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第二十七話女王ロザリアの帰還②
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「おかえりなさいませ、
女王陛下、王配陛下」
コンシェルジュの出迎えもそこそこにエレベーターに乗り込むと、
アレックがロザリアの腰を引き寄せ、乱暴に唇を奪った。
「んっ……んんん」
アレックの背に回されたロザリアの手が、
その上着をきつく握りしめた。
(全く……キス一つで腰が抜けちゃうか……?)
ロザリアは弾む吐息の中で、アレックを見上げる。
ダークアッシュの瞳と同じ色の髪が
少し乱れて前髪がはらりと散っている。
(ったく、相変わらずセクシーだな、この男はっ!)
惚れた弱みというか、正直ちょっと腹立たしい。
アレックとの付き合いは、ロザリアの誕生時に遡る。
将軍家の筆頭貴族の長男として生まれたアレックは、
国王の一人娘ロザリアの騎士となるべく5歳のときから仕えた。
雛鳥が最初に見たものを母鳥だと思ってしまう刷り込みの法則というものがあるが、
まあ、これだけのいい男が生まれたときから側にいたら、
好きにならないわけはない。
初恋を自覚したのがいつだったのかは明確に覚えてはいないが、
かなり幼い頃からアレックに執拗なアプローチを
繰り返していたことは記憶している。
思春期を経て『即位の前に男を学べ』と父王から言われ、
宛がわれたのもこの男であり、
ロザリアに性のなんたるかを教えたのもこの男だ。
「立てるか?」
耳元に低く囁かれてロザリアは赤面し、下を向く。
「無理そうだな」
もう一度アレックに抱きかかえられる。
「お前も物好きだな。
公務で疲れ切っているだろうに。なんで来るんだ」
アレックの口調の中には焦れたような熱と、
突き放すような冷たさが混在している。
幼かったころにはそんなアレックの口調に傷つきもしたが、
現在のロザリアはそれを過程だと理解している。
この後この男は理性と本能の葛藤を経て、ドSと化す。
この男が戦場とベッドの上でどういう進化を遂げるのかを、
ロザリアは身を持って重々承知している。
「悪いが、手加減はしてやれない」
低く耳に響く美声に暫し酔い、ロザリアは目を閉じた。
背中に戦慄が走る。
アレックのラスボス感が半端ない。
(ほ……屠られる)
ロザリアは喉を鳴らした。
野獣を前にした小動物の恐怖とはこういうものだろうか。
しかし誘ったのは自分だ。
ロザリアは自嘲する。
手加減……?もちろんそんなものはいらない。
気のすむまでこの身を食らい尽くせばいい。
この男に食らい尽くされてこそ得ることのできる悦楽を、
この身体は知ってしまったのだから。
「待ちきれない」
そう言われてロザリアがその身を放り出されたのは
リビングのソファーの上で、
アレックは着ていた上着を雑に床の上に放り投げ、
ネクタイの結び目を片手でゆるめた。
その鎖骨が露わになる。
ロザリアの視線がアレックの鎖骨を這う。
シャツのボタンが外されると、
その鋼のような肉体には無数の傷が刻まれていた。
戦士の証……といえば聞こえはいいだろう。
だが実際はそんな美しいものではない。
とロザリアは思う。
(傷の数だけこの人は血を流し、命を削るのだから)
ミシェルを身ごもった代償に反故された婚姻と同盟のゆえに、
ロザリアはアレックを戦場に送らなければならなかった。
その時を思い出して、ロザリアは目を閉じた。
(だからこそ私は外交で、
決して負けるわけにはいかない。
この人を再び戦場に行かせないために)
ロザリアは自身を奮い立たせた。
(そのために犠牲にしたものは、
決して小さなものではないことは理解している。
ミシェルにもいつか詫びなければならない。
許してもらえるかどうかはわからないけど……)
瞼の裏に幼き日のミシェルが浮かんで、消えていった。
胸に痛みが走る。
(だけど私が私の戦場で戦うのは、
愛する家族を守るためだ。
この人を、ミシェルを戦場に送ることだけは、
決してするまい)
ロザリアは瞳を閉じて、
巡礼者のように恭しくその傷の一つ一つに口付けた。
そんなロザリアの顎を掴み、
アレックは再び激しくその唇を奪う。
組み敷き、戒め、貪り食らい尽くす凌辱の行為。
それは戦場と似ているかもしれないとアレックは思った。
生と死をかけた原始的な本能。
そこに理屈はいらない。
自分の腕の中で小さく嫌々と首を振り許しを請うのは、
自分の妻であり、この国の女王だ。
それは神聖なる聖女を
この手で穢れた淫婦へと
貶める行為であるかのように感じてしまう。
自分を暗く貶め、
またその背徳の悦をもってどうしようもなく昂らせる。
アレックはロザリアの手首を戒め、
眦に涙を浮かべるロザリアに、容赦なく自身を穿つ。
その華奢な体に自身を刻みつけると、
ロザリアは嬌声を上げて果てた。
◇◇◇
(また……やってしまった……)
アレックは額に手を当てた。
ロザリアを前にすると、理性とか道徳とか知性とか、
そういったものが全て無効化されてしまう。
むき出しの本能が自分でも怖い。
(ロザリアはエロい)
華奢でエロくて、女王で、自分の好みのドストライクで……。
本当はだれよりも優しくしてやりたいのに、
彼女を前にすると余裕を失くして野獣と化して、
貪りつくしてしまう。
私は思春期のガキか。
大人の矜持とか、余裕とか、
相手に対する気遣いがあるだろう。
ロザリアは眦に涙を溜めて眠る。
っていうか途中で失神しちゃったっていうのが
正確なんだけど、華奢な体にまた無理を強いてしまったなと
アレックは自己嫌悪に陥る。
ロザリアをベッドに運びその額に口づけた。
今回の公務も激務だったと聞いている。
ただもう、申し訳なさが半端ない。
「ドSでごめんなさい」
アレックがそう呟くと、
眠っていると思っていたロザリアがアレックの腕を引き寄せた。
(狸寝入りだったか)
アレックが舌打ちした。
「アレックはドSでいいんですよ。
そんなあなたを好きな私は、きっとドМなんですから」
そういってシーツの中でロザリアが笑う。
ロザリアはアレックを抱きしめ、
その額に、瞼に、鼻先に口付けた。
そこには子を愛する母のような慈愛が込められている。
「聖母マリアみたい……だな」
ロザリアの腕の中で
幼子のように抱きしめられたアレックが呟いた。
この身に受けた傷も、孤独も、穢れた想いも、
すべてがその愛に包まれて浄化してしまう。
この世の温かなものの全てがこの腕の中にある。
神聖なるこの聖女を、
そもそも自分ごときが汚せるわけはないのだと
アレックは自嘲した。
(どんなに私が彼女を貪り尽くそうが、
変わらず無償の愛を注ぎ、
包んでくれるこの人は変わらず私の聖域だ)
そこに畏怖がある。
この愛に餓え、奪ってでも手に入れたいと思う欲望と、
このような穢れた私が触れてもいいのかという
畏れがいつも相反する。
そんな私の葛藤ですらものみ込んでこの人は微笑む。
差し出された彼女の薬指には、指輪が光る。
この国をその華奢な背に背負うこの国の女王であると同時に
この人が私の妻であることの証。
(ならば私は……)
アレックはロザリアの手を取り、その指輪に口付けた。
「我が女王陛下よ、全てはあなたの望みのままに。
我はあなたに生涯の忠誠を誓う」
ロザリアが満足げな笑みを浮かべ、頷いた。
女王陛下、王配陛下」
コンシェルジュの出迎えもそこそこにエレベーターに乗り込むと、
アレックがロザリアの腰を引き寄せ、乱暴に唇を奪った。
「んっ……んんん」
アレックの背に回されたロザリアの手が、
その上着をきつく握りしめた。
(全く……キス一つで腰が抜けちゃうか……?)
ロザリアは弾む吐息の中で、アレックを見上げる。
ダークアッシュの瞳と同じ色の髪が
少し乱れて前髪がはらりと散っている。
(ったく、相変わらずセクシーだな、この男はっ!)
惚れた弱みというか、正直ちょっと腹立たしい。
アレックとの付き合いは、ロザリアの誕生時に遡る。
将軍家の筆頭貴族の長男として生まれたアレックは、
国王の一人娘ロザリアの騎士となるべく5歳のときから仕えた。
雛鳥が最初に見たものを母鳥だと思ってしまう刷り込みの法則というものがあるが、
まあ、これだけのいい男が生まれたときから側にいたら、
好きにならないわけはない。
初恋を自覚したのがいつだったのかは明確に覚えてはいないが、
かなり幼い頃からアレックに執拗なアプローチを
繰り返していたことは記憶している。
思春期を経て『即位の前に男を学べ』と父王から言われ、
宛がわれたのもこの男であり、
ロザリアに性のなんたるかを教えたのもこの男だ。
「立てるか?」
耳元に低く囁かれてロザリアは赤面し、下を向く。
「無理そうだな」
もう一度アレックに抱きかかえられる。
「お前も物好きだな。
公務で疲れ切っているだろうに。なんで来るんだ」
アレックの口調の中には焦れたような熱と、
突き放すような冷たさが混在している。
幼かったころにはそんなアレックの口調に傷つきもしたが、
現在のロザリアはそれを過程だと理解している。
この後この男は理性と本能の葛藤を経て、ドSと化す。
この男が戦場とベッドの上でどういう進化を遂げるのかを、
ロザリアは身を持って重々承知している。
「悪いが、手加減はしてやれない」
低く耳に響く美声に暫し酔い、ロザリアは目を閉じた。
背中に戦慄が走る。
アレックのラスボス感が半端ない。
(ほ……屠られる)
ロザリアは喉を鳴らした。
野獣を前にした小動物の恐怖とはこういうものだろうか。
しかし誘ったのは自分だ。
ロザリアは自嘲する。
手加減……?もちろんそんなものはいらない。
気のすむまでこの身を食らい尽くせばいい。
この男に食らい尽くされてこそ得ることのできる悦楽を、
この身体は知ってしまったのだから。
「待ちきれない」
そう言われてロザリアがその身を放り出されたのは
リビングのソファーの上で、
アレックは着ていた上着を雑に床の上に放り投げ、
ネクタイの結び目を片手でゆるめた。
その鎖骨が露わになる。
ロザリアの視線がアレックの鎖骨を這う。
シャツのボタンが外されると、
その鋼のような肉体には無数の傷が刻まれていた。
戦士の証……といえば聞こえはいいだろう。
だが実際はそんな美しいものではない。
とロザリアは思う。
(傷の数だけこの人は血を流し、命を削るのだから)
ミシェルを身ごもった代償に反故された婚姻と同盟のゆえに、
ロザリアはアレックを戦場に送らなければならなかった。
その時を思い出して、ロザリアは目を閉じた。
(だからこそ私は外交で、
決して負けるわけにはいかない。
この人を再び戦場に行かせないために)
ロザリアは自身を奮い立たせた。
(そのために犠牲にしたものは、
決して小さなものではないことは理解している。
ミシェルにもいつか詫びなければならない。
許してもらえるかどうかはわからないけど……)
瞼の裏に幼き日のミシェルが浮かんで、消えていった。
胸に痛みが走る。
(だけど私が私の戦場で戦うのは、
愛する家族を守るためだ。
この人を、ミシェルを戦場に送ることだけは、
決してするまい)
ロザリアは瞳を閉じて、
巡礼者のように恭しくその傷の一つ一つに口付けた。
そんなロザリアの顎を掴み、
アレックは再び激しくその唇を奪う。
組み敷き、戒め、貪り食らい尽くす凌辱の行為。
それは戦場と似ているかもしれないとアレックは思った。
生と死をかけた原始的な本能。
そこに理屈はいらない。
自分の腕の中で小さく嫌々と首を振り許しを請うのは、
自分の妻であり、この国の女王だ。
それは神聖なる聖女を
この手で穢れた淫婦へと
貶める行為であるかのように感じてしまう。
自分を暗く貶め、
またその背徳の悦をもってどうしようもなく昂らせる。
アレックはロザリアの手首を戒め、
眦に涙を浮かべるロザリアに、容赦なく自身を穿つ。
その華奢な体に自身を刻みつけると、
ロザリアは嬌声を上げて果てた。
◇◇◇
(また……やってしまった……)
アレックは額に手を当てた。
ロザリアを前にすると、理性とか道徳とか知性とか、
そういったものが全て無効化されてしまう。
むき出しの本能が自分でも怖い。
(ロザリアはエロい)
華奢でエロくて、女王で、自分の好みのドストライクで……。
本当はだれよりも優しくしてやりたいのに、
彼女を前にすると余裕を失くして野獣と化して、
貪りつくしてしまう。
私は思春期のガキか。
大人の矜持とか、余裕とか、
相手に対する気遣いがあるだろう。
ロザリアは眦に涙を溜めて眠る。
っていうか途中で失神しちゃったっていうのが
正確なんだけど、華奢な体にまた無理を強いてしまったなと
アレックは自己嫌悪に陥る。
ロザリアをベッドに運びその額に口づけた。
今回の公務も激務だったと聞いている。
ただもう、申し訳なさが半端ない。
「ドSでごめんなさい」
アレックがそう呟くと、
眠っていると思っていたロザリアがアレックの腕を引き寄せた。
(狸寝入りだったか)
アレックが舌打ちした。
「アレックはドSでいいんですよ。
そんなあなたを好きな私は、きっとドМなんですから」
そういってシーツの中でロザリアが笑う。
ロザリアはアレックを抱きしめ、
その額に、瞼に、鼻先に口付けた。
そこには子を愛する母のような慈愛が込められている。
「聖母マリアみたい……だな」
ロザリアの腕の中で
幼子のように抱きしめられたアレックが呟いた。
この身に受けた傷も、孤独も、穢れた想いも、
すべてがその愛に包まれて浄化してしまう。
この世の温かなものの全てがこの腕の中にある。
神聖なるこの聖女を、
そもそも自分ごときが汚せるわけはないのだと
アレックは自嘲した。
(どんなに私が彼女を貪り尽くそうが、
変わらず無償の愛を注ぎ、
包んでくれるこの人は変わらず私の聖域だ)
そこに畏怖がある。
この愛に餓え、奪ってでも手に入れたいと思う欲望と、
このような穢れた私が触れてもいいのかという
畏れがいつも相反する。
そんな私の葛藤ですらものみ込んでこの人は微笑む。
差し出された彼女の薬指には、指輪が光る。
この国をその華奢な背に背負うこの国の女王であると同時に
この人が私の妻であることの証。
(ならば私は……)
アレックはロザリアの手を取り、その指輪に口付けた。
「我が女王陛下よ、全てはあなたの望みのままに。
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