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13.きれいなお姉さんは好きですか?
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入学式のリハーサルと簡単な打ち合わせを終えて、
ユウラは再び先ほどのエントランスに戻ってきた。
「あー、緊張する」
ユウラは今日の入学式の総代である。
新入生代表として、挨拶をしなければならない。
「うん、よしっ! この日のために何度も練習をしたし、
抜かりはないはずっ!」
ユウラは自身に気合を入れるが、
やっぱり緊張は拭えない。
ユウラの脳裏にふと、ウォルフが過った。
(ウォルフ……どこ行っちゃったんだろう?)
ユウラはしょんぼりと肩を落とした。
(遠目からでも、その姿を見たかったのにな)
不安げに眉根を寄せる。
そしてふと上げた視線の先の、
ステンドグラスに釘付けになる。
ちょうど日が差して、ガラスが輝き、
色とりどりのプリズムが、壁に、床に、反射している。
「きれい……」
ユウラが思わず呟くと、
そこに大理石を踏みしめる、ヒールの音が響いた。
光のプリズムの中を、一人の美女が歩いてくる。
美女は栗色のやわらかな髪の色を肩のあたりでゆるくカールさせ、
ベージュのシフォンドレスを身に纏っている。
(なんて……美しい人……)
その美しさに、ユウラは息を呑んだ。
(ただ美しいだけじゃない……。
なんだろう、この圧倒的な存在感と、
何人にも犯しがたい神聖な空気は……)
ユウラはこの美女を前に、
身動ぎひとつすることができない。
「あら、あなた、どうかなさって?」
そう言って美女は、優雅にユウラに微笑みかけた。
「あっ……あのっ」
ユウラはやたらと顔が火照って、
うまく言葉を発することができない。
「あなたは新入生ね、赤服を着ているということは
総代なのかしら?」
ユウラは赤面し、コクリと頷いた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」
美女はそう言ってユウラの手を取った。
その瞬間、
ユウラの身体に電流のようなものが走った。
身体が震える。
自分でもおかしいほどに身体が震えている。
「可哀そうに。震えてるのね、あなた。
いいわ。いらっしゃい」
美女はユウラをその胸に抱きしめた。
「ふぇぇっ?」
ユウラがその胸の中で、半泣きになりながら、
情けない声を上げた。
その声を聞いて、美女がクスクスを笑いを忍ばせる。
「あなた、可愛い人ね。
これはおまじないよ。
緊張を解くおまじないなの。
大丈夫、あなたならきっと
総代の挨拶も上手くできるわ」
そう言って美女が小さい子をあやすように、
ポンポンとユウラの背を叩いた。
(ひぃぃぃぃっ! もったいのうございますぅぅぅ!
私なんぞの為にぃぃぃ!)
ユウラはただ、美女の胸の中で青ざめてフリーズするのみである。
◇◇◇
王立のトップアカデミーということもあり、
今日の入学式には、レッドロラインの王族も何人か参列している。
代表格としてはレッドロラインの王太子、エドガー・レッドロラインと、
その姉、第一皇女オリビア・レッドロラインだ。
二人は二階席に設けられた特別な貴賓席に、
それぞれのお付きの者とともに着座している。
エドガーは国王の第二妃、カルシアの息子で16歳だ。
対してオリビアは正妃シャルロットを母に持つ18歳だ。
身分的にはシャルロット王妃のほうが上なのだが、男児に恵まれず鬼籍に入ったため、
やむなく第二王妃カルシアの息子、エドガーが王太子の地位に就いたのだ。
エドガーは容姿こそは恵まれた美男子であるが、その頭は軽い。
整えられた眉、すっと通った鼻筋、薄い唇。
明るい硬質の金色の髪をワックスで立たせ、
光沢のある銀のジャケットを身に纏い、
高慢さと軽薄さが入り混じった微笑みを浮かべている。
対してオリビアは、その政治的手腕、
外交には誰もが一目置くという切れ者である。
オリビアは、特別に設えた几帳の後ろにいるので、その姿は見えない。
二人がこの場所にいる理由、
それは表向きには王立のアカデミーの
入学式のセレモニーの貴賓ということなのだが、
その真の理由は『自身の騎士』を選ぶためなのである。
王族はそれぞれに専属騎士を有する。
自身を命を懸けて守る存在である騎士に、
より優秀な騎士を持つことは、王族にとってのステータスなのである。
「今年の総代は女の子か」
エドガーが呟いた。
「あの赤髪の子、ユウラ・エルドレッドと言ったか。
悪くないんじゃないのか?」
そういって、エドガーが隣に控える執事に耳打ちした。
執事がその眉根を寄せた。
「エドガー様、彼女ユウラ・エルドレッドはその……すでに国王陛下公認のもと、
婚約者がおりまして」
エドガーの執事、ハルバートンは言いにくそうに口ごもった。
エドガーは好色だ。
身分と容姿にものを言わせ、幼女から人妻までそのテリトリーは無限大だ。
「婚約者、ねぇ。別に、いいんじゃないか?
私は気にしないが? というかむしろNTR的な展開に萌える」
エドガーの言葉にハルバートンが、苦い顔をする。
エドガーは物事を深く考えない。
王太子であるがために自分は何をしても許されるという自負がある。
ユウラ・エルドレッドは将軍家の娘であり、宰相家であるアルフォード家の跡取りの婚約者だ。
しかもその婚約は国王の肝煎りで行われたものである。
その代償について、ハルバートンは頭を悩ませるが、
エドガーはそんなハルバートンの忠告など気にも留める様子がない。
「決めた! あの娘を私の専属騎士とする」
エドガーは意気揚々と席を立った。
ユウラは再び先ほどのエントランスに戻ってきた。
「あー、緊張する」
ユウラは今日の入学式の総代である。
新入生代表として、挨拶をしなければならない。
「うん、よしっ! この日のために何度も練習をしたし、
抜かりはないはずっ!」
ユウラは自身に気合を入れるが、
やっぱり緊張は拭えない。
ユウラの脳裏にふと、ウォルフが過った。
(ウォルフ……どこ行っちゃったんだろう?)
ユウラはしょんぼりと肩を落とした。
(遠目からでも、その姿を見たかったのにな)
不安げに眉根を寄せる。
そしてふと上げた視線の先の、
ステンドグラスに釘付けになる。
ちょうど日が差して、ガラスが輝き、
色とりどりのプリズムが、壁に、床に、反射している。
「きれい……」
ユウラが思わず呟くと、
そこに大理石を踏みしめる、ヒールの音が響いた。
光のプリズムの中を、一人の美女が歩いてくる。
美女は栗色のやわらかな髪の色を肩のあたりでゆるくカールさせ、
ベージュのシフォンドレスを身に纏っている。
(なんて……美しい人……)
その美しさに、ユウラは息を呑んだ。
(ただ美しいだけじゃない……。
なんだろう、この圧倒的な存在感と、
何人にも犯しがたい神聖な空気は……)
ユウラはこの美女を前に、
身動ぎひとつすることができない。
「あら、あなた、どうかなさって?」
そう言って美女は、優雅にユウラに微笑みかけた。
「あっ……あのっ」
ユウラはやたらと顔が火照って、
うまく言葉を発することができない。
「あなたは新入生ね、赤服を着ているということは
総代なのかしら?」
ユウラは赤面し、コクリと頷いた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」
美女はそう言ってユウラの手を取った。
その瞬間、
ユウラの身体に電流のようなものが走った。
身体が震える。
自分でもおかしいほどに身体が震えている。
「可哀そうに。震えてるのね、あなた。
いいわ。いらっしゃい」
美女はユウラをその胸に抱きしめた。
「ふぇぇっ?」
ユウラがその胸の中で、半泣きになりながら、
情けない声を上げた。
その声を聞いて、美女がクスクスを笑いを忍ばせる。
「あなた、可愛い人ね。
これはおまじないよ。
緊張を解くおまじないなの。
大丈夫、あなたならきっと
総代の挨拶も上手くできるわ」
そう言って美女が小さい子をあやすように、
ポンポンとユウラの背を叩いた。
(ひぃぃぃぃっ! もったいのうございますぅぅぅ!
私なんぞの為にぃぃぃ!)
ユウラはただ、美女の胸の中で青ざめてフリーズするのみである。
◇◇◇
王立のトップアカデミーということもあり、
今日の入学式には、レッドロラインの王族も何人か参列している。
代表格としてはレッドロラインの王太子、エドガー・レッドロラインと、
その姉、第一皇女オリビア・レッドロラインだ。
二人は二階席に設けられた特別な貴賓席に、
それぞれのお付きの者とともに着座している。
エドガーは国王の第二妃、カルシアの息子で16歳だ。
対してオリビアは正妃シャルロットを母に持つ18歳だ。
身分的にはシャルロット王妃のほうが上なのだが、男児に恵まれず鬼籍に入ったため、
やむなく第二王妃カルシアの息子、エドガーが王太子の地位に就いたのだ。
エドガーは容姿こそは恵まれた美男子であるが、その頭は軽い。
整えられた眉、すっと通った鼻筋、薄い唇。
明るい硬質の金色の髪をワックスで立たせ、
光沢のある銀のジャケットを身に纏い、
高慢さと軽薄さが入り混じった微笑みを浮かべている。
対してオリビアは、その政治的手腕、
外交には誰もが一目置くという切れ者である。
オリビアは、特別に設えた几帳の後ろにいるので、その姿は見えない。
二人がこの場所にいる理由、
それは表向きには王立のアカデミーの
入学式のセレモニーの貴賓ということなのだが、
その真の理由は『自身の騎士』を選ぶためなのである。
王族はそれぞれに専属騎士を有する。
自身を命を懸けて守る存在である騎士に、
より優秀な騎士を持つことは、王族にとってのステータスなのである。
「今年の総代は女の子か」
エドガーが呟いた。
「あの赤髪の子、ユウラ・エルドレッドと言ったか。
悪くないんじゃないのか?」
そういって、エドガーが隣に控える執事に耳打ちした。
執事がその眉根を寄せた。
「エドガー様、彼女ユウラ・エルドレッドはその……すでに国王陛下公認のもと、
婚約者がおりまして」
エドガーの執事、ハルバートンは言いにくそうに口ごもった。
エドガーは好色だ。
身分と容姿にものを言わせ、幼女から人妻までそのテリトリーは無限大だ。
「婚約者、ねぇ。別に、いいんじゃないか?
私は気にしないが? というかむしろNTR的な展開に萌える」
エドガーの言葉にハルバートンが、苦い顔をする。
エドガーは物事を深く考えない。
王太子であるがために自分は何をしても許されるという自負がある。
ユウラ・エルドレッドは将軍家の娘であり、宰相家であるアルフォード家の跡取りの婚約者だ。
しかもその婚約は国王の肝煎りで行われたものである。
その代償について、ハルバートンは頭を悩ませるが、
エドガーはそんなハルバートンの忠告など気にも留める様子がない。
「決めた! あの娘を私の専属騎士とする」
エドガーは意気揚々と席を立った。
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