御曹司様はご乱心!!!

萌菜加あん

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第二十一話 パパラッチ

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「もっ望月さくら……ところでその恰好……」

ルイーズさまの迎賓館を出て、駐車場に向かう途中で、
鳥羽さんが妙にひっくり返った声を出した。

「服を汚してしまって、ルイーズさまにお借りしたのよ。
ちゃんとクリーニングしてお返ししないとね」

ちょうど駐車場の横にあるカフェテリアを兼ねたレストハウスの窓に、
ふっと自分の姿が映し出された。

それはまるで別人のようだった。

服もアクセサリーも、とても高価なもので、
それがあたしにとって分不相応なのは重々承知している。

「やっぱり似合わないわよね」

そういって肩を竦めて見せるあたしに、

「いやっ……そうではなくて」

鳥羽さんが激しく赤面している。

「すごく可愛いと思う」

あたしはいきなりの鳥羽さんの爆弾発言に、
撃沈した。

◇◇◇

「鳥羽くん、君らしくもない出来栄えだった。
正直少しがっかりしたよ」

俺の所属するゼミの井沢教授から、
さきほどそう言われた。

つっかえされた図面に、俺は唇を噛んだ。

まわりに変人と称される井沢教授だが、
設計のセンスは抜群で、他の追随を許さない。

三十そこそこという年齢で、
すでに大学院の博士課程を修了しており、

有名な建築コンペの優秀賞をいくつも総なめにしている。

かくいう俺も、この井沢教授の設計を目の当たりにしたときには、
とてつもない衝撃を受けた。

どうしてもこの人のもとで学びたいと、
当時親からすすめられた留学の話を蹴って、
この欄城大学に入学したのだ。

「いい表情だな、鳥羽総一郎。ぞくぞくするよ」

へこむ俺を見つめる井沢教授の目が、らんらんと輝きを増す。

(この人のこういうところが……なぁ)

俺は小さくため息を吐いた。

実力者=人格者とは限らない。
むしろ大学という研究機関では、
実力がある人ほど、変人であるという確率が極めて高いのである。

「それで井沢教授、俺はこの図面のどこをどう直せばいいのでしょうか?」

そう尋ねた俺に

「ノーヒント」

そう答える井沢教授の瞳孔が開いている。

本当は黒髪、切れ長の超絶美形のくせして、
女がキャーキャー言って面倒くさいと、

ボサボサ頭に、無精髭、度のきつい分厚い眼鏡をかけて
その容姿をかくしている、まさに変人である。

「正解は自分で導き出さないと成長しないからね」

それっきり、井沢教授はくるりと俺から背を向けて、
パソコンでエロげーをはじめた。

「くひひ……俺のゆみこちゃ~ん」

おそらくはこうなたったら、この人は
梃子でも教えてくれない。

「貴重なお時間をありがとうございました。
自分なりにやり直してきます」

俺は教授に一礼して部屋を後にした。

「ふんっ! 井沢よ、数秒後にお前の愛しのゆみこちゃんが、
親友の友野に寝取られる悪夢を経験するがいい」

案の定

「ぎぃやああああああ!!! 僕のゆみこちゃんがぁぁぁ!!!」

扉一枚を隔てた教授室から、
井沢の絶叫が聞こえた。

◇◇◇

「どうしたんです? なんだか今日、鳥羽さん元気がないような」

望月さくらが、俺の顔を覗き込んで小首を傾げた。

ルイーズから借りたというフェミニンな服に身を包んでいる
今日の望月さくらは特別に可愛い。

俺は黙って望月さくらの手を繋いだ。

「本当にどうしちゃったんです? 鳥羽さん」

望月さくらが、やっぱり心配そうな表情をする。

「ちょっとコンペに出す製図が、うまくいかなくてな」

少し弱音を吐いてしまった。
そんな俺を元気づけるように、望月さくらが

「あっそうだ! 鳥羽さん今日このあと時間ありますか?
あたし急にバイトがキャンセルになっちゃって。
良かったらどこかに遊びにいきませんか?」

嬉しい提案をしてくれる。

「行かない理由がどこにある?」

そう言ってやると、望月さくらがこぼれるように笑った。

「昨日は鳥羽さんが夕食を作ってくれたから、今日はあたしが
ごちそうします」

そう言ったあとで、少し顔色を変えて、自分の財布の中身を確かめ出した。

「っていっても、あんまり高いものは無理ですけど……」

そう言って苦笑する。

結局俺は、望月さくらの好意を受け取るために、
駅前のファーストフードの店で、お茶をごちそうになった。

「えへへ、実はあたしこの店のソフトクリームが大好きなんです。
いまどきソフトクリームって、なんかちょっとはずかしいんですけど」

俺の頼んだコーヒーよりも先に、望月さくらが注文したソフトクリームが
運ばれてきた。

「よかったら一口どうぞ」

そう言って差し出されたソフトクリームを
断る理由がどこにある?

俺がソフトクリームに齧りついた瞬間に、
斜め前の席に座っているやつが、

スマホをこちらに向けて、連打しているのが見えた。

「まずい! 望月さくら、出るぞ」

俺は望月さくらの手を取って、立ち上がった。

◇◇◇

「離婚危機の芸能人夫婦を張っていたのだが、
これはまた、予期せぬ大物が釣れたものだな。
おい、雑誌の表紙、今から変更が聞くか、
本社に問い合わせろ」

先ほど鳥羽にスマホを向けた男が、
その部下と思しき年の若い男に指示を飛ばした。

「鳥羽建設の御曹司! 熱愛発覚。
お相手は……。
ふんっ! こりゃ売れる。
おい、坂下。増版きくかもついでに社長に聞いてくれ」

男は古びた手帳を取り出して、嬉々として何事かを書き綴る。














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