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第十三話壁武者の言い分⑦『わたしは無難に過ごしたいのですが』
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食事の後で自室に戻っていると、アレックがやってきました。
はて?
なにやら蝋封を押された郵便物を届けてくれました。
「ゼノア様への夜会の招待状です」
夜会って、あの紳士淑女が華やかな衣装を身に纏い、
ダンスだなんだと戯れるアレ……ですか。
にこやかに話をはずませるその裏では、
権謀術策が飛び交うというアレ……ですか。
知っていますよ?
私だって王族の端くれですから。
ですので、本音を言えばかなり行きたくありません。
話を聞いただけで胃が痛いです。
秘密も抱えておりますし、
ここは出来る限り無難に過ごしたいのですけどねぇ。
「夜会って、私はまだ子供ですよ?
そのような場に出てはかえって迷惑をかけてしまいます」
一応辞退の方向性で話を進めたいのですが、
アレック自らその夜会の招待状を私に届けるということは、
これはすでに決定事項なのだなと腹は括っています。
「大丈夫ですよ、今回の夜会はミシェル様もご一緒ですし、
この夜会の主催者であるエルダートン卿には、
とても可愛がっておられる孫娘がおられまして、
その方が是非ゼノア様にお会いしたいとのことです。
お年もゼノア様と同じ12歳なんですよ」
エルダートン卿といえば、確か前国王の弟で、
その一族がこの国の宰相を務めていたのではなかったでしょうか。
出国前に教育係からこの国の権力相関図を
叩きこまれたのを必死に思い出しています。
現女王ロザリア・ライネルの即位と同時に、
宰相の職をその息子ハリスに譲ったをいうところまでは、
情報にあったのですが、残念ながらその孫についてはよくわかりません。
うん、どうしようか。
「良かった、では子供は私だけではないのですね」
思案をめぐらせながらも、
一応の笑顔でアレックの申し出を受けておきます。
何よりも東宮殿の最高権力者を敵に回すことはできませんので。
「ええ、そうです。
ですが夜会の前にダンスの練習をしなくてはなりませんね」
アレックの提案を受け、午後の乗馬の授業が
急遽アレックによるダンスレッスンに振り替えられました。
こういった夜会を想定して、一応国元でダンスレッスンも受けてはいるのですが、
やっぱり出なくちゃダメ?
私まだ12歳ですよ?
そんな眼差しを往生際悪くアレックに送ってみましたが、
アレックに氷の微笑を返されてしまいました。
アレックもお仕事ですもんね。
わかっています。
弱小国の王太子(影武者)には拒否権など端からないことくらい。
「よろしくご指導おねがいします」
そう言って広間に置かれたピアノの前に着座するアレックに頭を下げると、
ドアが勢いよく開きました。
「ふんっ! この私が相手役になってやる。ありがたく思え」
そう言って広間に入ってきたのはミシェル様でした。
「ひっ」
思わず悲鳴が喉で凍り付きました。
ミシェル様は女物のドレスを身にまとい、メイクもばっちりです。
若干メイクが濃いような気もしますが、
ミシェル様はそれ以上にキャラが濃いので、
もう気にしないことにします。
「まあ、いいでしょう」
アレックが苦笑しながらも、
ダンスレッスンを開始してくれました。
私以上にミシェル様がノリノリです。
ミシェル様は私よりも身長が少し低いので、
とてもバランスがとりやすいです。
ワルツを踊り終えたところで、アレックが褒めてくれました。
「とても上手ですよ、ですがミシェル様はあとで
男性のステップをおさらいしましょうね」
アレックの言葉を受け、何やら女装王太子が食って掛かっています。
「結構だ! 私は女性パートしか踊らん、
そして延々とゼノアにエスコートをしてもらうつもりだ」
女装王子が本気の眼差しを執事に送ると、
アレックががっくりと肩を落としました。
おやおや、ミシェル様ってば、
よっぽど女装を気に入ってしまわれたご様子。
うふふ。
なんだか生温かい気持ちになります。
ですがあえて私は、空気を読んでアレックに
助け船を送ることにしました。
なんせ、アレックが東宮殿の最高権力者ですからね。
「今度はミシェル様が男性パートを踊ってください。
私が女性パートを踊りますから」
やんわりとそういうと、
何らかのミシェル様のスイッチがはいったらしく
「そうか、そういうことなら仕方がない。
では私が華麗に貴殿をエスコートしてみせよう。
よし、ならばこれを着ろ!ゼノア」
そういってゼノア様が自身の着ていたドレスを脱いで私に手渡しました。
「着ませんよ?」
私はブリザードスマイルを会得しました。
ミシェル様がメイクを落とし、夜会用のタキシードに着替えてきました。
おりょ? なんだか様になっていますね。
普通にカッコいいですよ?
それと少し背が伸びました?
セレナーデが奏でられるとミシェル様にぐっと腰を引き寄せられて、
少しだけドキドキしながら踊りました。
ソファーの上にミシェル様が脱いだドレスが置かれていました。
淡いブルーのとても可愛いドレスです。
本当は私もこんな可愛いドレスを着て、
ミシェル様と踊ってみたかったなと思いました。
「トレビアーン!」
ミシェル様の男性パートで踊り終えると、
アレックが拍手をしてくれました。
「ゼノア様は女性パートもとても上手ですね」
アレックの賞賛に心臓がバクバクいっています。
(あっぶねーーー!)
ちょっと冷や汗が出てしまいました。
(やばい、もうちょっと下手に踊るべきだったか……)
色々な思考が頭を巡りますが、後悔先に立たずなので
この教訓は是非次の機会に繋げていきたいと思います。
はて?
なにやら蝋封を押された郵便物を届けてくれました。
「ゼノア様への夜会の招待状です」
夜会って、あの紳士淑女が華やかな衣装を身に纏い、
ダンスだなんだと戯れるアレ……ですか。
にこやかに話をはずませるその裏では、
権謀術策が飛び交うというアレ……ですか。
知っていますよ?
私だって王族の端くれですから。
ですので、本音を言えばかなり行きたくありません。
話を聞いただけで胃が痛いです。
秘密も抱えておりますし、
ここは出来る限り無難に過ごしたいのですけどねぇ。
「夜会って、私はまだ子供ですよ?
そのような場に出てはかえって迷惑をかけてしまいます」
一応辞退の方向性で話を進めたいのですが、
アレック自らその夜会の招待状を私に届けるということは、
これはすでに決定事項なのだなと腹は括っています。
「大丈夫ですよ、今回の夜会はミシェル様もご一緒ですし、
この夜会の主催者であるエルダートン卿には、
とても可愛がっておられる孫娘がおられまして、
その方が是非ゼノア様にお会いしたいとのことです。
お年もゼノア様と同じ12歳なんですよ」
エルダートン卿といえば、確か前国王の弟で、
その一族がこの国の宰相を務めていたのではなかったでしょうか。
出国前に教育係からこの国の権力相関図を
叩きこまれたのを必死に思い出しています。
現女王ロザリア・ライネルの即位と同時に、
宰相の職をその息子ハリスに譲ったをいうところまでは、
情報にあったのですが、残念ながらその孫についてはよくわかりません。
うん、どうしようか。
「良かった、では子供は私だけではないのですね」
思案をめぐらせながらも、
一応の笑顔でアレックの申し出を受けておきます。
何よりも東宮殿の最高権力者を敵に回すことはできませんので。
「ええ、そうです。
ですが夜会の前にダンスの練習をしなくてはなりませんね」
アレックの提案を受け、午後の乗馬の授業が
急遽アレックによるダンスレッスンに振り替えられました。
こういった夜会を想定して、一応国元でダンスレッスンも受けてはいるのですが、
やっぱり出なくちゃダメ?
私まだ12歳ですよ?
そんな眼差しを往生際悪くアレックに送ってみましたが、
アレックに氷の微笑を返されてしまいました。
アレックもお仕事ですもんね。
わかっています。
弱小国の王太子(影武者)には拒否権など端からないことくらい。
「よろしくご指導おねがいします」
そう言って広間に置かれたピアノの前に着座するアレックに頭を下げると、
ドアが勢いよく開きました。
「ふんっ! この私が相手役になってやる。ありがたく思え」
そう言って広間に入ってきたのはミシェル様でした。
「ひっ」
思わず悲鳴が喉で凍り付きました。
ミシェル様は女物のドレスを身にまとい、メイクもばっちりです。
若干メイクが濃いような気もしますが、
ミシェル様はそれ以上にキャラが濃いので、
もう気にしないことにします。
「まあ、いいでしょう」
アレックが苦笑しながらも、
ダンスレッスンを開始してくれました。
私以上にミシェル様がノリノリです。
ミシェル様は私よりも身長が少し低いので、
とてもバランスがとりやすいです。
ワルツを踊り終えたところで、アレックが褒めてくれました。
「とても上手ですよ、ですがミシェル様はあとで
男性のステップをおさらいしましょうね」
アレックの言葉を受け、何やら女装王太子が食って掛かっています。
「結構だ! 私は女性パートしか踊らん、
そして延々とゼノアにエスコートをしてもらうつもりだ」
女装王子が本気の眼差しを執事に送ると、
アレックががっくりと肩を落としました。
おやおや、ミシェル様ってば、
よっぽど女装を気に入ってしまわれたご様子。
うふふ。
なんだか生温かい気持ちになります。
ですがあえて私は、空気を読んでアレックに
助け船を送ることにしました。
なんせ、アレックが東宮殿の最高権力者ですからね。
「今度はミシェル様が男性パートを踊ってください。
私が女性パートを踊りますから」
やんわりとそういうと、
何らかのミシェル様のスイッチがはいったらしく
「そうか、そういうことなら仕方がない。
では私が華麗に貴殿をエスコートしてみせよう。
よし、ならばこれを着ろ!ゼノア」
そういってゼノア様が自身の着ていたドレスを脱いで私に手渡しました。
「着ませんよ?」
私はブリザードスマイルを会得しました。
ミシェル様がメイクを落とし、夜会用のタキシードに着替えてきました。
おりょ? なんだか様になっていますね。
普通にカッコいいですよ?
それと少し背が伸びました?
セレナーデが奏でられるとミシェル様にぐっと腰を引き寄せられて、
少しだけドキドキしながら踊りました。
ソファーの上にミシェル様が脱いだドレスが置かれていました。
淡いブルーのとても可愛いドレスです。
本当は私もこんな可愛いドレスを着て、
ミシェル様と踊ってみたかったなと思いました。
「トレビアーン!」
ミシェル様の男性パートで踊り終えると、
アレックが拍手をしてくれました。
「ゼノア様は女性パートもとても上手ですね」
アレックの賞賛に心臓がバクバクいっています。
(あっぶねーーー!)
ちょっと冷や汗が出てしまいました。
(やばい、もうちょっと下手に踊るべきだったか……)
色々な思考が頭を巡りますが、後悔先に立たずなので
この教訓は是非次の機会に繋げていきたいと思います。
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