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第十二話わがまま王子の奮闘記⑥『舞踏会の練習』
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ミシェルの覚悟を見て取ったアレックは、
割とすんなりとミシェルの夜会への参加を許可した。
「ミシェル様もゼノア様も軽くダンスをおさらいしておきましょう」
アレックはさっそくその準備にとりかかるべく、執務室を後にした。
「そういうことなら、仕方がない。
この私自らが、ゼノアのダンスのパートナーを務めようではないか」
ミシェルはみなぎる闘志を内に秘め、衣裳部屋へと向かった。
衣装部屋の奥には、母ロザリアが昔着ていたというドレスが何着が残されていた。
コルセットをつけ、パニエをはくとなんだかそういう気持ちになってきた。
「あいつは濃紺のブリーチズが良く似合っていたな、
ならば私はそれに映える淡いブルーのドレスを着てみるか」
姿見にその姿を映してみれば、ツルペタな胸を除いては満更でもない。
「ほう、悪くないじゃないか」
少し悦に入って、見とれてみる。
パットを二三枚重ねて胸に入れてみた。
「微妙だな」
そもそも自分の胸に膨らみがあることにどうしても違和感を覚えてしまう。
見よう見まねでメイクをしてみたら、
「うん? ちょっと濃いか?」
という気がしないでもないが、
「まあ、夜会だしこんなものだろう」
と高を括った。
女装した私の姿に度肝を抜かれたのか、ゼノアはまたフリーズしていたが、
そんなことはどうでもいい。
重要なのは私は『女装してでも、ゼノアを他の奴と踊らせたくない』
ということなのだ。
なんか嫌なんだよ。
男でも女でも、自分以外の奴がゼノアに触れるのは。
そういう視線にゼノアを晒すのは。
アレック自ら広間のピアノを弾き始めると、
奏でられたワルツに乗ってゼノアがステップを踏む。
(うん、ゼノアのリードはやっぱり完璧だ)
そのリードに身を委ね、ミシェルは内心うっとりとした。
流れるような優雅なステップに、常に相手を気遣う優しさが
ダンスのリードににじみ出ている。
この密着度、そしてこの魔性のダンスリード……。
自分以外の雌豚……げふっ、
令嬢がゼノアのこの翡翠色の瞳に見つめられるのかと思うと、
ああ、きっと私は嫉妬で狂い死んでしまうに違いない。
「ミシェル……様? どうされました?」
ゼノアが心配そうに私を伺う。
(ヤバイ、最近表情筋が復活して、内面が駄々洩れになってしまうんだ。
気を引き締めなければ変態がバレてしまう)
ミシェルは表情筋に力を入れ、何とかシリアス顔を作った。
「ダンス……って破廉恥な文化だよな」
真顔で呟いたミシェルに、なぜだかアレックが大きく咳払いをした。
「お二人ともとても上手ですよ、
ですがミシェル様はあとで男性のステップをおさらいしましょうね」
そう言って微笑んだアレックにミシェルが必死の形相で食ってかかる。
「結構だ! 私は女性パートしか踊らん、
そして延々とゼノアにエスコートをしてもらうつもりだ」
女装王子が本気の眼差しを執事に送ると、
アレックががっくりと肩を落とした。
「今度はミシェル様が男性パートを踊ってください。
私が女性パートを踊りますから」
空気を読んだであろうゼノアがそう提案した。
「そうか、そういうことなら仕方がない。では私が華麗に貴殿をエスコートしてみせよう。
うん? ちょっと待て、衣装がこれでは私の華麗なリードがサマにならないではないか。
着替えて来る」
そう言ってミシェルはドレスを脱ぎ、それをゼノアに手渡した。
「着ませんよ?」
ゼノアはどうやら完璧なブリザードスマイルを会得したようだ。
私が夜会用のタキシードに着替えて来ると、アレックが再びピアノを奏で始めた。
これはセレナーデか。
夜会では主にロマンチックなBGMとして奏でられる曲なのだが、
最近ではその甘美な調べに密着度を高める振り付けを施し、人気を博している曲目だ。
ゼノアは女性パートも完璧だった。
ダンスは感情を伴う芸術だ。
本人は全く気付いていないらしいが
曲が流れると自然とスイッチが入ってしまうんだろうな。
これが12歳かというような艶な眼差で私を見つめ、私のリードに嫋やかに身を預けてくれる。
身体に電流が走った。
「トレビアーン!」
踊り終えるとアレックが拍手をした。
「ゼノア様は女性パートもとても上手ですね」
アレックの賞賛がミシェルの神経を逆なでする。
「ふんっ! 貴殿はあまり調子に乗らないことだな。
魑魅魍魎の集うのが夜会だ、ダンスがなんだと浮かれていては
足元をすくわれるぞ! とにかく貴殿は私のそばを離れないことだ」
って言ってたのに……。
割とすんなりとミシェルの夜会への参加を許可した。
「ミシェル様もゼノア様も軽くダンスをおさらいしておきましょう」
アレックはさっそくその準備にとりかかるべく、執務室を後にした。
「そういうことなら、仕方がない。
この私自らが、ゼノアのダンスのパートナーを務めようではないか」
ミシェルはみなぎる闘志を内に秘め、衣裳部屋へと向かった。
衣装部屋の奥には、母ロザリアが昔着ていたというドレスが何着が残されていた。
コルセットをつけ、パニエをはくとなんだかそういう気持ちになってきた。
「あいつは濃紺のブリーチズが良く似合っていたな、
ならば私はそれに映える淡いブルーのドレスを着てみるか」
姿見にその姿を映してみれば、ツルペタな胸を除いては満更でもない。
「ほう、悪くないじゃないか」
少し悦に入って、見とれてみる。
パットを二三枚重ねて胸に入れてみた。
「微妙だな」
そもそも自分の胸に膨らみがあることにどうしても違和感を覚えてしまう。
見よう見まねでメイクをしてみたら、
「うん? ちょっと濃いか?」
という気がしないでもないが、
「まあ、夜会だしこんなものだろう」
と高を括った。
女装した私の姿に度肝を抜かれたのか、ゼノアはまたフリーズしていたが、
そんなことはどうでもいい。
重要なのは私は『女装してでも、ゼノアを他の奴と踊らせたくない』
ということなのだ。
なんか嫌なんだよ。
男でも女でも、自分以外の奴がゼノアに触れるのは。
そういう視線にゼノアを晒すのは。
アレック自ら広間のピアノを弾き始めると、
奏でられたワルツに乗ってゼノアがステップを踏む。
(うん、ゼノアのリードはやっぱり完璧だ)
そのリードに身を委ね、ミシェルは内心うっとりとした。
流れるような優雅なステップに、常に相手を気遣う優しさが
ダンスのリードににじみ出ている。
この密着度、そしてこの魔性のダンスリード……。
自分以外の雌豚……げふっ、
令嬢がゼノアのこの翡翠色の瞳に見つめられるのかと思うと、
ああ、きっと私は嫉妬で狂い死んでしまうに違いない。
「ミシェル……様? どうされました?」
ゼノアが心配そうに私を伺う。
(ヤバイ、最近表情筋が復活して、内面が駄々洩れになってしまうんだ。
気を引き締めなければ変態がバレてしまう)
ミシェルは表情筋に力を入れ、何とかシリアス顔を作った。
「ダンス……って破廉恥な文化だよな」
真顔で呟いたミシェルに、なぜだかアレックが大きく咳払いをした。
「お二人ともとても上手ですよ、
ですがミシェル様はあとで男性のステップをおさらいしましょうね」
そう言って微笑んだアレックにミシェルが必死の形相で食ってかかる。
「結構だ! 私は女性パートしか踊らん、
そして延々とゼノアにエスコートをしてもらうつもりだ」
女装王子が本気の眼差しを執事に送ると、
アレックががっくりと肩を落とした。
「今度はミシェル様が男性パートを踊ってください。
私が女性パートを踊りますから」
空気を読んだであろうゼノアがそう提案した。
「そうか、そういうことなら仕方がない。では私が華麗に貴殿をエスコートしてみせよう。
うん? ちょっと待て、衣装がこれでは私の華麗なリードがサマにならないではないか。
着替えて来る」
そう言ってミシェルはドレスを脱ぎ、それをゼノアに手渡した。
「着ませんよ?」
ゼノアはどうやら完璧なブリザードスマイルを会得したようだ。
私が夜会用のタキシードに着替えて来ると、アレックが再びピアノを奏で始めた。
これはセレナーデか。
夜会では主にロマンチックなBGMとして奏でられる曲なのだが、
最近ではその甘美な調べに密着度を高める振り付けを施し、人気を博している曲目だ。
ゼノアは女性パートも完璧だった。
ダンスは感情を伴う芸術だ。
本人は全く気付いていないらしいが
曲が流れると自然とスイッチが入ってしまうんだろうな。
これが12歳かというような艶な眼差で私を見つめ、私のリードに嫋やかに身を預けてくれる。
身体に電流が走った。
「トレビアーン!」
踊り終えるとアレックが拍手をした。
「ゼノア様は女性パートもとても上手ですね」
アレックの賞賛がミシェルの神経を逆なでする。
「ふんっ! 貴殿はあまり調子に乗らないことだな。
魑魅魍魎の集うのが夜会だ、ダンスがなんだと浮かれていては
足元をすくわれるぞ! とにかく貴殿は私のそばを離れないことだ」
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