じゃじゃ馬婚約者の教育方針について悩んでいます。

萌菜加あん

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53.孤高の戦場

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「L4宙域手前のデブリ帯に、熱源感知!」

オペレーターの緊迫した声色が、
戦艦『Black Princess』に響き渡った。

(ほうら、おいでなすった)

「ライブラリー照合、
 アーザス・リアンの連合の船団です」

船団という言葉にオリビアが目を細めた。

「それで、その数は?」

オリビアの問いに、オペレーターが答えない。
ただひどく取り乱している。

「その数、正確には把握できません。
 おそらく……師団クラスかと」

その言葉に心の中でオリビアが白目を剥く。

(聞いてねぇよ!)

師団といえば、国によって差異はあるものの、
この国ではざっくり二万五千人くらいの兵力だ。

(25000対1って、どんなムリゲー???)

オリビアが心の中で幻の血の涙を流す。

「こりゃあ無理だ。投降するわ。
 だから砲撃は一切するな」

そう言ってオリビアが艦長席を立ちあがると、
ブリッジが騒めいた。

「俺を拘束するか? 別に構わねぇけど。
 つうかお前らすで敵側と話できてんだろ?
 だったらその段取りに従ってくれたらいいし」

オリビアの言葉に士官たちは気まずそうに口を噤む。

「俺は逃げも隠れもしねぇよ、ほら」

そういってオリビアが両手を広げて見せた。

「まあ、そもそもこの状況では、
 逆立ちしても逃げられるわけがないんだけどな」

そう言ってオリビアが手を頭の後ろで組んで見せた。

刹那、戦艦『Black Princess』が砲撃を受けて、
大きく揺らめいた。

「おっと、敵方によっぽど気の短い奴がいるらしい。
 これはグズグズしてらんねぇな。
 戦艦が鎮められる前に、とっとと行くわ。
 それで、敵の大将は?
 俺はどの戦艦のもとに行けばいいんだ?」

オリビアがそう問うと、副艦長を務める男が口を開いた。

「皇女殿下が随分と物わかりの良い方で助かりました。
 殿下はこれより、アーザス国一番艦『イカロス』に下っていただきますように」

そう言って、副艦長はオリビアに跪いた。

「分かりましたわ。わたくしはこれより、
 レッドロライン国の皇女として最後の勤めを成します。
 少しだけ時間をいただけないかしら?
 メイクを直したいの」

そう言ってオリビアは口調を変えて、
しおらしく、女性らしくしなをつくって見せると、

兵卒たちが秋波を送る。

控室に退がり、オリビアは
ウォルフに戻る。

部屋の前に立つ見張りを、
鉄拳で沈めると、シェバリエの格納庫に走る。

シェバリエ、シェバリエ、大仏、シェバリエ……の順に並んでいる。

「っていうか、なんで大仏?」

ウォルフはその光景にがっくりと項垂れた。

大仏の足元でキーケースに忍ばせたリモコンのスイッチを押すと、
ロープが下りてきた。

それに足をかけて、ウォルフは自身の愛機に乗り込む。

「なんじゃこりゃ???」

ウォルフの目が点になる。

そして出国前に、自身のシェバリエについて尋ねた時に、
ルークが何やらうにゃうにゃ言っていたことを思い出した。

『あの……えっと……使えそうっていうかね。
 スペックはそりゃあ、
 とても素敵なことになってるんだけどさ。
 あれを実戦で使うとしたら、国際法上どうなんだろうっていう、
 懸念がね』

ルークの言葉に

『うん……国際法はこの際もういいよ。
 多分誰も守ってないだろうし』

なんてことを、特に別段何も考えずに、
言ってしまったことは認めよう。

「しかし……これは……」

ウォルフは言葉を飲み込んだ。

自分が思うよりもはるかにヤバイ代物に仕上がっている。

そもそもこの機体の起動動力に、
超小型とはいえ、核が使用されているのがヤバイ。

この時点で国際法は完全にアウトだ。

オリビアが逃走したことを知ったレッドロライン兵が、
シェバリエの格納庫に雪崩れ込んでくる。

「四の五の言ってる場合でもないか」

ウォルフは愛機の起動画面を立ち上げる。

「うぉっ! 今大仏の目が赤く光らなかかったか?」

兵卒の表情が恐怖に慄いている。

「ええ? 大仏が立った……だと???」

既に兵卒たちは恐怖に戦意を喪失してしまっている。
その場にへたり込み、震えているばかりだ。

それを横目に、
ウォルフは悠々と愛機を歩かせて、ハッチに向かう。

慣れた手つきでロックを解除をすると、深淵の宇宙そらへと飛び立った。

シェバリエ『ラルクアンシェル』は本来、
並ぶもののないシェバリエの最高峰である。

しかし今はその美しい機体を、
摩訶不思議な大仏の張りボテの中に隠して、

孤高の戦場に降り立つ。

◇◇◇

「なんか……大仏がいますっ!」

オペレーターの報告に、
仮面の女騎士が口に含んだロイヤルミルクティーを、
思わず吹きそうになって、咽た。

「なにゆえ、大仏?」

月の女神ティナの仮面でその顔を覆っているので、
その表情を伺い知ることはできないが、
どうやらめずらしいことに、ひどく動揺しているらしかった。

アーザス、リアンの連合軍の後方に、隠れるようにして、
レッドロラインの王族専用船『クレア』が停泊
している。

『クレア』はレッドロライン第二王妃カルシアの船だ。

「しかもこの大仏、めちゃくちゃ強いです。
 なんかもう無双してますっ! え? ええ?」

オペレーターが驚愕の声を上げると、
モニターに映し出される味方陣営の布陣図に、
赤字で記された『Lost』の文字が夥しく表示された。
 
「さ……左舷前方部隊……全滅ですっ!」

オペレーターの報告に、カルシアが顔色を変えた。

「この船を見られるわけにはいきません。
 セレーネ・ウォーリア! わかっていますね。
 あなたが囮となって、あの敵機を引きつけなさい」

「御意……」

セレーネはカルシアの前に跪いた。
身に纏うのはカルシアの親衛隊である群青の騎士服だ。





























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