じゃじゃ馬婚約者の教育方針について悩んでいます。

萌菜加あん

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73.立体映像2

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「会いたい……か」

ユウラがそう呟いて一瞬垣間見せた表情に、ウォルフの心臓が跳ねる。

「おっ……お前は……俺にっ……会いたくないのかよ」

ウォルフが赤面し、どぎまぎとした感情を隠すためにそっぽを向いた。
そんなウォルフに、ユウラは苦笑する。

「悔しいから教えてあげない」

そういってユウラは鼻の頭に皺を寄せた。

「なんだよ、それはっ!」

ウォルフが唇を尖らせる。

「だって……死ぬほど言いたい言葉を必死に我慢してたのに、
 ウォルフがなんでもないことのように、さらっと言っちゃうんだもん」

ユウラが拗ねたようにそう言うと、
ウォルフが目を瞬かせた。

「なんで我慢すんの?」

そう言ってきょとんとした表情をする。

「だって、ウォルフは今戦場にいて、私がそんなこと言っちゃうと、
 困っちゃうでしょう?」

ユウラがウォルフの顔を伺った。

「いや? 全然。むしろやる気を出して、秒で要件終わらせてお前の
 元に帰るし」

ウォルフはそれが宇宙の法則とでも言いたげな表情で、ユウラを見つめる。

「だから言ってみ、
 お前が俺に死ぬほど言いたかった言葉ってやつを」

そういってウォルフはユウラを煽る。

「いや……もうなんていうか……
 タイミング逃したっていうか……いいよ別にっ」

ユウラがもぞもぞとそう言って、ばつが悪そうに横を向いた。

「よかねぇだろ! 俺がどんだけその言葉を聞きたいと思っているのか、
 お前、分かってねぇだろ」

ウォルフの眉間に皺が寄る。
伺うようにユウラを見つめると、

「今俺は戦場にいて、
 明日にはこの命を落としてしまうかもしんねぇのになぁ。
 冷たい婚約者だなぁ」

大仰に芝居がかった様子でそう言う。

「わ……わかったわよ。言います。
 言えばいいんでしょう」

ユウラの声が上ずり、ひどく赤面する。

「come on! ユウラ」

ウォルフが決め顔をして、ユウラを促した。

「あなたに会いたくて、死にそうになってましたっ!」

赤面し、半ば怒鳴るようにそう言ったユウラに、ウォルフが撃沈する。

「あ~やべっ! 俺、今すっげぇ幸せかもしんねぇ」

天井を見上げて、ウォルフがひどく幸せそうな顔をする。

「う~……。人の気も知らないで……」

ユウラが恨みがましい視線をウォルフに向けた。

「知ってるも知らないも、お前、この俺がどんだけお前に会いたいか、
 お前こそわかってる?
 お前の一言で、天にも昇るような幸せな気持ちになったり、
 お前の笑顔一つで、疲れがふっとんじまったり、
 俺にとってお前はそんなかけがえのない存在なんだよ。
 そんなお前に『会いたい』とか言われたら、嬉しくないわけねぇだろ。
 地獄の果てにいても飛んでいくわ」

ウォルフがそう言うとユウラの頬に涙が伝った。

「え? そこ泣くとこか?」

ウォルフが軽くパニックを起こす。

「違うの……嬉しいの。
 今日ね、父から、兄のことを聞いたの。
 私たちの婚約の経緯も。
 それでウォルフが私を好きだと言ってくれたのは、
 私に対する同情だったんじゃなかったのかなって、とても不安になってしまって……」

ユウラがそう言って泣きじゃくる。
そんなユウラに、ウォルフが小さく溜息を吐いた。

「なわけねぇだろ。俺のお前への思いは軽く周りが引くレベルだぞ?」

ウォルフの言葉にユウラがキョトンとした顔をする。

「あっ、言っておくがお前は引くなよ? 
 俺のガラスのハートが砕け散るから」

ウォルフの言葉に、ユウラが小さく噴き出した。

「ガラスのハートなの?」

ユウラの問いに、ウォルフが愛し気な眼差しを浮かべる。

「お前にのみな」

そういって低く囁いて寄こす。

「愛してる、ユウラ」

ユウラがその言葉に動作を止めた。

「何万回でも、何億回でも言ってやるぜ? 
 これからお前と歩む人生の中で、お前が不安になる度に。
 まあもっとも、お前が不安に思う隙など
 俺は与えてやらんけどな」

「ユウラ、父上が呼んでいるよ」

エレベータホールの前から、ルークがユウラを呼んだ。

「もう行かなくちゃ」

ユウラが自身の涙を拭って、ウォルフに向き直った。

「お前さ、綺麗になったよな」

ウォルフが真顔でユウラにそう言うと、ユウラの頬が赤面する。

「なっ……なにを言っているのよ、こんな時に」

ユウラの声が上ずる。
そんなユウラのとまどった表情を、ウォルフの闇色の瞳が映し出す。

「ちゃんと女の表情かおしてる」

ウォルフの言葉に、ユウラがひどく動揺する。

「な……なによ……それは」

ユウラはウォルフをまともに見ることができずに、
赤面した顔を隠すために下を向いた。

「ユウラ、次にお前に会ったときには、必ずお前を抱くから」

ウォルフの闇色の瞳は、その視線をユウラから逸らさない。
真っすぐにユウラを見つめている。

「は……はあ? こんなときに本当に、何を言っているんだか」
 
その頬を最上級に赤面させて、
ユウラは泣きそうな瞳をウォルフに向ける。

ウォルフを見つめる鳶色の瞳の睫毛が、戸惑いに微かに震えている。

ウォルフはそんなユウラを許さない。
闇色の双眸に欲情の焔を揺らめかせて、
きつくユウラを見据える。

「茶化すな。これはもう決定事項だから。
 覚悟しておけ、ユウラ」




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