俺が王子で男が嫁で!

萌菜加あん

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第二十四話 紫龍の請願

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◇  ◇   ◇

「さぁ、紫龍様、気を取り直してドレス選びですわよ」

そういうと、エアリスは腕をまくった。

「ちょっと待て、エアリス。いくら俺が龍族の半月とはいえ、
一応見た目は男として分化発達をしてしまっている。
女物のドレスが似合うわけがないだろう」

「いえ、紫龍様なら女装でも全然OKだと思います」

そういってエアリスは紫龍の全身に視線を這わせた。

そしてしばしの間腕組をして考えこむ。

「確かにそのまま女装という手段を用いたとしても、
絶世の美女になられるのには間違いはないのですが、
まあ、側室候補ともなれば身体検査も不可欠でしょうし、
一応本物の女の子になっちゃいましょうか」

そういってエアリスは鏡の前に立ち、
紫龍の衣服を脱がせた。

鏡に映るのは紫龍の、
薄く筋肉のついた均整のとれた男としての裸体。

その身体を見て、紫龍がため息を吐いた。

「初めから女の身体で出会っていたら……」

クラウドを失う事はなかったかもしれない。

躊躇い中で、
思っても甲斐の無い思考ばかりを繰り返してしまう。

鏡越しにエアリスは小さく首を横に振った。

「そうではありません、紫龍様。
姿形に関係なく、紫龍様とクラウド王子は魂で固く結ばれております。
クラウド王子は、今は一時的に記憶を操作されておいでですが、
それはきっと長くは持ちません。
そして、今から行う秘術も、紫龍様が恋をしてこそ、
初めて成立するものでございます。
心から紫龍様がクラウド王子を欲するのでなければ、
決して成功しない秘術なのでございます」

そういったエアリスの右手が
すでに青く輝きを放っている。

紫龍は自身の身体にこれから起きる変化を受け止めるべく、
目を閉じた。

その身を流れる遥か古の血脈に、
紫龍は想いを馳せた。

それは寝物語に幼い頃、
乳母たちに繰り返し聞かされた始祖の物語であった。

昔、ひとりの龍人の姫が、人間の王子に恋をした。

王子に恋焦がれ姫は魔女に、
自身の声と引き換えに人間にしてもらい、
愛おしい王子に会いに行った。

しかし王子は姫ではなく、隣国の王女に恋をしてしまい、
報われぬ恋を悲しんだ姫は海の泡となって消えた。

有名なアンデルセンの『人魚姫』の童話であるが、
その話には実は続きがあった。

報われぬ恋に人魚姫は海の泡となったのだが、
実は泡になる前に人魚姫は王子との間に子を儲けた。

それが紫龍の始祖となったのである。

「紫龍様のからだを魔術によって女の子に変える代わりに、
紫龍さまはその代償を払わねばなりません」

エアリスの言葉に紫龍は静かに頷いた。

「わかった、ではその代償に俺は一体
何を支払わねばならないのだ?」

声だろうか、それとも目を抉りだせといわれるのだろうか、
覚悟はしているとはいえ、紫龍の手には緊張のために、
じっとりと汗が滲んでいた。

「では、『処女膜が破れるときに10倍痛くなる』で手を打ちましょう」

紫龍は咽た。

「げほっ、ごほっ、は……はぁ? 
なっなにいってんの? この人」

ひどく動揺した紫龍は後ずさり、
焦った拍子に足の小指を柱の角にぶつけてしまった。

「いってぇ」

そして涙目になる。


エアリスが呪文を朗詠すると
紫龍の周りに青白い光を放つ、魔法陣が出現した。

「んっ……ふぁ……」

紫龍は身体が温かな光に包まれ、

宙を漂っているかのような感覚を覚えた。

やがて身体を取り巻く光の粒子が飛散すると、
鏡の中に全裸の美少女がいた。

漆黒の髪が背中まで豊かに流れ、白磁の透き通るような肌に、
薔薇色の頬。唇は朝露に濡れたさくらんぼのように愛らしく、
濃い睫毛に縁取られた漆黒の瞳は、憂いを含んで艶めかしい。

その姿に、エアリスは息を飲んだ。

「か……完璧ですわ」

 感動にその肩が小さく震えている。

「完璧な萌え属性の美少女ができあがりました。
これでも欲情しない男は、不能とみなしてよいでしょう」

エアリスは満足げに微笑んだ。

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