じゃじゃ馬婚約者の教育方針について悩んでいます。

萌菜加あん

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17.男は黙ってショートケーキ!定番がいいの。

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「はあ、君のおかげでひどくプライドが傷ついてしまった。
 私はこの国の王太子だ。
 私を傷つけること、
 それはすなわちレッドロライン王家の威信を
 傷つけることと同様の意味を持つんじゃないのか?」

エドガーが畳み掛ける。
ユウラは悔し気に唇を噛みしめた。

背後で赤服の乙女たちの瞳孔が開き、
そこはかとない殺気が漂う。

(ち……違う! 私のバカっ!
 私が言いたいのはそうではなくて……)

エドガー・レッドロラインは内心頭を抱え込みたい衝動に駆られる。

「ああ、エドガー様、こちらにおられましたか」

そのときルーク・レイランドが何食わぬ顔で近づいてきた。

「エドガー様、あの……チャック開いてますよ?」

ルークが小声でエドガーに囁いて寄越す。

「〇×△っ!!!」

エドガーが声にならない悲鳴を上げる。
狼狽えたエドガーが、うっかりと挟んでしまったようだ。

そんなエドガーに赤服の乙女たちが、
クスクスと笑いを忍ばせる。

エドガーは羞恥に顔を赤らめ、
泣き出さんばかりになっている。

「そっ、それで貴様はこの私に一体何の用だ!」

上ずった声をあげる。

「カルシア様のご伝言で、
 至急王宮に戻られるようにとのことです」

ルークがにっこりと、エドガーに微笑んだ。

這う這うの体でその場を立ち去ったエドガーを見送って、
ルークがユウラに向き直った。

「大丈夫? ユウラ・エルドレッドさん」

鳶色の髪に、同じ色の瞳。
美少年のような容姿に、白の隊長服。

「あなたは入学式の日にお会いした……」

ユウラの記憶が繋がった。

「ルーク・レイランドと申します。
 以後お見知りおきを」

ルークがおどけて見せる。

その名前にユウラが戦慄を覚える。

「ルーク・レイランド……。
 レッドロラインの鬼神……」

ユウラの唇が、その通り名を呟いた。
ルークは苦笑する。

「そんな大層なものではないよ。
 ただのシェバリエ乗りだ」

ルークはそういって、
中庭に鎮座するシェバリエに目をやった。

レッドロラインの有する莫大な宇宙資源を巡って、
近隣諸国との小競り合いは絶えない。

2年前にも、小国の連合がレッドロラインに攻めてきた際、
初陣であったにもかかわらずルーク・レイランドは
エースパイロットとして、華々しい戦功をあげた。

その強さゆえに人々は口々にルークのことを『鬼神』と呼ぶ。

「このアカデミーに入学したということは、
 君もシェバリエ乗りになりたいの?」

ルークがその鳶色の瞳にユウラを映す。

「ええ、なりたいです。
 シェバリエを乗りこなし、この国を守りたい」

ユウラが憧れを込めた眼差しで、
ルークを真っすぐに見据えた。

「いい目をしているよね、君。
 真っすぐで、淀みがなくて、潔い」

ルークはふと、遠目に去っていくエドガーを見やり、
少し目を細めた。

「しかし、それゆえに少し危なっかしいね。
 国を守ることも大事だけど、
 ちゃんと自分の命も大切にしなよ?」

そう言ってルークはひらひらと手を振って、背を向けた。

そんなルークの背中をきつい眼差しで見つめたのは、
ユウラではなくエマだった。

エマはそっと軍服の上着の上から、
首にかけたロザリオに触れる。

「エマさん?」

ユウラが気遣うようにエマを窺うと、

「ごめんなさい。なんでもないの」

エマが曖昧に笑った。

◇◇◇

「それでね、リズったら、
 もう上級生のお兄様からロザリオを授かったのですって」

カフェでパフェを軽く平らげながら、ダイアナが口火を切った。

そういえば、アカデミーの正門前やら、エントランスやらで、
やたらと上級生が下級生を呼び止めていたな、とユウラは記憶を辿る。

「ロザリオを授かるっていうことは、
 つまりその方から指導をして貰うってことよね」
 
エマが少し考え込むように、コーヒーを口に運ぶ。

「指導って、もう、エマちゃんたら、
 そんな色気のな言い方をして~」

ナターシャが、軽く眉根を寄せる。

「クリスマスやバレンタインデーと同じで、
 アカデミーに伝わる恋人たちのロマンチックな
 祭典でしょ~?」

むーっと口を尖らせる。

「ナターシャ、
 今すぐキリシタンの皆さんに土下座して詫びなさい」

エマが半眼になる。

「ふぇぇん」

ナターシャが情けない声を上げると、

「まあまあ」

ユウラが二人の間に割って入る。

「っていうことはよ? 
 その方が自分より優れた方でなければいけないってことよね」

エマが考え込むように、片方の手で頬杖をついた。

「エマさんより、実力が上の男かぁ……」

乙女たちが考え込む。
そして無言になる。

「そんな人、この世に存在する?」

ダイアナが目を瞬かせた。

刹那、カフェの自動ドアが開き、
白の隊長服を身に纏った二人の男が入ってきた。

「でね、ここのザッハトルテが
 乙なんだよ。君に分かる? 
 ザッハトルテの奥の深さがさ、
 そりゃあ、もうマリアナ海溝より深いんだよ?
 ねえ、ウォルフ?」

「分かるわけねぇだろ? ザッハトルテは深海魚かよ?
 んなもんよりな、男は黙ってショートケーキだろうがっ!
 イチゴの乗ったショートケーキ! 定番がいいのっ!」

その姿を一瞥したユウラが、
口に含んだ紅茶を一瞬噴き出しそうになる。

ウォルフ・フォン・アルフォードと、
ルーク・レイランドである。

「あっ、ユウラ」

ウォルフが目を瞬かせた。

当然の成り行きといったごとくに、テーブルをつなげて
ウォルフとルークを交えての茶会は続く。







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