じゃじゃ馬婚約者の教育方針について悩んでいます。

萌菜加あん

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32.鬼神1

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「お前の顔を見て、一気に緊張が失せたよ。
 ありがとう、エルライド」

そう言って、ルークはすれ違いざまに、
エルライドの肩にポンと手を置いた。

「オペレーターは非常用通信回路を開いて、
 Black Princessにつないで」

ルークがオペレーターに指示を飛ばす。

◇◇◇

「……っていう作戦なんだけどさ、
 もちろんできるよね?」

モニターの向こうで、
ルーク・レイランドがにっこりと笑う。

まったく悪びれることもなく、
ごく当然のことのように言う。

さすがのオリビア皇女が、暫しの沈黙の後で、
軽く涙目になる。

「ちょっ……おまっ……それはねぇだろ!
 相変わらず、エッグいな……」

毎度のことながら、ルークの立案する作戦は、
こちらのぎりぎりのことを要求する。

それゆえに相手の思考の裏をかき、
その成功率は脅威数字を叩きだすのだが。

「できなくはないでしょう?
 っていうか、君の実力を信じていなければ、
 逆立ちしてもやらせないけどね」

しれっと言ってのける。

そんなルークにオリビアは小さくため息を吐いて、
真っすぐに向き合う。

「分かった、引き受けてやるよ。
 ただ、お前も決して無理をするな。
 ヤバイと思ったらすぐに逃げろ。
 後のことはなんとでもなる」

自分もまたこの右腕と頼む、
生来の軍師に抗う気は毛頭ない。

そこに絶対の信頼を置いている。

そうでなければ、自身の背中を預けることなどは、
できないであろう。

「わかってるよね? 
 あんまりあからさまにやってもダメなんだよ?
 あくまで、ナチュラルに、スマートに、だよ」

その滅茶苦茶な作戦に、念を押されると、
多少イラっとしないこともない。

「ああ、はい、はい、わかりましたぁ~!
 じゃあな」

通信を切ろうとしたオリビアが、
一瞬躊躇い、言葉を紡ぐ。

「死ぬなよ、親友」

モニターの向こうで、
ルークが目を瞬かせた。

◇◇◇

開戦から2時間。
オリビアを護るレッドロラインの船団に疲れが見え始めた。

徐々に陣形が崩れ始め、時折、戦艦『Black Princess』が、
船団の前に出てきては、砲撃を繰り返す。

アーザス国一番艦『カイザー』のブリッジで、
フレイア・アーザスはその光景にほくそ笑む。

「天下のレッドロラインも大したことないわね、
 開戦からたった2時間で、このザマよ?」

フレイアの言葉に、
アーザス国総司令官のハワード・タイラーが目を細めた。

「これはチャンスではなくて?
 今こそ全兵力をもって、
 敵国の主力艦『Black Princess』を叩くときでは?」

フレイアの言葉に、ハワードは沈黙を守る。

「なんとか、おっしゃいなさいよ。
 このポンコツ総司令官」

侮蔑の言葉に、ハワードは
その厳めしい眉を微かに顰めた。

「レッドロラインは銀河の覇者でございます。
 そう易々と堕ちは致しません。
 素人のお嬢さんは黙っておられよ」

ハワードの言葉に、フレイアは頬を朱に染める。

フレイアは立ち上がり、
つかつかとハワードの前に歩み寄ると、
きつくその頬を打った。

ブリッジに乾いた音が鳴り響いた。

クルー一同が息を飲む。

「わたくしはアーザス国の第一皇女です。
 あなたは王族たる、
 このわたくしを侮辱なさるおつもり?」

フレイアの言葉に、ハワードは口を噤む。

「あなたを王族不敬罪で起訴するわ。
 誰かこの者を艦長室に監禁なさいっ!」

フレイアの近習が、ハワードを連行した。

「以後はこのわたくしが、ハワード総司令官に代わり、
 アーザス軍の総指揮を執ります。
 よろしくね」

そう言って、フレイアは艶に微笑んで見せる。

◇◇◇

アーザス・リアンの連合が陣形を変えた。

戦艦『Black Princess』に照準を定め、
全軍を中央に集結させている。

モニターを食い入るように見つめているルーク・レイランドが、
思わず拳を握りしめた。

「かかったね、奴さん」

そう一人ごちると、モニター越しに
ハルマの怒鳴り声が響いてきた。

「バッカモーーーーン!!!」

ハルマが烈火のごとくに怒っている。

「いくら作戦とはいえ、
 どこの世界に総大将を餌に使う奴がいる!」

キーンという甲高い音が、
ルークの耳の中に鳴り響いている。

「まあまあ、結果オーライじゃん?
 怒らないでよ、父上~」

ルークがモニターの前で手を重ねて、
ハルマに媚びる。

「それよりも父上も急いで。
 敵さんが全兵力を投入して生きた今、
 『Black Princess』でも長くはもたないよ。
 密かに配置させた伏兵とともに、早く包囲網を!」

ルークの緊迫した面持ちに、
ハルマも頷いて、通信を切った。

◇◇◇

「これは……何?」

モニターを見つめるフレイア・アーザスが、顔色を失った。

中央突破に全戦力を投入したアーザス・リアンの連合の周りを、
円を描くように、いつの間にかレッドロライン軍に包囲されている。

「こんな状況で集中砲火を浴びたら、
 ひとたまりもないわ」

フレイアの身体が恐怖に震える。

◇◇◇

「勝負あったな」

仮面の女騎士が、
無機質な声色で言葉を紡いだ。

アーザス・リアンの連合の全軍に下された、
中央への戦力集中を、『調整』を理由に離脱した艦がある。

その艦は補給部隊にまぎれて、
アーザス国の宇宙港へと向かう。

「ルーク……レイランド……か」

その名を紡ぐ、仮面の女騎士の声に、
切なさが滲む。



























 



 



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