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113.フレイアの恋心2
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アーザス国の宇宙港に、レーナ・リリアンヌ・ミレニスが降り立つと、
その両脇をその専属騎士であるクライス・ライディーンと、
ユウラ・ライディーンが固める。
記憶を失い天涯孤独の身となったユウラは、
レーナの取り計らいで
クライスの実家であるライディーン家の養女となった。
クライスはレーナの専属騎士であり、
実は秘密の恋人なのだ。
「な~んだ? 緊張しているのか? ユウラ」
クライスは白い歯を見せてにっかりと笑い、
ユウラの頭をわしやわしゃと撫でた。
「わっわっわっ」
ユウラはクライスの少々乱暴な愛情表現にバランスを崩して、
つんのめる。
「おっと、あぶねぇ」
そんなユウラをクライスが支えてくれる。
「もう、クライスったら。
ユウラは女の子なのよ。もっと優しく触れなくてはダメ。
ほら、せっかくの美しい赤髪が乱れてしまったじゃない」
レーナがポーチの中からヘアブラシを取り出して、
ユウラの髪を整えてやる。
「女の子はいつも綺麗にしておかなくてはいけないわ」
そう言ってユウラに優しく微笑みかける。
レーナもクライスも、記憶を無くしたユウラに
本当の家族のように寄り添ってくれた。
今もまた、レーナはユウラの記憶を取り戻すための手がかりを探すために、
苦手な夜会の招待を受けて、アーザス国への伴として自分を連れてきてくれたのだ。
ユウラの心の中に、感謝と共に申し訳なさが募る。
「あのっ、レーナ様」
複雑な顔をしてユウラが顔を上げると、
「もう、ユウラったら。そんな顔をしないの!
あなたはわたくしの専属騎士なんですから、
わたくしがあなたの面倒をみることは当然なの!」
レーナがぷうと口を膨らませた。
専属騎士という言葉にユウラの胸が引き攣れる。
「どうせあなたのことだから、
申し訳ないとか何とか思っているんでしょう?
でもね、あなたはもっとわたくしたちに甘えるといいのよ。
だってわたくしもクライスも、
あなたのことを本当の妹のように大切に思っているのよ?」
レーナの言葉にユウラが
涙ぐんで下を向く。
「だから、もう! そんな顔すんなって」
クライスがまたしても、
うっかりとユウラの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ああ、もう、クライスったら。
またユウラの髪が乱れてしまったじゃない!」
レーナの避難の声色に、クライスがしまったと飛び上がる。
そんな二人のやり取りにユウラがぷっと噴き出した。
◇◇◇
ターミナルの化粧室でクライスとユウラは騎士服を脱いで、平民服に着替えた。
「わかっているわね、二人とも。
くれぐれも危険なことはしないで」
クライスとユウラを、レーナが真剣な眼差しで見つめた。
「わかっていますよ、姫様
ユウラのことは必ず俺が守ります」
そう言ってクライスがにっかりと笑った。
「レーナ様もどうかご無事で」
ユウラがレーナの手を握り、臣下の礼を取る。
「ユウラ様、クライス様、お時間です」
そんなユウラをクライスの特別部隊が急かし、
二人はターミナルの人ごみに消えた。
向かう先は、この国に巣くう闇の組織だ。
◇◇◇
「さすがはアーザス国の第一皇女といったところか」
ウォルフは優雅な仕草で食後のコーヒーを啜る。
「お褒めに預かり光栄ですわ」
フレイアは口の端に酷薄な微笑を浮かべる。
「それで何? お前、俺に惚れてんの?」
ウォルフはカップをソーサーに戻して、フレイアに向き合う。
「まあ、無粋な物言いですこと」
フレイアが頬を染める。
「自惚れるなと否定しねぇということは、
肯定なのだと受け取るぞ?」
ウォルフがちらりとフレイアを窺う。
「お好きにどうぞ?」
フレイアが開き直る。
(コイツ、腹は座ってるんだよな)
ウォルフが苦い顔をして、頭を掻く。
(さて、どうするか。
ルークが地下牢にとらわれて、戦艦『Black Princess』の乗組員は、
そのまま軟禁状態にある。
下手なことは言えねぇぞ? とはいえ、嘘も言いたくねぇしなぁ)
「わたくしがウォルフ様を好きだとしても、
ウォルフ様はわたくしのことがお嫌いでしょう?」
フレイアにそう問われて、ウォルフは咽た。
「そりゃあそうだろ。この現状を見て見ろ。
この俺のどこにお前のことを好きになる要因がある?」
真顔で返したウォルフに、フレイアがぷっと噴き出した。
「言われてみれば確かにそうですわね。
わたくしはこれは戦なのだと思ったのですわ。
わたくしは今まで欲しいと思ったものはすべて力尽くで手に入れてきた。
ずっとそれをとても公正な方法だと思っていたの。
だけどわたくしはそこに心という要因を、
少しも計算に入れておりませんでした」
そういって目を瞬かせた。
「どうしよう? だけどわたくし、今、とてもあなたの心が欲しいと思うの。
今まで一度だってそんなことを思ったことは無かった。
だけど今は無性にあなたの心が欲しいの」
フレイアの硬質な金色な瞳が、
ひどく戸惑ったように揺れている。
「だったら、お前はその戦法を変えなきゃならねぇんじゃねぇか?」
ウォルフの漆黒の瞳が真っすぐにフレイアを見つめた。
「戦法を変えたら、あなたはわたくしのことを好きになって下さるの?」
フレイアの真摯な問いに、ウォルフは口を噤む。
そして目を伏せる。
「いや、俺はお前のことを好きにはなれない。
おまえだけではない。俺はもう二度と誰のことも好きにはならない」
ウォルフが苦し気に言葉を吐き出した。
その両脇をその専属騎士であるクライス・ライディーンと、
ユウラ・ライディーンが固める。
記憶を失い天涯孤独の身となったユウラは、
レーナの取り計らいで
クライスの実家であるライディーン家の養女となった。
クライスはレーナの専属騎士であり、
実は秘密の恋人なのだ。
「な~んだ? 緊張しているのか? ユウラ」
クライスは白い歯を見せてにっかりと笑い、
ユウラの頭をわしやわしゃと撫でた。
「わっわっわっ」
ユウラはクライスの少々乱暴な愛情表現にバランスを崩して、
つんのめる。
「おっと、あぶねぇ」
そんなユウラをクライスが支えてくれる。
「もう、クライスったら。
ユウラは女の子なのよ。もっと優しく触れなくてはダメ。
ほら、せっかくの美しい赤髪が乱れてしまったじゃない」
レーナがポーチの中からヘアブラシを取り出して、
ユウラの髪を整えてやる。
「女の子はいつも綺麗にしておかなくてはいけないわ」
そう言ってユウラに優しく微笑みかける。
レーナもクライスも、記憶を無くしたユウラに
本当の家族のように寄り添ってくれた。
今もまた、レーナはユウラの記憶を取り戻すための手がかりを探すために、
苦手な夜会の招待を受けて、アーザス国への伴として自分を連れてきてくれたのだ。
ユウラの心の中に、感謝と共に申し訳なさが募る。
「あのっ、レーナ様」
複雑な顔をしてユウラが顔を上げると、
「もう、ユウラったら。そんな顔をしないの!
あなたはわたくしの専属騎士なんですから、
わたくしがあなたの面倒をみることは当然なの!」
レーナがぷうと口を膨らませた。
専属騎士という言葉にユウラの胸が引き攣れる。
「どうせあなたのことだから、
申し訳ないとか何とか思っているんでしょう?
でもね、あなたはもっとわたくしたちに甘えるといいのよ。
だってわたくしもクライスも、
あなたのことを本当の妹のように大切に思っているのよ?」
レーナの言葉にユウラが
涙ぐんで下を向く。
「だから、もう! そんな顔すんなって」
クライスがまたしても、
うっかりとユウラの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「ああ、もう、クライスったら。
またユウラの髪が乱れてしまったじゃない!」
レーナの避難の声色に、クライスがしまったと飛び上がる。
そんな二人のやり取りにユウラがぷっと噴き出した。
◇◇◇
ターミナルの化粧室でクライスとユウラは騎士服を脱いで、平民服に着替えた。
「わかっているわね、二人とも。
くれぐれも危険なことはしないで」
クライスとユウラを、レーナが真剣な眼差しで見つめた。
「わかっていますよ、姫様
ユウラのことは必ず俺が守ります」
そう言ってクライスがにっかりと笑った。
「レーナ様もどうかご無事で」
ユウラがレーナの手を握り、臣下の礼を取る。
「ユウラ様、クライス様、お時間です」
そんなユウラをクライスの特別部隊が急かし、
二人はターミナルの人ごみに消えた。
向かう先は、この国に巣くう闇の組織だ。
◇◇◇
「さすがはアーザス国の第一皇女といったところか」
ウォルフは優雅な仕草で食後のコーヒーを啜る。
「お褒めに預かり光栄ですわ」
フレイアは口の端に酷薄な微笑を浮かべる。
「それで何? お前、俺に惚れてんの?」
ウォルフはカップをソーサーに戻して、フレイアに向き合う。
「まあ、無粋な物言いですこと」
フレイアが頬を染める。
「自惚れるなと否定しねぇということは、
肯定なのだと受け取るぞ?」
ウォルフがちらりとフレイアを窺う。
「お好きにどうぞ?」
フレイアが開き直る。
(コイツ、腹は座ってるんだよな)
ウォルフが苦い顔をして、頭を掻く。
(さて、どうするか。
ルークが地下牢にとらわれて、戦艦『Black Princess』の乗組員は、
そのまま軟禁状態にある。
下手なことは言えねぇぞ? とはいえ、嘘も言いたくねぇしなぁ)
「わたくしがウォルフ様を好きだとしても、
ウォルフ様はわたくしのことがお嫌いでしょう?」
フレイアにそう問われて、ウォルフは咽た。
「そりゃあそうだろ。この現状を見て見ろ。
この俺のどこにお前のことを好きになる要因がある?」
真顔で返したウォルフに、フレイアがぷっと噴き出した。
「言われてみれば確かにそうですわね。
わたくしはこれは戦なのだと思ったのですわ。
わたくしは今まで欲しいと思ったものはすべて力尽くで手に入れてきた。
ずっとそれをとても公正な方法だと思っていたの。
だけどわたくしはそこに心という要因を、
少しも計算に入れておりませんでした」
そういって目を瞬かせた。
「どうしよう? だけどわたくし、今、とてもあなたの心が欲しいと思うの。
今まで一度だってそんなことを思ったことは無かった。
だけど今は無性にあなたの心が欲しいの」
フレイアの硬質な金色な瞳が、
ひどく戸惑ったように揺れている。
「だったら、お前はその戦法を変えなきゃならねぇんじゃねぇか?」
ウォルフの漆黒の瞳が真っすぐにフレイアを見つめた。
「戦法を変えたら、あなたはわたくしのことを好きになって下さるの?」
フレイアの真摯な問いに、ウォルフは口を噤む。
そして目を伏せる。
「いや、俺はお前のことを好きにはなれない。
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