俺が王子で男が嫁で!

萌菜加あん

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第四話 クラウド王子の苦悩

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(あれは気の迷いだ。そうに決まっている。
でなければ、この俺が男に発情するなど……)

 翌日、クラウドは自らの心の迷いを晴らすべく、山に籠った。

「般若波羅蜜……」

 経を唱えて、春先のまだ冷たい清流に身を打たれながら、
クラウドは一心不乱に煩悩をかき消そうと努力した。

(大丈夫、大丈夫だ。俺、落ち着け。
そう……あれはただ若気の至りってやつ? 
そんなんじゃない。絶対そんなんじゃないから)

しかしそう思い込もうとする一方で、頭を過る紫龍の面影が、
クラウドの心を切なく締め付けていく。

(ひょっとすると、俺は何かの病気なのかもしれない。
その証拠に無駄に心臓が痛いし、なんだか熱っぽい。俺……死んじゃうんだ)

そんなことを考えているうちに、
クラウドは急に弱気になって両の掌で顔を覆った。

「クラウド様、いいかげん水から
上がって身体を温められてはいかがですか?」

そんなクラウドを執事アルバートンが
穏やかに微笑みながら見つめていた。

クラウドが打たれている滝の前では、
すでにパラソルと椅子が置かれて、
クラウドの身体を温めるために、お茶の用意がされていた。

「クラウド様は今、生まれて初めて恋というものを
経験なさっておいでなのではありませんか?」

水面から上がったクラウドにタオルを渡しながら、
アルバートンが言った。

「恋?」

クラウドはその言葉を呟き、不思議そうな顔をした。

「そう、恋です。確かにクラウド様はその類い稀なる美しさのゆえに、
数多の女人から言い寄られていらっしゃいました。
しかしこれまで本気でクラウド様ご自身が、
心からどなたかを欲したことは、なかったのではございませんか?」

アルバートンの言葉にクラウドはバスローブを身に纏い、
苛立たしげに、椅子に腰かけた。

(この俺が、恋だぁ? バカバカしい)

王族として定められた運命に抗えないことは、
これまでの経験上、嫌というほど理解している。

馬鹿をやりながらも、物心ついたころから、恋愛などするだけ無駄だと、
どこか冷めた目でそれを見続けてきたのも事実で、
一夜限りのただの欲求のはけ口として以上の意味を持って、
女というものを見たことはなかった。

そしてそれはあくまで、
抗うことの許されない自身の背負う運命への、
ささやかな抵抗でもあった。

(不本意だ。俺は恋などしない、
誰の事も必要としない)

そしてそれは道化を装うクラウドの、傷つくことを恐れた、
ひどく弱い部分を隠すための防御壁でもあったのだが、
しかしそれが今、クラウド自身の根底から覆ろうとしている。
 
しかも男相手に、だ。

いくら自身がかき消そうとしても、
追憶が紫龍の面影を求め、心がひどく騒ぐ。

(不快だ。この上もなく不快だ)

クラウドは唇を噛みしめ、激しく眉間に皺を寄せた。

「アルバートン、至急酒と女を用意せよ」

クラウドは不機嫌に、執事アルバートンに命じた。
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