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第十四話わがまま王子の奮闘記⑦『夜会にて』
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エルダートンの屋敷につくや、
ゼノアは色とりどりのドレスを纏った雌豚……こほん。
貴族の令嬢たちに取り囲まれてしまった。
「まあ、なんと愛らしい王子様なのでしょう」
「ワルツをご一緒いただけますか?」
そういってどこぞの男爵家の娘がゼノアの手を取った。
(触るな! 雌豚がっ!!!)
ミシェルの眉間の皺が深くなる。
ゼノアも断れよ!
ワルツ、何周目だ?
もういい加減酔うぞ?
「足元、気を付けて」
なんぞとぬかしながら、
さりげなくダンスのパートナーの手を取ったりと、
なかなかの紳士っぷりを発揮してやがる。
「楽しんでおられますかな? ミシェル殿下」
主催者であるエルダートンが挨拶に来た。
前国王の弟であり、息子に宰相の職を譲った今も、
その背後で大公として絶大な権力を振るう。
「これはご無沙汰をしております。大叔父上」
薄い笑みを貼り付け、ミシェルも挨拶を返す。
「体調が優れないとお聞きしていたので、
夜会への招待を躊躇しておりましたが、
ミシェル殿下の元気なお姿を拝見し、安堵しております。
今夜は孫娘のエリオットが留学先から帰国しておりまして、
もしよろしかったら、一曲踊ってやってください」
一見柔らかい物腰の中にも、
軍人特有の他者を圧倒する威厳を併せ持つ初老の男を、
ミシェルは改めて見上げた。
「こんばんは、ご無沙汰しています」
タイミングを見計らったエリオットが飲み物を片手に挨拶に来た。
母の政敵、エルダートンの孫ではあるが、
幼いころからエリオットは優しく接してくれた。
ミシェルより四つ年上の16歳なのだが、漆黒の髪を背に緩く流し、
ワインレッドのドレスを纏うこの美女は
すっかり社交界の華となっているようだ。
「ミシェルが夜会に顔を出すなんて
一体どういう風の吹き回し?」
好奇心を露わに、エリオットが探りをいれてくる。
「別にっ! ちょっと気が向いただけだ」
ミシェルはふんっとソッポを向く。
「なあに? ミシェル、気になる人でもいるの?」
「は……はあ?」
その言葉に動揺してしまったミシェルは、
テーブルの角で足の小指をぶつけてしまった。
「痛ってぇ!」
少し涙目になるミシェルに益々好奇心を滲ませて、
更にエリオットがにじり寄る。
「え? ちょっと何? 図星なの? 誰? 誰? 誰?」
これぞ心を抉る『The 親戚の集い』だ。
「ふんっ! プライバシーの侵害だ。黙秘権を行使する。
それよりもエリオットはどうなんだ?
色づきやがって、ドレスちょっと派手なんじゃんないか?」
「余計なお世話よ」
そういってワイワイやっていたら、
近衛隊のミッドが近づいてきた。
(わかりやすいな、こいつ)
頬を赤らめて、懸命にエリオットに話しかける
ミッドの肩にぽんと手を置いて、
ミシェルはその場を去った。
遠目にエリオットとダンスを踊るミッドが見えた。
「ほう、やるじゃないか。健闘を祈る」
そう呟いてミシェルはバルコニーに出た。
きんと冷えた夜の冷気に、青い月が映え、星々が輝いている。
何気なく目を落とした中庭の茂みに、誰かが隠れている。
目を凝らすと、それは見覚えのあるシルエットだ。
バルコニーから続く外階段を下りて、ミシェルがその人影に近づき、声をかけると、
「ひっ」
と引きつった悲鳴を上げた人影がミシェルに向き直った。
「ミ……ミシェル様?」
それは少しげっそりとした表情のゼノアだった。
「アホか、お前は。こんなところで何をやっている?」
ミシェルがそう問うとゼノアがミシェルの袖を引っ張った。
「ミシェル様も隠れて!」
「だから何で……」
「さすがにダンスに疲れたのと、私を取り合った侯爵夫人と
伯爵夫人が口論になってしまって……。
命の危機を感じたのでやばいなと思って逃げてきちゃいました。
女の人……コワイ……」
ゼノアが青い顔をしている。
「ちっ、ったく、しょうがねぇなあ」
とかなんとか言いつつ、ミシェルはゼノアの隣をゲットした。
踊り続けだったゼノアは、
上着をクロークに預けたまま広間を抜け出したので薄着だ。
ブラウスに透ける体のラインが華奢で、ドギマギとしてしまう。
汗が引いて体が冷えたのか、ゼノアの頼りなく肩を抱く腕が少し震えていた。
「着ていろ」
そう言ってミシェルは、
自分が着ていた上着をゼノアに着せ掛けてやると、
ゼノアが顔を上げた。
「ミシェル様にご迷惑をおかけするわけにはいきません。戻ります」
そう言ってゼノアは立ち上がろうとしたが、
「待て! 行くな」
気が付けばミシェルはゼノアの腕を掴み、抱き寄せていた。
「ミシェル様?」
ゼノアの瞳が驚きに揺れる。
その様子をバルコニーからオペラグラスで見つめている者がいた。
漆黒の髪を背に緩く流し、ワインレッドのドレスを着た美女、
エリオット・エルダートンだ。
ミシェルがポケットから懐中時計を取り出すと時刻は八時五〇分を指している。
そろそろラストダンスの時間だ。
「座興だ、一曲付き合え」
そう言ってミシェルは立ち上がり、ゼノアに手を差し伸べた。
躊躇いがちにゼノアはその手を取り、
人知れず二人は月明かりを背にセレナーデを踊る。
ゼノアは色とりどりのドレスを纏った雌豚……こほん。
貴族の令嬢たちに取り囲まれてしまった。
「まあ、なんと愛らしい王子様なのでしょう」
「ワルツをご一緒いただけますか?」
そういってどこぞの男爵家の娘がゼノアの手を取った。
(触るな! 雌豚がっ!!!)
ミシェルの眉間の皺が深くなる。
ゼノアも断れよ!
ワルツ、何周目だ?
もういい加減酔うぞ?
「足元、気を付けて」
なんぞとぬかしながら、
さりげなくダンスのパートナーの手を取ったりと、
なかなかの紳士っぷりを発揮してやがる。
「楽しんでおられますかな? ミシェル殿下」
主催者であるエルダートンが挨拶に来た。
前国王の弟であり、息子に宰相の職を譲った今も、
その背後で大公として絶大な権力を振るう。
「これはご無沙汰をしております。大叔父上」
薄い笑みを貼り付け、ミシェルも挨拶を返す。
「体調が優れないとお聞きしていたので、
夜会への招待を躊躇しておりましたが、
ミシェル殿下の元気なお姿を拝見し、安堵しております。
今夜は孫娘のエリオットが留学先から帰国しておりまして、
もしよろしかったら、一曲踊ってやってください」
一見柔らかい物腰の中にも、
軍人特有の他者を圧倒する威厳を併せ持つ初老の男を、
ミシェルは改めて見上げた。
「こんばんは、ご無沙汰しています」
タイミングを見計らったエリオットが飲み物を片手に挨拶に来た。
母の政敵、エルダートンの孫ではあるが、
幼いころからエリオットは優しく接してくれた。
ミシェルより四つ年上の16歳なのだが、漆黒の髪を背に緩く流し、
ワインレッドのドレスを纏うこの美女は
すっかり社交界の華となっているようだ。
「ミシェルが夜会に顔を出すなんて
一体どういう風の吹き回し?」
好奇心を露わに、エリオットが探りをいれてくる。
「別にっ! ちょっと気が向いただけだ」
ミシェルはふんっとソッポを向く。
「なあに? ミシェル、気になる人でもいるの?」
「は……はあ?」
その言葉に動揺してしまったミシェルは、
テーブルの角で足の小指をぶつけてしまった。
「痛ってぇ!」
少し涙目になるミシェルに益々好奇心を滲ませて、
更にエリオットがにじり寄る。
「え? ちょっと何? 図星なの? 誰? 誰? 誰?」
これぞ心を抉る『The 親戚の集い』だ。
「ふんっ! プライバシーの侵害だ。黙秘権を行使する。
それよりもエリオットはどうなんだ?
色づきやがって、ドレスちょっと派手なんじゃんないか?」
「余計なお世話よ」
そういってワイワイやっていたら、
近衛隊のミッドが近づいてきた。
(わかりやすいな、こいつ)
頬を赤らめて、懸命にエリオットに話しかける
ミッドの肩にぽんと手を置いて、
ミシェルはその場を去った。
遠目にエリオットとダンスを踊るミッドが見えた。
「ほう、やるじゃないか。健闘を祈る」
そう呟いてミシェルはバルコニーに出た。
きんと冷えた夜の冷気に、青い月が映え、星々が輝いている。
何気なく目を落とした中庭の茂みに、誰かが隠れている。
目を凝らすと、それは見覚えのあるシルエットだ。
バルコニーから続く外階段を下りて、ミシェルがその人影に近づき、声をかけると、
「ひっ」
と引きつった悲鳴を上げた人影がミシェルに向き直った。
「ミ……ミシェル様?」
それは少しげっそりとした表情のゼノアだった。
「アホか、お前は。こんなところで何をやっている?」
ミシェルがそう問うとゼノアがミシェルの袖を引っ張った。
「ミシェル様も隠れて!」
「だから何で……」
「さすがにダンスに疲れたのと、私を取り合った侯爵夫人と
伯爵夫人が口論になってしまって……。
命の危機を感じたのでやばいなと思って逃げてきちゃいました。
女の人……コワイ……」
ゼノアが青い顔をしている。
「ちっ、ったく、しょうがねぇなあ」
とかなんとか言いつつ、ミシェルはゼノアの隣をゲットした。
踊り続けだったゼノアは、
上着をクロークに預けたまま広間を抜け出したので薄着だ。
ブラウスに透ける体のラインが華奢で、ドギマギとしてしまう。
汗が引いて体が冷えたのか、ゼノアの頼りなく肩を抱く腕が少し震えていた。
「着ていろ」
そう言ってミシェルは、
自分が着ていた上着をゼノアに着せ掛けてやると、
ゼノアが顔を上げた。
「ミシェル様にご迷惑をおかけするわけにはいきません。戻ります」
そう言ってゼノアは立ち上がろうとしたが、
「待て! 行くな」
気が付けばミシェルはゼノアの腕を掴み、抱き寄せていた。
「ミシェル様?」
ゼノアの瞳が驚きに揺れる。
その様子をバルコニーからオペラグラスで見つめている者がいた。
漆黒の髪を背に緩く流し、ワインレッドのドレスを着た美女、
エリオット・エルダートンだ。
ミシェルがポケットから懐中時計を取り出すと時刻は八時五〇分を指している。
そろそろラストダンスの時間だ。
「座興だ、一曲付き合え」
そう言ってミシェルは立ち上がり、ゼノアに手を差し伸べた。
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