御曹司様はご乱心!!!

萌菜加あん

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第三十九話 二組のカップルの成立

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「大丈夫か? 望月さくら」

そう言って鳥羽さんが、冷たい水の入ったグラスを差し出してくれたので、
あたしはそれを受け取ってごくごくと飲み干した。

「ごめんな、お前初めてなのに、結局気絶させてしまった……」

行為のあとで、一緒にお風呂に入っていると、
鳥羽さんが項垂れた。

「いや……あの……それは……」

あたしは思わず口ごもる。

鳥羽さんがかなり、あたしに気を使ってくれていたのは、
理解できるし、そんなに乱暴なこともされなかった。

ただ……初めてなのに、
気絶しちゃうくらいに、鳥羽さんとの行為が気持ち良かったのだ。

「あっ謝らないでよ。と……鳥羽さんだって初めてなのに、
あたしが不甲斐ないばっかりに、
色々我慢させちゃったし……」

あたしは気まず気に視線を泳がせる。

「俺はお前とひとつになれて、それだけでもう十分に幸せつっうか。
でも、なんかお前が痛い思いをしなかったか、とか、
ちゃんと気持ち良くなってくれたかな、とかそういうのが凄い心配で」

真顔で鳥羽さんがオロオロとしているから、
あたしはそっと鳥羽さんに向き直って、
その唇にキスを落とした。

「そりゃあ、痛かったし、苦しかったけど。
それもひっくるめて、あなたに抱かれて幸せだったよ」

そう言って微笑むと

「そうかよ、そりゃあ良かった。
もう二度と俺はお前を離しはしない。
何せこれでお前は俺の妻なのだから」

そう言って鳥羽さんがきつく、きつく、あたしを抱きしめた。

◇◇◇

「総一郎坊ちゃん。お迎えに上がりました」

翌日そう言って、あたしたちが泊まったロッジに現れたのは、
キヨさんだった。

「キヨ、すべては手筈通りに」

そう言って鳥羽さんがキヨさんに目配せすると、
キヨさんが頷いて、恭しくあたしの手を取った。

「鳥羽さんっ!」

一瞬、またこの人と引き離されてしまうのではないかと、
そんな不安が脳裏を過って、

思わず呼び止めてしまった。

そんなあたしに鳥羽さんが、微笑む。
そしてあたしの唇に人差し指を当てた。

「さくら、鳥羽さんじゃない。総一郎……だろ?
俺たちはもう、夫婦なんだから」

あたしを見つめる鳥羽さんの眼差しが深い。

「総一郎……さん」

この人の名前を呼ぶあたしは、やっぱりまだぎこちない。
それでも……それでも。

あたしは鳥羽さんから目を逸らせない。

「大丈夫だから、そんな泣きそうな顔をするな。
お前はとびっきりのオシャレをして、
とびっきりの笑顔で俺の隣にいれば、
それでいいのだから」

額に鳥羽さんのキスが降りてきた。

「では、行ってくる。さくら、後でな」

ロッジの前にはすでにルイーズさんもいて、
二人はホテルで開かれる婚約会見の会場へと向かって歩いて行った。

「さあ、さくら様。あなた様も用意に取り掛かりませんと」

そうキヨさんに促されるのだけど、

「っていうか、キヨさん。あたしは一体何の用意をするのですか?」

あたしは目を瞬かせる。

ひょっとして、夜逃げ……とか?

そんなろくでもない予感が頭を過り、あたしは頭をブンブンと横に振る。

「なんだ、あんた知らないのかい? 
今日が総一郎坊ちゃんの二十一歳の誕生日なんだよ。
鳥羽家とルイーズ様のご実家とで内々に取り決めていた婚約が、
正式に効力を持つ日なんだ」

キヨさんの言葉に、あたしはちょっと泣きそうになった。

「だけど、あのお二人はそれぞれに愛する人を持ち、
正々堂々と親の決めた婚約を破棄なさるおつもりだ」

キヨさんの言葉にあたしは口を噤む。

「そして総一郎坊ちゃんは、その場であんたのことを
自分の正式なパートナーとして公にするおつもりなんだ。
坊ちゃん自らこの日の為に、あんたのドレスやら、アクセサリーにいたるまで、
準備なさっていたんだよ。
だからあんたには、とびっきりのオシャレをして、とびっきりの笑顔で
総一郎坊ちゃんの隣に立って欲しいんだ」

あたしが鳥羽さんの隣に立つのは構わない。
だけど、それで果たして鳥羽さんのお義母さんが、納得するのだろうか。

そんな疑問がモロ顔に出てしまったらしい。

「そんな顔をするもんでないよ、あんたが思うよりも総一郎坊ちゃんは、聡明でね。
すでにちゃんと手は打っている。
先週招集された臨時株主総会で、美恵子夫人の退陣は正式に決定されたし、
美恵子夫人が代表取締役に就任してから膨らんだ赤字は、
コンペで優勝した総一郎坊ちゃんの図面を気に入ってくれた富豪が、
肩代わりしてくれることになった。
これで名実ともに総一郎坊ちゃんは、鳥羽建設の代表取締役ってわけだ」

キヨさんがまるで自分のことのように誇らしげに言う。

「だが、その重圧っていうのは、相当なもんだ。
総一郎坊ちゃん一人で耐えきれるもんじゃない。
だからあんたがそばにいて、必ず総一郎坊ちゃんを支えてやって欲しいんだ」

キヨさんの言葉に、あたしはこくりと頷いた。

◇◇◇

「おいっ! とんでもないスクープだぞ!」

鳥羽さんとルイーズさんの婚約破談会見の会場がひどく荒れていた。

「ルイーズ・エクレシアの新恋人、一ノ瀬涼平にカメラを向けろ!
彼は海運業の雄、一ノ瀬財閥の会長の孫らしいぞ!」

夥しいフラッシュが、一ノ瀬君に向けてたかれている。

その光景にあたしはぽかんと口を開けた。

「あいつ、やってくれるな」

鳥羽さんがニヒルな微笑を浮かべている。

「まあいい、それよりもお前、可愛く支度ができたんじゃね?」

そう言って、鳥羽さんが満足げにあたしを見つめたかと思うと、
ぐっとあたしの身体を引き寄せた。

「ちょっ……ちょっと、こんな公の場で……鳥羽さん?」

小声で講義すると、

「鳥羽さんじゃない」

鳥羽さんの目つきが剣呑になる。

「失礼いたしました。総一郎……さん」

そう訂正すると、

「good!」

鳥羽さんは満足げに頷いて、

「皆さん聞いてください。
この人が俺の伴侶となる人です」

堂々とそう宣言した。

「ほえっ?」

いきなりの宣言に、ぽかんと口を開けたあたしの顔を見て、
鳥羽さんがニヤリと笑って、

そして強引にあたしの唇を奪う。

刹那、今度はあたしたちに向かって、一斉にカメラのフラッシュがたかれた。

◇◇◇

ここに『海運業の雄と公国の王女、そして建築王と庶民派スーパーの娘』による
二組の奇妙なカップルが成立したのである。

◇◇◇







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