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第二十五話 紫龍の決心
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◇ ◇ ◇
「ご用意は整いましたか?」
清涼の館の女官が、紫龍を迎えにやってきた。
ケビンと相談のもと、
一応紫龍はケビンの実家であるグランバニア帝国の将軍職を司る、
名門アーノルド家の姫ということになっている。
有力な後ろ盾を得たこともあり、
女官の対応も自然丁寧なものとなる。
女官に手を取られながら、
紫龍は緋色の絨毯の敷き詰められた回廊を歩む。
「あれ? こちらは……」
紫龍につき従ったエアリスは、
見慣れた光景に違和感を覚えた。
「ええ、こちらは承香の館でございます。
まずは今日宴にお招きになったご令嬢の皆さまに、
王妃様からご挨拶がございます」
王妃の謁見の間には、三十から四十人ほどの、
着飾った妙齢の子女たちが一堂に会していた。
王妃はひとつ咳払いをした。
「皆様、本日は我が息子、クラウドの皇太子就任の前祝いの宴に、
よくおいでくださいました。皆様もご存じの通り、
我が息子クラウドには正妃としては政略の手前、
大陸の西の国、アストレアより男子の正妃を迎えており、未だ、子がありませぬ。
しかし立太子としてその立場を明らかにした以上、
世継ぎを設ける事は国を護るために必須のこととなりました。
そこで皆様には、この国の未来のためにお力をお貸しいただいたのです。
クラウドの妻となり、公私に渡りクラウドを支えていただきたいのです」
王妃の言葉に、エアリスが顔を顰めた。
乙女たちは皇太子クラウドの妻のポジションを狙い、
皆舞いあがっている。
「まあ、あのお美しいクラウド様の妻になれるだなんて、
なんという光栄」
乙女はぽっと頬を染めた。
「あら、あなた……たかが子爵の身分で
大それた夢を見ていらっしゃるのね」
その横で、公爵家の娘がほほと笑った。
「婚姻は家柄だけで、選ばれるものではなくてよ?
あなたこそご自分で鏡をご覧になったことはあって?」
にこやかに笑いながら、
乙女たちが互いに毒を吐き合う。
(女って恐ぇ~)
殺気立った乙女たちを遠巻きにして、
紫龍は距離を取った。
「なあにが、公私に渡り……よ。
所詮側室なんて、単なる世継ぎを生む道具ではなくて?」
エアリスが悔し気に呟くと、紫龍は目を伏せた。
例えそこに感情がはいってなかったとしても、
紫龍が一度クラウドを愛してしまった以上、
クラウドが紫龍以外の人と契りを結べば、
紫龍は海の泡となって消えてしまうのである。
紫龍は小さく溜息を吐いた。
「大丈夫ですよ。紫龍様。
紫龍様はそんなにも愛らしくいらっしゃるのですから、
絶対にクラウド様はもう一度紫龍様を愛しますって」
エアリスは不安げな紫龍を励ますようにいった。
そうなのだ。これはもはや惚れた腫れたとか、
見合いとか、そういう生ぬるい次元の問題ではなくて、
自身の命をかけたサバイバルなのだ。
(この女装姿でクラウドを落とさねば、俺に未来はない)
紫龍は決意の満ちた瞳で、きっと前を見据えた。
「ご用意は整いましたか?」
清涼の館の女官が、紫龍を迎えにやってきた。
ケビンと相談のもと、
一応紫龍はケビンの実家であるグランバニア帝国の将軍職を司る、
名門アーノルド家の姫ということになっている。
有力な後ろ盾を得たこともあり、
女官の対応も自然丁寧なものとなる。
女官に手を取られながら、
紫龍は緋色の絨毯の敷き詰められた回廊を歩む。
「あれ? こちらは……」
紫龍につき従ったエアリスは、
見慣れた光景に違和感を覚えた。
「ええ、こちらは承香の館でございます。
まずは今日宴にお招きになったご令嬢の皆さまに、
王妃様からご挨拶がございます」
王妃の謁見の間には、三十から四十人ほどの、
着飾った妙齢の子女たちが一堂に会していた。
王妃はひとつ咳払いをした。
「皆様、本日は我が息子、クラウドの皇太子就任の前祝いの宴に、
よくおいでくださいました。皆様もご存じの通り、
我が息子クラウドには正妃としては政略の手前、
大陸の西の国、アストレアより男子の正妃を迎えており、未だ、子がありませぬ。
しかし立太子としてその立場を明らかにした以上、
世継ぎを設ける事は国を護るために必須のこととなりました。
そこで皆様には、この国の未来のためにお力をお貸しいただいたのです。
クラウドの妻となり、公私に渡りクラウドを支えていただきたいのです」
王妃の言葉に、エアリスが顔を顰めた。
乙女たちは皇太子クラウドの妻のポジションを狙い、
皆舞いあがっている。
「まあ、あのお美しいクラウド様の妻になれるだなんて、
なんという光栄」
乙女はぽっと頬を染めた。
「あら、あなた……たかが子爵の身分で
大それた夢を見ていらっしゃるのね」
その横で、公爵家の娘がほほと笑った。
「婚姻は家柄だけで、選ばれるものではなくてよ?
あなたこそご自分で鏡をご覧になったことはあって?」
にこやかに笑いながら、
乙女たちが互いに毒を吐き合う。
(女って恐ぇ~)
殺気立った乙女たちを遠巻きにして、
紫龍は距離を取った。
「なあにが、公私に渡り……よ。
所詮側室なんて、単なる世継ぎを生む道具ではなくて?」
エアリスが悔し気に呟くと、紫龍は目を伏せた。
例えそこに感情がはいってなかったとしても、
紫龍が一度クラウドを愛してしまった以上、
クラウドが紫龍以外の人と契りを結べば、
紫龍は海の泡となって消えてしまうのである。
紫龍は小さく溜息を吐いた。
「大丈夫ですよ。紫龍様。
紫龍様はそんなにも愛らしくいらっしゃるのですから、
絶対にクラウド様はもう一度紫龍様を愛しますって」
エアリスは不安げな紫龍を励ますようにいった。
そうなのだ。これはもはや惚れた腫れたとか、
見合いとか、そういう生ぬるい次元の問題ではなくて、
自身の命をかけたサバイバルなのだ。
(この女装姿でクラウドを落とさねば、俺に未来はない)
紫龍は決意の満ちた瞳で、きっと前を見据えた。
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