じゃじゃ馬婚約者の教育方針について悩んでいます。

萌菜加あん

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66.ユリアス家の夜会

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オリビアがL4宙域に戻って一週間が過ぎた。

アカデミーは現在、例のテロリストの調査や、
戦闘による損傷の修繕のために休校となっている。

ユウラはアルフォード家に戻り、
マリアンヌの家事を手伝う日々を送る。

「お母さま、スープのお皿はこちらでよろしくて?」

手際よく朝食の準備を整えていく。

「ええ、ありがとう。ユウラ」

ウォルフのいない朝食は、マリアンヌのプライベートキッチンで、
簡単に済ませるのが恒例となっている。

テーブルには、
マリアンヌ手製の優しい野菜スープと、
パンとサラダと果物が並ぶ。

並行してキッチンの片隅で、
アルフォード家の現当主であるウィリアムが、
コーヒーを淹れている。

くゆる湯気とともに、ブルマンのいい香りが部屋に広がってゆく。

「コーヒーが入ったぞ」

そういってウィリアムがコーヒーをテーブルに運んできた。

何気なくつけていたテレビから、
現在のレッドロラインの戦況が報じられた。

「現在、レッドロラインの西方に位置する軍事要塞Shemセムが、
 アーザス国、リアン国の連合軍により、激しく攻撃されている模様」

食器を運ぶユウラの手が震えた。

軍事要塞Shemセムの総指揮は、
ユウラの父、ハルマ・エルドレッドが執る。

L4宙域にオリビアが戻るや否や、体制を立て直したアーザス・リアン国の連合が、
再びレッドロラインに牙を剥いたのである。

折しも時は、レッドロライン国内で起きたテロ行為と同じタイミングで、
本来ならば総帥として戦闘指揮を執る立場にあるオリビアもL4宙域におり、
今は動きが取れない。

そんな状況下で、ユウラの父、ハルマ・エルドレッドは
孤軍奮闘を余儀なくされているのだ。

「ユウラ、テレビを消して音楽でも聴きましょう」

マリアンヌがユウラに気遣い、
テレビを消した。

スピーカからはサティのジュトゥブが流れてきた。

そこに屋敷の執事が郵便物を持って来た。

「お食事中失礼します。
 ウィリアム様にこちらの郵便が届きました」

執事は銀の蝋封の押された封書と、
ペーパーナイフをウィリアムに手渡した。

「ユリアス家からの夜会の招待状か」

ウィリアムの言葉にマリアンヌがユウラに視線を向けた。

「あなた、ユウラをお連れくださいな。 
 アルフォード家の嫁として、
 社交の世界も知っておかなければいけませんわ。
 それに最近は心の塞ぐようなニュースばかりで気が滅入りそうですから、
 ユウラにとってもいい気晴らしになりましょう」

ウィリアムはペンを取ってその場で出席の返事をしたためた。

◇◇◇

ユリアス家の中庭には多くのキャンドルが灯されて、
幻想的な雰囲気を醸し出している。

キャンドルホルダーが吊るされた薔薇のアーチをくぐると、
ピアノの奏でる旋律が聞こえてくる。

サロンに続くユリアス家自慢の温室の窓が開け放たれ、

ピアニストによって奏でられているのは、
フランツ・リストの『エステ荘の噴水』という曲だ。

すでに招待客たちは、飲み物を片手に談笑している。

ユウラをエスコートするウィリアムは、
旧知の友人を見つけたらしく、
そちらに行ってしまった。

ユウラをみつけた、
アカデミーの友人たちがユウラを取り囲んだ。

「まあ、ユウラさん。あなたお元気だった?
 ユウラさんたら、アカデミーで起こったあの戦闘の最中に
 いなくなってしまうのだもの。
 とても心配していたのよ? 私たち」

ダイアナ・ウェスレーが、
眉根を寄せて心配そうな眼差しをユウラに向けた。

「そうよ~、あれだけの激しい戦闘だったにも関わらず、
 シェルターにも行かずに一体どこにいたのよ~」

そう言って、ナターシャがユウラの手を取る。

「あ……あの……えっと……」

ユウラの視線が気まずそうに泳ぐ。

「忘れ物をしてしまって……。
 それを取りに行ったんだけど、
 シェバリエの戦闘の爆風に煽られて、そのまま気を失ってしまったのよ」

お恥ずかしいと、ユウラが頬を赤らめる。

そこに今夜のホスト役である、エマ・ユリアスが近づいてきた。

「ごきげんよう、ご同輩」

ロイヤルブルーの透け感のある生地に、赤やピンクの小花の刺繍が施された
パーティードレスを身に纏っている。

「まあ、今夜のエマ様は特別に素敵ね」

ユウラが話題を変えるために、エマを褒めた。

「そんなことよりユウラさんあなた用心なさって、
 エドガー様が先ほどより、あなたのことを
 ねちっこく見つめておられるわ」

エマの言葉にユウラが視線を上げると、
その先にいるエドガーと目が合った。

「エドガー様も来られていたのね」

ユウラがそういうと、エマが大きく溜息を吐いた。

「来られたも何も、今夜の夜会は
 わたくしとエドガー様の見合いのために設けられた宴なんですってよ」

エマが心底うんざりとした表情をした。

「わたくしはわたくしより弱い男に嫁ぐのは、
 まっぴらごめんですわ」

そう言って肩をそびやかした。
 
「ねえ、ナターシャ、これ、持ってて下さらない?」

そういってエマは自身が愛用する、鞘に収まった剣をナターシャ・ラヴィエスに渡した。

「剣? どうするのよ、こんなもの」

ナターシャが眉根を寄せた。

「もともとエドガー様と結婚なんてするつもりないもの。
 父があくまでこの結婚を強要するというのなら、
 わたくしがこの席をぶっ潰すまで。
 余興で剣の一本勝負を挑んで、エドガー様を叩きのめしてやるんだから」

エマ・ユリアスがにっこりと笑った。

 
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