいたずらっぽく片目を閉じて見せる。

「全然無事じゃないわ。彼女はひどい有様よ。
返して欲しくば、学園の迎賓館にいらっしゃいな」

そう言ってルイーズさまは一方的に通話を切った。

「ル……ルイーズさま?」

あたしが目を瞬かせていると、

「まあ、見ていなさいな」

そう言って、ルイーズさまはいたずらっぽく笑った。

しばらくすると、ものすごい勢いで呼び鈴が鳴った。
そしてドアが壊れるんじゃないかと思うほどに勢いで、
思いっきり叩かれる。

その勢いに屋敷の使用人たちがあからさまに引いている。

そんな使用人たちを制して、
ルイーズさまがあたしをエントランスの扉の前に立たせる。

「ルイーズ、てめぇっ! あいつをっ!
望月さくらをどこへやった!!!」

鳥羽さんの怒鳴り声に
ニヤリと笑ったルイーズさまがオートロックを開けると、

はたとあたしと鳥羽さんの視線が交わる。

「あっ、すまない。
人を探していて……」

口を開いた鳥羽さんが言葉を切る。
そしてあたしを見て、その顔がみるみる赤面する。

「え? ちょっ……お前っ……望月さくらっ???」

驚きに声が妙な具合にひっくり返っている。

「……」

鳥羽さんの動揺ぶりに、どうリアクションを返していいのかわからず、
あたしは決まず気に目を伏せた。

「どう? めちゃくちゃ可愛いでしょう」

ルイーズさまが腰に手を当てて、得意げに胸を張った。

「っていうか、こいつが怪我でもしたんじゃねぇかって、
俺は生きた心地も……」

鳥羽さんが苦し気に唇を噛んだ。

「一歩間違えば、そういうこともあり得たわ」

ルイーズさまが真剣な眼差しを鳥羽さんに向けた。

「これは彼女の衣服よ。クリーニングしておいたわ」

そう言ってあたしの服の入った紙袋を、鳥羽さんに渡した。

「あとはあなたがなんとかしなさい。総一郎」

その眼差しに、鳥羽さんが少し目を細めた。


























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